対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く

授業内に「生徒が活動する場」を作る目的は、課題を与えて発動させた思考を「知識や発想の交換(対話)」で拡張させることと、生徒の頭でおきていることを把握するための「観察の窓」を開くことにあります。
沈思黙考という言葉もありますが、一人の頭で考え得ることには限界があり、それを超えていくには対話による思考の拡張が欠かせません。また、生徒一人ひとりの思考を言語化させてみないと、どこで躓き、何がわかっていないのかを観察を通じて把握することもできず、先に進ませるためにどんな手を打てば良いかの判断もつかなくなります。
授業内の活動性を高めることには、苦手意識の発生を抑える効果もありますが、活動を増やすことを目的にしては得るものは限定的。本稿のタイトルにした、「対話により思考の拡張を図り、観察の窓を開く」ことに十分な意識を向けて、授業内活動を設計・配列しましょう。

本稿の内容をChatGPTでイラストにしました。クリックで拡大します。

2018/08/10 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 教室での対話は、生徒同士の話し合いに限られない

対話的な学びというと、「生徒同士の話し合い、教え合い・学び合い」が真っ先に連想されますが、対話の相手は周囲の生徒に限られません。
先生の発問に対する生徒の発言を拾いあげ、次の問いに繋ぐことで実現する「先生との対話」の成否は、学びの成果を大きく左右します。別稿でも書いた通り、「問い掛けの多い授業が良い授業」ということです。
問われることで、思考は紡がれ、学びはより深く広いものになります。
また、問いを立てながら教科書や資料を読むことで行われる「テクストとの対話」は、巨人の肩に上り、遠くを見渡すために欠かせません。
問いに答えるために、情報を集め、知に編むことは、その能力を高める練習として不可欠。その様子を観察しないと、生徒がどこまで力をつけているか、次にどんな練習をさせるべきかもわかりません。
こうした様々な「対話」を経験させ、それぞれをきちんと振り返らせ、学びに再構成させることで、基礎力(言語、数量、情報の各スキル)や思考力(問題発見・解決力など)が高まり、学び方の獲得が進み、その積み重ねが自力で学び続けられる生徒に繋がります。

❏ 生徒同士の対話~解くべき課題を共有して

思考は、解くべき問いがあってこそ発動しますが、生徒同士の対話は、協働で解決しなければならない課題がなければ自己目的化します。議論の焦点にも欠け、学びを深めることにも繋がりません。
ただ話し合わせるだけでは、意見や考えを各自が言い合うだけで終わってしまい、学びを深め/思考の拡張を図る必要が生まれないからです。
自分たちで協力し合って答えを作り上げなければならないという状況こそが、持てる知識を総動員して解決を図り、対立する意見に落とし処を見つけようとする動機を与えます。
また、対話で得た気づきを携えて生徒一人ひとりが課題に立ち返る機会を作り、その答えの仕上げにじっくり取り組ませましょう。
グループで話し合ってその場が盛り上がっても、深く確かな学びが実現するとは限りません。フリーライダーも出てきてしまいます。

❏ 先生との対話~生徒の発言から次の問いに繋ぐ

前々段では「問い掛けが多い授業が良い授業」と書きましたが、先生方から一方的に問い掛けるばかりで、生徒の発言を拾いあげて次の問いに繋げなければ、思考を掘り下げ深める対話にはなりません。
別稿でも書いた通り、「発問で引き出した生徒の発言をどう扱うか」は授業者が身につけておくべき重要なスキルの一つだと思います。
思考の拡張と深化を図るには、生徒が導いた答えに対し、「どうしてそういう答えになった?」「別の考えを取らなかった理由は?」といった具合に、思考のプロセスに焦点を当てた問いで返すことが重要です。
この手の問いを投げ掛けられることを重ねる中で、生徒は自分の思考を先生が着目したのと同じ観点で捉えられるようになり、自らの学びを振り返るのも、より効果的に行えるようになっていくはずです。
普段の授業を振り返ってみたとき、先生からの問い掛けが一歩踏み込んで考えるきっかけになっているでしょうか。こうした問い返しには、その場の思考を深めるだけでなく、生徒が自分自身の思考を点検し、問い直す力を獲得するための学習機会としての意味もあります。

❏ テクストとの対話~巨人の肩の上に立つ

現行課程では以前に増して「読んで理解したことをもとに考え、表現する力」が強く求められ、入試等でも試されることが増えています。
単元内容を先生が丁寧に説明して理解させるだけでは、その力は育ちません。解くべき課題を与えた上で、解決に必要な知識や理解、考え方を教科書や資料に当たって自力で獲得させることの繰り返しが必要です。
ただ読ませても、「表層(字面)を浚っただけの理解」に止まってしまいます。与えられた眼前の課題を解決するという目的を持たせてテクストに当たらせてこそ、深く考えながら読むことが促されます。
別稿でも申し上げた通り、授業準備に取り組ませるタスクを的確に設定すれば、予習などの個人ワークにも目的意識が持ち込まれ、授業では教室でしかできない活動(対話など)の充実が図れます。
テクストを読み、問いに答えることの先には、「どうしてこう言えるのか」「この条件/パラメータが違ったらどうなるか」など、問いを立てながら読むことも求めましょう。問いを立てることは、思考することであり、こうした習慣の獲得は、生徒の思考力をさらに伸ばすはずです。

❏ 観察の窓~思考力を鍛えるなら思考過程の観察を

以前の記事で書いた通り、「活動させるのは観察のため」です。黙っている生徒の顔をいくら覗き込んでも、頭の中は見えてきません。
如上の3つの対話のうち、生徒同士の対話や先生との問答は、生徒が自分の考えを言葉にして発しているわけですから、生徒の頭の中で何が起きているか、どこで躓いているかを把握する絶好の機会です。
期待通りの答えが返ってきたか、真面目に話し合いに取り組んでいるかではなく、どのように思考しているかに注意を向けましょう。
テクストとの対話でも、教科書や資料のどこを見ているか、読みながらどんな行動を取っているかに着目すれば、自力で不明を解消する方策と習慣をどこまで身につけているか把握することができるはずです。
■ご参考記事:

  1. 自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手”
  2. 活動性が苦手意識を抑制する機能とその限界
  3. 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)
  4. 対話によって学びはどこまで深まったか
  5. プレゼンテーション力より質問力
  6. 学びを軸にICT活用を考える(全3編:伝達、調査、対話)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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