授業立案の手順~初期値を捉え、学びの地図を描く

授業を設計するとき、どうしても「本時で何を理解させるか」「どんな結論に導くか」から考えることになりがちです。もちろん、到達させたい理解を明確にすることは不可欠ですが、そこから逆算するだけでは、学びが十分に立ち上がらない/進まないことがあります。
効果的な授業を成立させるには、以下の3つは外せない大前提です。

  • 学習者の初期値を正しく捉え、学びの起点を正しく設ける。
  • これから学ぶことを「自分事」にさせる仕掛けを講じる。
  • 学びが進む中で、生徒の理解や認識をこまめに捉え直す。

この記事の内容をChatGPTでイラストにしました。クリックで拡大します。

生徒が何を知っているか、何を気にしているか、対象をどう認識しているかを捉えるところから始める必要があるのは、別稿「学びの初期値を計測~授業デザインと効果測定のために」で申し上げた通りです。
また、これから学ぶことを「自分事」にさせる(=学ぶことへの自分の理由を持たせる)ことも大切です。他人事では学びに力も入りません。
別稿でお伝えしたように、解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝えるのが汎用性の高い方法ですが、それぞれが身の回りに感じている「問題」を言葉にさせ、周囲とシェアさせてみるのも効果的です。
起点をきちんと設けて学びを進めていく中でも、目指す理解への到達には幾つもの段階を経るもの。その都度、生徒がどの地点にいるかを把握しないと、途中で置いてきぼりです。問いの分割/スモールステップ化とこまめな発問で、個々の生徒の現在位置を常に捉えましょう。

❏ 知っていることの分布で「初期値」を探る

学びの初期値を捉えるのに「わからないことはありませんか」と尋ねてみても、有効とは言えません。知らないことの所在は本人にわかりようもなく、不理解の正体を言語化するのも容易ではないからです。
まずは「知っていること、気になっていること」を挙げさせましょう。対象について「生徒がどんな言葉を持ち、どの範囲まで意識が及んでいるか」を表出させて捉えるのは、学びの起点を定めるのに不可欠です。
ここで着目すべきは「どんな言葉が出てきたか」。出てきた発言を、多くの生徒が挙げたこと、一部の生徒が挙げたことに分けてみると、「クラス全体の認識の分布」が見えてきます。この外に、あって然るべきなのに出てこなかったものもあるはず。気づかせる一手が必要でしょう。
多くの生徒が既に知っていることは授業の「足場」になります。一部の生徒しか挙げないことや、ほとんど出てこなかったことは、投げかけ直して、クラスの反応を探ってみましょう。言語化できるレベルでなくても何らかの問題意識を持っていれば、別の発言に繋がってきます。
こうしたやり取りの中で、初期状態における「対象への生徒の認識」を探ってみることで、「どんな資料を与えるか」「どんな問いで学びに焦点を当てるか」といった作戦が立つようになります。
大方予想がついている場面では、その日の授業の冒頭で「何を知っている?どう考えている?」を尋ねるのでも十分でしょうが、予想がつかない場合は、前の授業の終わりに把握してからの授業準備が必要です。
初期値を探るのを怠ると、授業の設計(何を足場に、どう学ばせていくか)も勘頼み。見込み違いで、十分な成果を得られなくなります。

❏ 身の回りに感じる「問題」を言葉にさせる

これから学ぶことを自分事にさせるには、「あるべき姿」を問うより、生徒の身の回りにある「解決すべき問題」の存在に気づかせるところから入っていく方がはるかに効果的です。
最初から「どうあるべきか」「何が望ましいか」を問えば、生徒は手掛かりも不十分な中で「正解らしい答え」を探しがち。望ましい状態を考えさせる前に「なぜ、それを考える必要があるのか」が生徒の中に立ち上がらなければ、思考も議論も表面的なもので終わってしまいます。
自分の生活の中で見聞きしたこと、ニュースで知ったこと、友人の発言を聞いて気になったこと――そうした身近な問題を入口にすれば、これから学ぶこととの接点が作れます。
全員が最初から明確な問題意識を持っている必要はありません。誰かの発言に触れて「言われてみれば確かに…」というのもありがち。自分事化は、個人の内側だけでなく、教室での共有からも生まれます。
授業者の役割は、生徒の言葉を拾い、本時の学びに繋げること。身の回りにある問題を入口に「だから今日の学びが必要になる」という道筋を作り、生徒が学ぶことへの自分の理由を持てるように導きましょう。

❏ 出てきた言葉を整理して「学びの地図」に整える

初期値を捉えるための問いに対して、生徒から出てきた発言は、先生方にも貴重な気づきになりますが、そのまま並べていても活かせません。本時の学びのゴールに向かって、生徒にどう歩みを進ませていくか、授業の展開に活かす「地図」に整えていきましょう。
板書を使って、生徒の発言を整理してみるのが好適。(この場面では、情報の整理・構造化のやり方を板書で学ばせることも目的の一つです)
前時の終わりに集めておいた「生徒の発言」を、先生が職員室で整理して、まとめた結果だけを示すのでは不十分。別稿「スライドや板書案を作り込んでおくだけでは…」で書いたことと通底しますが、あくまでも生徒の目の前で、問い掛けながら整理していくようにしましょう。
似ているものをまとめる。対比が見えるように並べる。繋がりがありそうなものを線で結ぶ。まだよくわからないものは、そのまま「これから確かめること」として残しておく。こうした整理を通して、これから学んでいくことの「地図」が出来上がっていくはずです。
ここで行っているのは、生徒の発言を「何が見えているか」「何がまだ見えていないか」「次に何を確かめるべきか」に分類して、相互に関連づけながら配置・構造化すること。先生方が予め用意したフレームに、生徒の言葉を落とし込んでいくことではありません。

❏ フェイズを進めるたびに生徒の現在位置を捉え直す

起点をきちんと設けて学びをスタートさせても、目指す理解に一足飛びに到達できるわけではなく、いくつもの段階を踏むことになります。
段階を経るということは、その都度、生徒がどこまで進んだかを確かめる必要があるということです。最初の問い掛けで捉えた「初期値」を想定したまま、修正なしに授業を進めてしまっては、途中で生徒がどこまでついてきているのか、先生方にも見えなくなってしまうかも。
一つのフェイズを経るたびに積み上がる気づきは、生徒によって様々。同じ発問、同じ活動を経験しても、そこから何を掴むかは一人ひとり違うはず。グループワークを挟んでいれば、さらに差は開くでしょう。
こまめな発問、短い記述、板書上での整理――こうした小さな仕掛けを重ねながら、生徒の理解や認識を随時捉え直していきましょう。生徒の現在地が見える形で表出させることが、ここでのポイントです。
見えてきたズレやつまずきに応じて、資料を追加する、問いをさらに小さく分割する、これまでの整理をもう一度組み直す、といった手立てを講じましょう。手前で立てた見通し通りに進まないのが普通です。
問いの分割やスモールステップ化は、活動を細切れにするためのものではありません。生徒の現在位置を確かめながら、着実に歩みを進めさせるための手立てである、と捉えた方が上手に使えると思います。

❏ 資料は「足りない認識」を補うために使う

初期値を踏まえて「学びの地図」を作っていくと、クラスの生徒にとって「何が見えていて、何が見えていないか」が浮かび上がってきます。この「見えていない部分」こそ、資料や事例を投じるべき場所です。
資料は、説明を補強するためだけに使うものではありません。生徒の認識を広げ、気づきを与えるために使ってこそ効果的なことも多々。資料で新たに知ったことから、次の問いが生まれるのも普通でしょう。
各単元の学びで形成する「知識・理解」のゴールが同じであっても、初期値が違えば、途中で触れさせるべき資料や、考えさせるべき問いも違って当然。クラスの生徒の「現在の立ち位置(=学びの対象への認識とスタンス)」を捉えることで、効果的な資料の選択と活用が可能です。
こうした資料付与などの「作戦立案」には、授業内の限られた時間で行う「その場での対応」だけでは少々無理がありそうです。数コマの授業を跨いだ、単元指導計画[初期値把握→授業準備(問いと資料)→教室での学びの展開]を考えることで、実現を図りましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一