2020/10/21 公開の記事をアップデートしました。
❏ 問いを立てさせる前に、学習範囲をしっかり読ませる
本時の学習範囲の中に問いを立てるという活動に取り組ませるに際し、先行してきちんと行うべきは、教科書や関連資料(副教材やプリント)を生徒自身にじっくりと読ませることです。
書かれていること(=紙面に文字として表現されていること)すら把握しない段階で問いを立ててみたところで、「いや、それは書いてあるよね」と突っ込まれるような表層的なものになってしまいます。
所与の情報を正しく理解してもなお、解明されずに残った疑問こそが、答えを探すべき問いであるのは、探究活動の場合と同じでしょう。
書かれていることはだいたい分かった、だけど何かスッキリしないところ(モヤモヤ、疑問)が残るという状態に到達したときこそが、問いを立てるタスクに進ませる好適なタイミングです。
まだ明確にできていない疑問や不明を掘り下げて、他者と共有できるように言語化してみることが「問いを立てる」ということだと思います。
❏ 理解の途上で生まれたモヤモヤを言語化する
何か疑問や違和感を感じても、それがうまく言葉にできないことは日常生活の中でもありますが、それは疑問の正体が掴めていないからです。
疑問をちゃんとした言葉にする(=問いに仕上げる)というタスクは、自分が何に対してどういう違和感を持ったのか突き詰めていく「自分との対話」にほかなりません。
疑問の正体を明かそうとする生徒はテクストや資料に立ち戻りますが、その中で教材の理解はさらに進みますし、その中で新たな疑問を見つけることもあるはず。学びはどんどん深まります。
そうこうしているうちに、疑問を言語化する(問いにする)前に、「答え」を先に見つけてしまうことも多々ありますが、答えを見つけたことで疑問が何であったか、正体を特定できたということでしょう。
問いを立てて解決する活動が自己完結したことになりますが、それはそれで良しです。既に教材の理解は、疑問という焦点を当てた(=サーチライトを向けた)部分を中心に、かなり深まっているはずです。
❏ 立てた問いをシェアして、より多角的に教材を理解
如上のモヤモヤを感じる箇所は、生徒によって異なります。本当はわかっていないのに、疑問を抱き損ねていることも少なくありません。
他の生徒やグループが立てた問いには、自分とは違うところに焦点を当てたものが含まれるはず。各々の生徒/グループが立てた問いをシェアすることで、教材を掘り下げる視点を多角的に持たせましょう。
順番に全員/全グループが発表していくのは、上手な時間の使い方ではないかも…。提出させた問いから面白そうな(=より深い学びになり得る)ものを先生がピックアップして、シェアするのが効率的でしょう。
自分(たち)が作ったものが選び出されたという体験は、誇らしさや喜びとして次のモチベーションにもなります。逆に、仕上げきれなかった半端なものを公開されても、心地よい体験ではないと思います。
ちなみに、紙のワークシートでは回収、返却の手間も増え、管理も面倒です。環境が揃っているならICTを活用して効率化を図りましょう。
❏ 正解に解説を加えさせたり、採点基準を考えさせたり…
生徒に問いを立てさせるとき、解答例とその解説も起草させてみるのも好適です。解説の起草には、答えの根拠や正解に至る工程を明確にする必要がありますので、根拠を持った思考の練習にもなります。
個々に考えたもの(解答例と解説案)を持ち寄り、グループ内で比較すれば、自分の発想に欠けていたところ、見落としていたところに気づく機会となり、思考の拡充が図られる中、学びは一層深くなります。
論述タイプの問題の場合は、解答例よりも、採点基準を考えさせてみるのが好適です。正解として認められるにはどんな要件を満たす必要があるかを考え、明文化を試みる中で整理が進む部分も小さくありません。
以前に参観した数学の授業では、解答例に加えて、誤答として出現が予想されるものを添えるというアレンジを見かけたことがあります。
誤答を予測するには、さまざまな解法や考え方を想定した上で、ポイントになる箇所でどんな誤解やミスが生じるか(=どこに注意して解くべきか)を考えなければならず、かなり難度の高いタスクだと思いましたが、生徒は面白がって取り組んでいました。
❏ 問いを立てることは出題者の意図を学ぶ機会
生徒に問いを立てさせることの第一の目的は、教材との対話を重ねさせて、深い関りを持たせることにありますが、出題者の目線に立つことを経験させることにも小さからぬ意義があると思います。
出題者の視点で教材に向き合ってみると、どんなスタンスでその単元/内容を学んでいくべきかに改めて気づくことも多いはず。そこで得た気づきは、その後の学びに方向性を与えてくれるのではないでしょうか。
ちょっと特殊なケースかもしれませんが、志望校別の対策講習の中、息抜きも兼ねてか、「○○大学の出題を予想して問題を作ろう」といったアクティビティを組み込んでいた先生がいらっしゃいました。
大学がどんな視点で問題を作っているか、過去問から想像し、その大学がどういう力を備えた学生を求めているか(=アドミッション・ポリシー)を考えてみることは、進学後の学びへの備えにもなりそうです。
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蛇足ながら、模試問題の出題で最も苦労したことの一つは誤肢(誤りの選択肢)の作成です。関連のある別の語句を埋め込んだり、否定と肯定を入れ替えたりといった細工だけでは、気の利いた誤肢は作れません。
問いを活かすも殺すも、選択肢しだい。解答者の思考をシミュレーションしないで作った選択肢は、設問そのものをつまらなくします。
大学別模試の場合は、アドミッション・ポリシーに沿った出題方針に加えて、採点基準にも大学独自の視点があります。
得点開示で得た情報と再現答案を照らし合わせて採点基準を推測するしかないのですが、この工程を端折っては、大学が求める学力を捉え損ねてしまい、対策指導の主眼を間違えるリスクを抱え込みます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>2015/08/26 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 問いを立てること、イコール教材に深く関わること
どれだけ練られた良問であろうと、他人が作った問いでは、答えを導き出すことに意義を見出せないこともあります。「それが何なの?」との認識では、調べたり考えたりするのも面倒に感じるかもしれません。
問いに食いつかず、「正解は何?」「答えを覚えればいいんでしょ?」という姿勢を生徒が示したとしても、無理からぬものを感じます。
他方、文章や資料を読み、その中に自ら疑問を見つけ、問いに起こしたら、生徒の意識(教材への関わり)は大きく変わります。その疑問を解消することは、まさに「自分事」。解消への意欲も膨らむはずです。
問いを立てようとすることそのものも、思考を深める好機です。「背景に何があるのか、根拠は何か、なぜこの言葉を使ったのか」を意識しながら読めるようになれば、書き手との対話もより深いものになります。
読みを深めていけば、自ずと新たな気づき/見落としていたことの発見があり、その積み重ねは、教材により大きな面白さを与えていきます。
❏ 問いを立てることで、学びは広く、より深いものに
上例からは、国語や英語といった言語系教科での学びを想像されるかもしれませんが、どの教科を学ぶときも同じです。当たり前のように書かれていることにも、「なぜ?」「どういうこと?」を問わせましょう。
書かれていること/聞かされたことに対して、「なぜそう言えるのか」「この記述が加えられている意味は何か」といったことを考えてこそ、学びは表層に止まらない、より深いものになるのだと思います。
矛盾を見つけ、それに対処する力(cf. PISAが測定する「読解力」)や、複数の資料に当たり、双方の主張や記述を比較する中でより合理的な結論や解を導きだす力も、「問いを立てる力」が土台です。
たとえ教科書に書かれているようなことでも、鵜呑みにせず一つひとつ事実を確かめていく姿勢(ファクトフルネス)も、読んで理解したことの中に問いを立ててみる習慣の中で獲得していくものだと思います。
❏ 記述されていないことを見つけ、裏付けを取る
教科書やプリントの資料は、別稿の通り、生徒自身にきちんと読ませることが大切ですが、紙面に明示されていない(記述されていない)ことが隠れていることに気づかせることにも注力しましょう。
教科書は、ページ数の制限もあり、大胆に情報を削り落とした(簡潔に過ぎる)書き方になっている箇所が少なくありません。
太字(ゴシック体)で書かれたことでも、十分な説明は添えられていないことが多いはず。そのまま先に進んでは、「用語を知った」だけで、その内容を深く理解するところには達しないはずです。
信頼できるソースに当たって、書かれていない情報を集め、周辺の事実を調べてみる中で、そうした習慣と方法を学ぶにも「これってどういうこと?」との疑問を自ら持てるようになっていることが前提です。
質問をしたり、参考図書などを使って調べたりする姿勢を育むにも、起点となる指導のひとつは「問いを立てさせること」にあると思います。
なお、調べたことを簡潔にまとめ、班やクラスでシェアすることを求めれば、プレゼンのスキル向上も期待できますし、調べ方やまとめ方を、生徒が互いの工夫から学ぶ「相互啓発」も働き始めます。
❏ 早い時期から積ませたい「問いを立てる練習」
書かれたものに思考を加えず(=問いを立てず)に目を通しただけで、分かった気になっていては読みは深まりません。これでは「正しく読めた/ちゃんと理解した」という手応え/達成感も希薄なはずです。
達成感は、次に向けたモチベーションや挑戦欲の原資であり、それが弱いということは、読むことに対する意欲や姿勢も強まらず、学習行動も改善に向かわないのではないでしょうか。
問いを立てることを早いうちから練習させることは、学びに向かう姿勢の改善と向上を図らせる上でも欠かせないこととお考え下さい。
最初の内は、ろくな問いが立てられない生徒も多いはずですが、練習を繰り返す中で勘所を掴んだり、他の生徒た立てた問いに触発される中で徐々に問いの立て方を学んだりしていくものです。
先生方が説明してくれることを聴いて理解するだけの学びより、はるかに高度なタスクを課すことになりますが、早いうちからその方法と習慣を学ばせれば、その後の学びはより実りの大きなものになりそうです。
また、続編で触れる通り、問いを立ててみる練習は、出題者の意図を読み取る力を高める「受験対策」としても有効ですが、やり始めてすぐにできるわけではありません。一定期間に亘り、計画的に練習を重ねさせる必要がありますので、スタートは早めに切るのがお奨めです。
❏ 問いを立てる力は、対話的な学びにも欠かせぬ土台
問いを立てることは、主体的な学びの土台になると同時に、対話的な学びをより高い次元で実現するにも欠かせないものとなります。
対話的な学びは、相手の発言や主張に耳を傾け、その理解の上に次の議論を構築していくプロセスです。聴くと読むの違いはあれど、理解した中に未解決の問題を見つけるところから始まるのは同じでしょう。
見聞きしたことを鵜呑みにしていては、その後の対話は生まれません。「なぜそう考えるのか」「触れていないここはどう捉えているのか」という問いがあってこそ、実りのある対話が生まれます。
課題の解決に協働で取り組むにも、参加者の一人ひとりが、課題とそれを取り巻く諸条件を正しく理解し、その中に問題を見つけだす(=問いを立てる)力を備えていることが肝要です。
この土台を作るための指導の重要な部分は、教科書をきちんと読ませることと、生徒に問いを立てさせることにあるのではないでしょうか。
蛇足ながら、論述式の答案作りでは、「採点者との対話」も重要になりますが、自分が書いたものに客観的な視点で問いを立てる/ツッコミを入れる力が、より良い(合格)答案作りを支えるはずです。
生徒に問いを立てさせる(続編)
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>こうした事態を招いた背景には、日々の教室で「教科書をきちんと読ませる」ことが十分にできていなかったことがあろうかと思います。
2017/01/24 公開の記事をアップデートしました。
❏ 日々の学習の中で、教科書をきちんと読ませているか
学校の教室を訪ねて授業を参観していると、教科書とは別にプリント/ワークシートが用意され、先生が丁寧に説明を重ねながら、その空所を埋めていく場面をよく目にします。
プリントを使っていないケースでも、教科書や副教材、資料などに書かれていることを、先生が解説をしながら板書をして、生徒はそれを一生懸命にノートに書き写しているだけというのも少なくありません。
こうしたやり方(教え方)ばかりでは、生徒は教科書などを自力で通読し、書かれていることを理解する必要に迫られることもなく、そうした力を身に付けるためのトレーニングも行われていないことになります。
実際、生徒の手元を覗いてみると、教科書はずっと机上に閉じられたまま。3学期になっても参照型副教材に使い込まれた形跡が見られなかったりもします。授業以外でも教材を読んでいないということでしょう。
その結果が、冒頭に引用した「中高生の半数近くが検定教科書を正確に理解できない」という事態であれば、丁寧に説明して理解させる従来のアプローチから離れ、学ばせ方の転換を図る必要があるはずです。
❏ 不用意な肩代わりが、読解力を養う機会を生徒から奪う
読解とは、文章などの連続型テキストや、図表などで与えられた非連続型テキストから、必要な情報を拾い上げ、関連付けていくことです。
そのプロセスを生徒自身が体験していく中でしか、読解力は身につきません。先生方が不用意に肩代わりをしないことにこそ留意しましょう。
新しい単元を学ばせるときには、まずは教科書の該当ページを開かせ、生徒にきちんと読ませるところからスタートするのが好適です。
そもそも、教科書は「生徒が読んで理解できる」ように書かれているはず。読めない生徒がいるなら読めるようにさせるべきでしょう。もし読めないまま卒業させたら、後で困るのは生徒本人に他なりません。
生徒が卒業するまでは、丁寧に教えてあげることも、難しいところを肩代わりしてあげることもできますが、卒業と同時に「じゃあ、あとは頑張って」では、生徒も困ってしまいます。
そもそも、やらせてあげなければ、生徒は「自分が読めていない(=読解力がない)」ことすら気づけないかも。鍛錬の必要性にすら気づかずに過ごさせては、一大事ではないでしょうか。
❏ 教科書を読ませるときのアプローチ3つ
教科書を読ませるといっても、ただ「〇〇ページまで読みなさい」と指示をしただけでは、生徒は行に沿って視点を移動させるばかりで、焦点を持った読みにはならず、読解力の向上も大きく期待できません。
有効な(深く考えながら、必要な情報をきちんと集める)読みを促すには、指示の出し方にひと工夫が必要です。
広く用いることができる方法には、以下の3つがあろうかと思います。
問いを与えて、その答えを作ることを目指して読ませる
読むという活動に取り組ませる前に、「教科書や資料の該当箇所を読んで理解すれば答えられる問い」を提示しておきましょう。
答えを作り上げる必要が、必要な情報を探し、問いが求めるものに編むことを促します。読みにも焦点が生まれ、思考も深まります。
近年の入試では「学習型問題」もよく見かけるようになりましたが、その対策としても効果を上げるのではないでしょうか。
音読をしてから、問いを与え、重要なポイントを拾わせる
生徒が「教科書を読む」ことに不慣れで、黙読がきちんとできない状態にあるときは、一斉読みでの音読をワンステップ挟むのもお奨めです。
別稿「声に出して教科書を読むことの効能」でも書いた通り、声に出すことで、一字一句に意識を向けることができるのもメリットです。
音読を終えた後に、先生から一問一答式/求答式の問いを投げかけ、読んだ範囲から答えを拾い上げさせるタスクを課せば、重要なポイントの拾い上げもスムーズに進むはずです。
ある程度の読解力がついたら「問いを立てる」タスクを
やや高度なタスクになりますが、クラスの生徒の読解力がある程度まで上がってきたら、「読んだ中に問いを立てる」ことを求めましょう。
21世紀型能力の「思考力」を構成する要素に「問題発見力」がありますが、読んだことを鵜呑みにするのではなく、疑問や情報の不足を見つけて、掘り下げていく力も「生きる力」としては重要なはずです。
PISAが測定する「読解力」にも、2018年調査以降、「質と信ぴょう性を評価する」と「矛盾を見つけて対処する」という要素が含まれており、こうしたトレーニングも意識的に積ませていきたいところです。
授業を終えるときに、改めて教科書やノートを見返して、その中に質問を探させる/疑問を見つけることも、学びを深め、広げるには有効な手段ですが、読解力の向上が主眼なら、こうした活動は学ぶ前に配列するのが効果的です。(cf. 質問を引き出す~学びを深め、広げるために)
❏ 読んで理解することをあらゆる場面で求める
生徒が読んで理解しなければならないものは、至る所に存在します。それらについても自力で読むことをきちんと求めていきましょう。
イラストで表現されたもの、グラフなどで示されたデータなども、先生方が解説するだけでは、生徒は読む力を自らの内に育めません。
教科書や問題集に掲載されている「解答例」だって、誰かの説明を受けることなく、自力で理解できるようになる必要があるはずです。
また、そうした「知のソース」へのアクセスにも習熟させないと、「与えられたものは理解できても、信頼できるソースに当たり、必要な情報を集め、知に編む」という力は身につきません。
先生方が、日々の知的活動の中で触れているソースには、生徒も頻繁に接触させ、必要なガイドを加えながら、読んで得たものを活用できるように導いていきましょう。
先生方にできることは、生徒もやがてはできるようにならないはず。未来を拓く力は、知を編む力の上にこそ成り立つのだと思います。
❏ 読んで理解できる力を評価する機会も確保
何らかの力を養おうとして指導を展開したら、その効果をきちんと測る(評価する)必要があるのは言うまでもありません。
評価は、生徒一人ひとりのさらなる成長(より良いパフォーマンスへの接近)のための課題を見つける機会であり、先生方の指導がどこまで成果を得ているかを確かめるために行うものです。
一定の期間に亘って「教科書をきちんと読ませる」ことに取り組んだ成果を、定量的に捉える機会を指導計画の中に適切に設けましょう。
前述の「問いを与えて教科書を読ませる」というタスクに対する、正解要件の充足率の変化なども、効果測定の材料になり得るはずです。
定期考査でも、初見のテクストを題材に用いたり、学習型問題の要素を備えた出題を混ぜたりする工夫を、怠らずに重ねたいところです。
教えたことをどれだけ覚えたかを試すだけの出題では、「自力で読み解き、知識を体系づけて、内容を理解する力」は測定できません。
単元で学んだことの体系化に挑ませるタスクの出来栄えからも、情報を集めて知に編む力の獲得を推察できるのではないでしょうか。
読んで理解する力は、必要に応じて知の地平を押し広げていくのに不可欠なもの。時代の変化に合わせて知識をアップデートしていくのにも欠かせません。
そうした力を十分に高めておけば、限られた授業時間を有効に使うことも容易になるはず。計画的、段階的な指導を重ねましょう。
説明すべきところは丁寧に説明すべきですし、プリントでの拡充や整理を否定するものではありませんが、生徒が自力で教科書や資料集、参考書を読んで理解すべき場面を不要に奪わないようにしましょう。
例題などの解説も、基本的には先生は解説せず、生徒自身に読ませて理解させるというケースもありました。わからないところは、周囲で教え合うことでクリアさせた方が、学ぶ力は大きく伸びそうです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>❏ 生徒が個人でできることを、指導を通して増やしていく
生徒が個人でできることを、教室内での授業から切り離すには、そうしたタスク/学びに生徒が取り組める状態を作っておくことが大前提。
教科書や資料を読んで、その中から必要な情報を集め、知に編んでいく力をまだ身に付けていない(=そうした練習を十分に重ねていない)状態で、教室での対話に備えた授業準備を求めても上手くは回りません。
入学の段階から「教科書をきちんと読ませる」「参照型教材を徹底して使い倒す」ことを重ねる中で、そうした力を育んでおき、教室から切り離せる部分を段階的に大きくしていく、計画的な事前指導が必要です。
教科書を読ませるにも、ただ「〇〇ページまで読んできなさい」と指示するだけでは、如上の力は効果的に育めません。
該当箇所を読んで答えを導くべき問いを与えてこそ、「必要な情報を集めること」「答えを導くための知に編むこと」の練習になるはずです。
トレーニングの途上/最初のうちは「教えた方が早い」という状態が予想されますが、ここで我慢してこそ学習者としての自立に向かえます。
与えた問いに答えを作ってくることに代えて、読んだ中に問いを立てたり、学んだことをまとめたりといったタスクを与えれば、他にも以下のような様々な「学ぶ力」を生徒は身に付けられるはずです。
❏ 前年度までの/他教科での学びをきちんと踏まえる
入学前を含めたこれまでの学びで生徒が学んできたことをしっかりと踏まえておかないと、無駄な重ね塗りで授業時間を浪費します。
他校種(高校の先生なら中学や小学校)の教科書を手に取ってその中身をみてみると、「こんなところまで学んでいるのか」と驚くことも少なくないかと思います。他教科の教科書も同様です。
すべての教科を跨いだ「学習内容の配列」をある程度は踏まえた上で、担当する科目の学びをデザイン/計画していきたいところです。同じ事象にも他教科には違うアプローチがみられたりします。
教科書に書かれているからと言って、すべての生徒がそれらをきちんと学んでいる(小中/他教科の先生がしっかり学ばせた)との保証はありませんが、先の学びの土台になり得る部分はあるはずです。
新しい単元に入るときに、既習が見込める内容に関する「理解の分布」は把握しておき、無駄な繰り返しで時間をロスしたり、肝心なところを飛ばしたりしてしまう事態は、できるだけ避けたいところです。
クラウドでのミニテスト(自動採点)などを前時の終わりに課して、その結果を踏まえて次の授業の設計に修正を加えることも可能です。生徒にとっても「テストに答える」ことは再記銘の機会になりますし、次の単元の学びへのイントロにもなろうかと思います。
また、これまでの学習履歴の中で生徒が身に付けているものは、科目/単元固有の知識や理解に限りません。様々な学び方(対話、協働、探究などのスキルや姿勢)も獲得しているはずです。
様々な学習活動を課し、生徒の取り組みを観察しながら、生徒が身に付けているものを捉えるようにしましょう。相互参観なども機に、ご自身が教えている場面以外での生徒の学び方を観察するのもお奨めです。
❏ その後の学びでの「拡張」を見据えて、学びを精選
先生方はご自身が担当する科目の中でしか、生徒に学ばせることはできませんが、生徒はそれ以外の場でも様々な学びを重ねて行きます。担当科目で教えずとも、学びのチャンスは他にもあるということです。
各科目の学びの中で見いだした興味は、総合的な探究の時間などでさらに深めたり、押し広げていくこともできるでしょうし、やる気と力に余裕のある生徒に課す「任意のチャレンジ課題」もその機会になります。
受験期には様々な過去問にも触れますし、大学進学後や社会に出てから学べることもあります。科目の履修期間ですべての学びを完結させずとも、大切なところに関心を持たせ(=自分事としての関わりを認識させる)、学びのスキームを身に付けさせれば、学びはきちんと続くはず。
スキームへの習熟には一定の練習を重ねる必要がありますが、過度な繰り返しは効率的とは言えません。学びを先に進められる状態に生徒を導いたら、上手に手を放して、その後の学びは生徒に委ねていくという発想/考え方も大切ではないでしょうか。
近年の入試では、知識の有無より、所与の情報から正しく考えられるかに焦点が移ってきており、このアプローチは従前より有効なはずです。
❏ 学習の内容と活動を精選するときの着眼点
しっかりと焦点を当て、科目の中で深く学ばせたいことはいくらでもあるでしょうが、その中にも優先順位をつけて、精選していきましょう。
その内容(単元、項目)を学ぶことを手段に、どのような能力や資質、考え方(教科固有のものの捉え方)を身に付けられるかを見極め、複数の単元で同じ学びが得られるチャンスがあるなら、一方に重きをおき、他方は軽く扱う/任意課題に止めるといった判断も合理的です。
早い(配列上先に来る)単元で、無理に学びを進めても、レディネスの不足で十分な成果が得られないこともあります。その場合、学びが進んだところで改めて学習の機会を作ってあげた方が効率的でしょう。
別稿の通り、カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計するものですが、横方向に並ぶ各列に十分な学習活動が配列され、十分な涵養が見込めそうなら、それ以上に学びを厚くしなくても良いかと思います。
マトリクスにおける、縦方向での過度な重複を取り除くことで、履修期間を通した学びのバランスを取っていくことにも意識を向けましょう。
❏ 授業時間から切り出し得るものを改めて洗い出す
学ばせる内容が減らない中、様々な能力や資質を獲得させていくには、限られた時間しかない教室での学びから、切り外せるものを上手に選び出していく必要があるのは、改めて申し上げるまでもありません。
授業準備や授業後の学びの仕上げに、きちんと取り組めるだけのレディネスを生徒に備えさせ、効果的な学び(=適切なタスク群)を授業外に配列してあげることはその第一歩でしょう。
特定の進路希望を持つ生徒には重要でも、他の生徒にはさほど優先度が高くないことなら、補習や講習に学びの場を切り出すのも好適かと。
クラス全員の生徒を対象とする教室での授業に、こうした部分が残っていないか点検を怠らないようにすることで、指導計画に余計な膨らみを作らないようにしましょう。一つひとつ学びにじっくりと取り組める状態を作ってあげることが、より深く確かな学びを実現します。
■関連記事:
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>❏ 体験に根差した明確な志望理由を持っているか
進路希望調査を行い、志望上位の大学(学部)について志望理由を質したときに、選択に至るまでのプロセスに不十分なところがないか、対話の中で掘り下げて確かめる必要があるのは、別稿でも書いた通りです。
何をきっかけに興味を持ち、それをどのように広げ、掘り下げてきたかを「体験」に基づいて語れないようでは、志望理由は十分な根っこを持ちません。「自分への向き合い」も不十分な可能性が高そうです。
起点となる興味は、日々の教科学習や、様々な体験的な学びの中にあろうかと思いますが、それを深めて「自分のあり方、生き方」と結びつける活動は、探究学習や進路指導の中にこそあるはずです。
なぜ、その学部を志望するのか、どうして(他大学ではなく)その大学なのかを訪ねた時に、きちんとした(=他者も得心させられるだけの)理由を、生徒は自分の言葉で表現できているでしょうか。
不足するところが見て取れるなら、これまでの「進路意識を形成する指導」に不足があったことを反省しつつ、本格的な受験期を迎えるまでに改めて自分の未来に向き合わせていく必要があろうかと思います。
❏ 選んだことは、本当にやりたいことか(自分を知る)
進路意識形成までのプロセスをきちんと踏んで選んだはずの進路であっても、何かの折に「これって本当に自分がやりたいことなのか」と疑念のようなものが心の内に芽生えてくることも少なくありません。
選択したものが「自分にとっての正解」かどうかは、当人の志向や資質と、選択の先に広がる世界のマッチングによって決まるもの。万人が称賛するような立派な選択でも、合わない人には正解になり得ません。
後になってこうしたミスマッチに気づき、選択の結果に向き合えなくなるのは、自分の志向や資質を十分に見極めようとしないまま、世間の間尺で進路(将来の夢や目標)を選ぼうとしてきたからかもしれません。
自分を知る=自分は何が好きで、どういったことに頑張れるのかを知るには、選り好みせず様々なことにチャレンジしながら、それらに自分がどうレスポンスをするのかを少しずつ知っていくしかありません。
学校がプログラムを整えた体験と学びの場は、自分を知る貴重な機会。仮に関心が持てなさそうなことでも、先ずはきちんと取り組んでみないことには、自分が何にどう反応するかは分からないままです。
他人の体験記をいくら読んでみたところで、その場に置かれた自分がどう反応するかは想像の域を出ず、自信をもって「ここが私のいるべき場所」とは思えないのではないでしょうか。
ただ体験だけを積み上げても、生徒の内省は深まりませんし、思いもよらなかった自分が活動の中にいたとしても、それを見過ごしてしまうこともあります。きちんと振り返りをさせ、自分に向き合わせましょう。
❏ これまでの体験と学びを振り返り、改めて自分を知る
自分を知るための機会は、小中学校で生徒が取り組んできた体験的で横断的な学び(総合的な学習の時間や体験行事など)、日々の授業の中で重ねてきたPBLや探究活動などの中にも豊富にあったはずです。
そうした時間を漫然と過ごしてきてしまった生徒が、自分の志向と資質に合う対象がどこにあるのか見つけ出せずにいるとしても、改めて再/追体験の場を作ってあげるのは、時間的にも無理がありそうです。
しかしながら、その時の記憶を辿らせ、「関心をもって/意欲的に取り組むことができた課題」にどんなものがあったかを思い出させる中で、どんな場面で自分がポジティブに反応していたかを考えさせてみることなら、十分に可能ではないでしょうか。
進路を選択し、その実現に向けて具体的な行動を重ねて行く(=目標達成のためのタスクを一つずつクリアしていく)フェイズに入ろうとしている生徒に、こうした振り返りの場を持たせるのは有為だと思います。
志望理由を言語化させる(=第一志望宣言を起こさせる)にあたり、進路希望を作り上げるのに重要な役割を担った体験を洗い出させ、それぞれの場面での自分のレスポンスを思い出してみることを求めましょう。
もし、現時点での選択(進路希望)にしっくりと来ない部分があるようなら、視野を少し広く持ち直し、自分事にできる(=意欲的に取り組める、役割を引き受ける覚悟を持ち得る)社会との接点」をもう少し時間をかけて探させてみるべきではないでしょうか。
出願まではまだ十分に時間があります。体験と学習を重ねる中で新たな自分を見つけることも多々あろうかと。柔軟な発想で選択を重ねる中でこそ、「自分らしい生き方、あり方」に近づけるのだと思います。
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本稿は、生徒の進路意識形成/進路希望の実現に焦点を当てて起草しましたが、同じことは、組織や個人が何らかの目標を打ち立て、その達成に取り組むときにも当てはまります。目標を打ち立てたら、それは本当に「自分事」として、達成への努力を惜しまずに頑張れることなのか、一度立ち止まってみる必要もあろうかと思います。「我がミッション」と本気で思えることにしか、意欲と努力は継続しにくいものです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>明日と明後日の2日間、都合によりブログの更新をお休みします。
来週には再開いたしますので、引き続き宜しくお願いいたします。
季節の変わり目、先生方におかれましても、くれぐれもご自愛下さい。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>2014/12/19 公開の記事をアップデートしました。
今、教えていることがどう問われるのか
好適な出題例は、本時の学習目標を示すのに使える
課題ありきで授業を設計すれば…
目標大学の過去問を解けた経験が、自信とやる気に
好適な出題例の収集と蓄積は、教科内の協働で
課題を与える以上、達成させるのが責任
問題を解いてみる中で、足りないものを特定しておく
補うべき学力要素によって、課すべき学習活動は異なる
良問を見つけるたびに、指導カレンダーに配置
進路希望の分布から、研究対象の優先順位を決める
各先生が個々に全問題を解くのでは過剰負担
絞り込んだ問題の使い方こそ時間をかけて考える
能な限り多くの出題例に目を通す
出題研究の協働と分業は学校間でも
年度を跨いで経年的に良問をストック
残した問題には大問ごとにタグをつける
教科書をはみ出す部分の大きさを評価
注目すべき部分にはコメントを残し、後の擦り合わせに
各大問に総合評価を与えて、その後の作業を効率化
授業への組み入れ、扱い方を先生方の話し合いで吟味
「S評価」を与えた問題はマイルストーンに
各単元の内容を学ぶ中で身に付けていく能力・資質
どこまで学びが進んだときにチャレンジさせるか
タイミングしだいで学びの成果や広がりは異なる
協働場面での学び方や探究スキルの獲得なども踏まえて
どんな生徒を対象に、どんな場面の教材に活用するか
必要に応じて問題を加工、教材としての好適性を確保
生徒にどう取り組ませるかで問いの価値は変わる
良問は、定期考査にも積極的に組み入れる
正答率で中間検証、結果を比較して優れた実践を抽出
指導で得た知見や教訓は、メモに残して次年度に継承
追記:あらためて「分業と協働」のススメ
教科書を丁寧に教え、そこに書かれている事柄を一つひとつ理解させていくというだけのアプローチでは、学ぶことへの自分の理由や、自分なりの目的意識をもった授業参加を促すことは難しそうです。
生徒は、解くべき課題を通じて学習目標を認識します。学びを経て解を導くべき適切な課題が導入フェイズで示されることで、問題意識も刺激されますし、不明に気づけばそれを解消したいとの意欲も芽生えます。
授業内のターゲット設問に持ち込まれた課題が、自分が目標とする大学群の入試過去問だったら、さらに大きな効果も期待できそうです。
しかしながら、過去問演習を授業に取り入れればそれで良いという単純なことではありません。入試問題を授業の教材に使うときには注意しなくてはならないことも多々あります。
高大接続改革以降、入試問題も大きく変わってきました。従来の感覚だけを頼りに授業を設計していては、目指すべき方向と生徒を導いている方向にずれが生じてくるのではないでしょうか。
教科書を使って今教えていることが、どのように問われるのか、どんな使い方を求められるのか、常に認識を更新し続ける必要があり、その唯一の方法は出題研究だと思います。
多忙を極める日々の校務の中で、出題研究に投じられる時間は限られます。教科内での分業と協働によって負荷を分散するとともに、出題研究の範囲を広げ、その成果をより良い授業の実現に活かしましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
]]>出題研究を行い、そこから選び出した良問を学習指導に役立てる機会と方法には様々なものがあります。授業の課題/教材として活用すること以外にも、定期考査や実力テストの出題に転用したり、高い学力を備える生徒の意欲に応える任意課題としたりするケースなどもあります。
いずれの場合でも、生徒に与える前に欠かさず行いたいことは、前稿でもふれた「生徒側のレディネスを確認すること」と、「教材/出題としての妥当性を高めるために行う問題の加工や修正」 です。
2014/09/04 公開の記事をアップデートしました。
❏ 必要に応じて問題を加工、教材としての好適性を確保
大問としては、生徒にとって自分事となる内容を備えていたり、思考を深める問い方をしていたりと、面白さがあったとしても、問いの設定に無理があったり、つまらない小問を含んでいたりすることもあります。
前者の瑕疵を修正せず、生徒に解かせては学びを歪めるリスクがありますし、後者をそのままにするのも時間効率の上で好ましくありません。
こうしたところにきちんと手を入れる(修正する、削除する)ことで、教材としての好適性を高めていくことにも注力したいところです。
難易度が高すぎるなら、生徒が備える知識を補う注や説明を加えたり、大きな問いを分割して解きやすくしたりといった方法も取れます。
設問が選択式や求答式ばかりなら、記述式に変更することで、表現力や答案の構成力を鍛える機会にしてあげた方が良いこともあるでしょう。不用意な選択肢が思考を歪めたり、妨げたりするリスクもあります。
❏ 生徒にどう取り組ませるかで問いの価値は変わる
同じ問題でも、生徒にどのような取り組ませ方をするかで、学びの成果/問いを与えたことの価値は、まったく違ったものになり得ます。
例えば、テーマや題材が優れているので何とか授業に使いたいが、まだ教えていないことや生徒に馴染みのないことが多く含まれている場合にも、取れる手札を先生方がどれだけ持っているかどうかが問われます。
問題を解きながら、必要なことを一つひとつ教えていくだけでは、教わったことを覚えるという次元から生徒の学びは抜け出せません。
参照型副教材や資料集のページを開かせ、そこに書かれていることを読み、必要な情報を集めて、問いに答えるための知を編ませたいところ。
適切な参照先が生徒の手近なところにない場合も、「教える」「資料等を配る」以外の選択があるはず。タブレットなどで信頼できるソースから必要な知識を集めさせて、生徒にその方法と姿勢を学ばせましょう。
解法(正解に到達するまでの工程)を考えたり、発想や着眼点を広げるのが、個々の手に余る場合も、それぞれで考えたことを持ち寄る「対話の場」を設けることで、対処できる場合も多いはずです。
また、問い/課題に取り組ませた後の「学びの仕上げ」と「振り返り」を疎かにさせては、学びは深く確かなものになりません。
これまで、「ひと通りのことを教え終えたところで課題を与え、正解できたかどうか確認する」というところで流れを止めてしまっていたとしたら、せっかくの良問も生かし切れていなかった可能性が高そうです。
❏ 良問は、定期考査にも積極的に組み入れる
定期考査は、ときに「教えたことの記憶と再現」に偏りがちです。生徒はテストに合わせて学習のスタイルを作るため、その偏りは「習ったことを覚えることが勉強」というあらぬ姿勢を育みかねません。
定期考査でも初見の問題を課し、授業で学んだことを新しい場面、初めて見る問題を解くのに使えるかどうかが大事というメッセージを伝えるとともに、そうした力が養われているか、きちんと点検しましょう。
出題研究の中で見つけ出した良問を、定期考査問題に一定以上の配点で組み入れることは、生徒の学びを正しい方向に導くとともに、先生方の指導の成果を検証するためにも不可欠だと思います。
❏ 正答率で中間検証、結果を比較して優れた実践を抽出
選び出した良問を指導カレンダー上に配置することで指導主眼を適切に配列していれば、当該時期を迎えて生徒にそれらを実際に解かせてみた結果(=正答率など)には、そこまでの指導の効果が表れます。
折々に触れて、そこまでの指導が計画通りの成果を得ているか、所期の目標を達成しているかを把握するようにしないことには、出口学力にどれだけ近づいているかも測れず、その後の指導にも目算が立ちません。
また、同じ問いを同じタイミングに配列した計画/共通指導案で指導を進めてきた他の先生と、成果を比較すれば、個々の設問の正答率には違いが生じているのが普通です。
良好な結果を得たクラスの実践には、正答率の向上に寄与した工夫や取り組みがあったはずです。それを可視化して、共有を図りましょう。
好適実践の共有の入り口は、適切な効果測定にあるのは、言うまでもありませんが、そのためには指導計画の要所に好適な問題(良問)が配置されていることが大切であり、その材料の出どころは出題研究です。
併せて、生徒に問題を解かせてみる前には、設問ごとに正答率も予測しておきましょう。実際の採点結果とのズレが大きければ、普段の授業での生徒観察に精度が足りなかったということです。理解度などの想定が大きくズレていては、最適な指導や助言などもできないはずです。
❏ 指導で得た知見や教訓は、メモに残して次年度に継承
実際に生徒に問題を解かせてみたら、正答率や指導上の留意点などを、フィルタリングの際に作った問題ごとのアタマ紙に追記しましょう。
良問は、よほど大きな変更(教育課程の変更で単元がなくなるなど)がない限り、年度を跨いでいくども利用できる場面があるはずです。
次年度の授業を担当される先生(場合によっては異動で転入して来られることもあり得ます)が、課題を選ぶとき/授業設計に当たるときに、過年度から蓄積された良問群が大きな助けになるはずです。
また、単に「問題のストック」を継承するだけではなく、その使い方/取り組ませ方に関する記録や所見も添えておくと、前任者が踏んだ轍を次の担当者は教訓・知見として活かすことができます。
どんな場面で使い、その結果(正答率など)はどうだったかに添えて、指導を振り返った結果(反省など)も文字にして伝えていきましょう。
ご自身の授業/指導の流れを振り返りながら、如上の事柄をしっかりと洗い出し、言語化してみることは、これまでの取り組みのたな卸しと次に向けた課題形成にほかなりません。次年度以降の授業をより良いものにするための知見作りとして、しっかり取り組みたい事柄の一つです。
本シリーズでは、周囲の先生方とスクラムを組み、分業と協働で出題研究から授業/指導計画作りまでを進めていくことをご提案しました。
ご多忙の中、その時間を確保するのは容易でないと存じますが、実現できれば、個々に進めるより効率的。メンバーが3人になれば負担は3分の1、5人揃えば良問の蓄積は5倍のスピードです。互いのアイデアを擦り合わせることで指導計画/授業デザインにも磨きがかかります。
あまり大きく構えてスタートしては、長続きしないかもしれません。まずは小さく範囲を絞って(対象とする大学・学部を少なくして)負担を増やさないようにしながら、試しにやってみることをお薦めします。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
先生方の分業と協働によるフィルタリングを通じてせっかく選び出した良問ですから、きちんと指導カレンダー上に配置して、授業内外の課題として活用していきましょう。眠らせておいても意味はありません。
その際、教科書などに沿って進行する単元と、出題の中心テーマが一致するものを機械的に配置していけば良いというものではありません。
その問題/課題を使って、どんな能力(学力要素)を育み、評価するのかを考える必要がありますし、取り組ませるだけのレディネスを整える準備指導をどう進めておくかも、忘れてはいけない着眼点です。
2014/09/03 公開の記事をアップデートしました。
❏ 「S評価」を与えた問題はマイルストーンに
先生方の協議を通じて「良問」と認識された(前稿で言えば「S評価」が確定した)問題は、どこかのタイミングで生徒に挑ませ、知識や理解を活きて働かせる場として活用できるようにしましょう。
相応の手間と時間をかけて、出題を評価し、使い方まで検討したのに、棚のファイルに綴じ込んだままではもったいない上に、生徒にとっても学びを深め、確かなものにする機会を与えられないことになります。
良問を選び出したら、その場で「どの単元を学ばせるときに使うか」を考え、指導カレンダーに書き込んで、配置してしまいましょう。
冒頭にも書きましたが、教科書の単元と、問題が問う内容が一致するだけで、安易にカレンダー上の位置を決めてしまうのは危険です。
前稿でも触れた「教科書内容からはみ出す部分」を埋めておく/埋める方策を獲得させておかないと、挑ませても「返り討ち」で、科目の学びに対する自己効力感を削るだけの結果にもなりかねません。
❏ 各単元の内容を学ぶ中で身に付けていく能力・資質
生徒が、各単元の内容を学ぶことを手段に、様々な能力や資質(基礎力や思考力)を身につけていくのは、別稿「カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する」でも書いた通りです。
基礎力(言語、数量、情報の各スキル)にしても様々な単元を学ぶ中で徐々に獲得が進みますが、どのくらい学習を重ねれば、各々の「良問」の要求を満たせるかの見立てが計画作りには欠かせません。
ここで言う「見立て」とは、「こうした力が必要との認識を持たせる活動をこの単元で経験させた後に、こことここで練習を積ませれば、ある程度のところまではできるようになるだろう」との展望です。
これまで主流であった「知識量を問うだけの問題」であれば、その単元の内容をかっちり教えておけば、問題に挑ませるレディネスは整ったでしょうが、新しい学力観の下で作られた問題は話が違います。
当然ながら、展望を立てただけで指導を進め、獲得状況を確かめないまま、予定の時期が来たからやらせるのでは、見込み違いもあり得ます。
日々の授業の中で、生徒が獲得した(であろう)能力資質を発揮させる場を作り、観察と評価を重ねて行く必要があります。もし、見立て通りに進んでいないようなら、指導の補完や計画の修正が必要です。
進路希望の実現に必要なハードルとして挑んだ課題や問いに跳ね返される経験を重ねて行けば、「やっぱりだめかも」という弱気も生まれ、頑張り続ける意欲も萎えてきてしまいそうです。
良問をカレンダー上に配置し、「この問題はこの時期に」と決めたら、そこに至るまでの学びのロードマップをきちんと考えましょう。
❏ どこまで学びが進んだときにチャレンジさせるか
設問が求めている知識や理解のうち、一定の割合を既に学んでいるタイミングなら、まだ教えていない部分が多少含まれても、問題を解くことを通じて学ばせるという発想でOKだと思います。
不足している知識や理解は、参照型副教材を活用させたり、それまでに鍛えてきた(はずの)「自力で読んで理解する(=情報を集めて知に編む)力」を発揮させたりすることで補えるはずです。
しかしながら、それだけでは問題の要求に応えられない(正解に至る工程を描き出し、実行していくところに至らない)状態であれば、もう少し先まで学びを重ねさせてからにした方が良さそうです。
先の単元で関連事項に触れるチャンスがあるなら、そのときを待つのでも良いでしょうし、補習や講習にその場を設ける手もあります。
選び出した良問を配置する機会は、カリキュラムのスパイラルも念頭に少し高いところから俯瞰してみれば、あちらこちらに見つかります。
❏ タイミングしだいで学びの成果や広がりは異なる
思考力などの学力要素は、その問題に初めて取り組むときにしか獲得が進まないことがあります。(cf. 思考力を鍛えるのは、教える前が勝負)
どんな問題も、正解にひとたび辿り着いてしまったら、いくど解き直してみたところで、「解き方を再現するだけ」になりがちであり、正解に至る工程を自ら考案する「チャレンジ」にはなりにくいはずです。
せっかくの良問ですから、その問題を教材として最大限に活かすには、扱うべきタイミングをじっくりと見極めていきたいところです。
問題の要求を(工夫して頑張れば)どうにか満たせる状況にあることを見極め、最適なタイミングでチャレンジ機会を与えることが肝要です。
また、カレンダー上の配列には、他の教科や科目での学びの進み具合にも目を向けましょう。あるテーマを扱う問題を取り上げるとき、そこに触れた他教科の学びと関連付ければ、より多角的な学びが作れ、理解が及ぶ範囲(知の地平)を大きく広げることができるかもしれません。
英語や国語で読ませる論説も、他教科で学んだ知識が、理解をより深めるかもしれませんし、地歴と公民で切り口が違う内容もあるはず。理科の発想で捉え直せば、違った側面が見えることもあるでしょう。
❏ 協働場面での学び方や探究スキルの獲得なども踏まえて
学んできた内容だけでなく、生徒が身につけている学び方(学習方策)によって、授業で課せる課題やタスクは違うものになります。
例えば、手持ちの良問の使い方を考えた時、ジグソー法で取り組ませてみたいと思ったら、生徒が同様の活動をこれまでにどれだけ経験し、必要なスキルをどこまで獲得しているかも把握しておく必要があります。
自分が担当する科目では課したことのないタスク(活動)でも、もしかしたら他の教科である程度まで経験しているかもしれません。
資料を探したり、データを扱ったりといったスキルでも、探究活動の中で身に付けつつあるものを使わせなければ、学びは深いところまで掘り下げられませんし、スキルをさらに磨く機会にも作れません。
その一方で、ググる以外の検索方法を持たない状態なのに、図書館で文献を調べてくるように指示したところで、ろくな成果もなく、持ち帰るのはやり方も分からない活動へのストレスだけかもしれません。
選び出した良問を効果的に活用し、生徒の力を最大限に伸ばすには、学習の主体たる生徒のこと(学習履歴とそこで獲得した能力や資質)にも十分な関心を向ける必要があるということです。
❏ どんな生徒を対象に、どんな場面の教材に活用するか
良問に括られた問題でも、それをどんな生徒に、どんな場面で与えるかによって、意義や効果も違ったものになることも念頭に置きましょう。
平常授業で全員に取り組ませるべきものだけでなく、特定の属性(進路希望や成績層など)を共有するグループに対してしか、トータルのコスト(準備指導や取り組ませたあとの採点、フィードバックなども含む)に見合った効果が期待できないものもあるということです。
国公立大学に挑む生徒や、特定の学部系統を目指す生徒には是非とも取り組ませたい問題でも、それ以外の生徒には優先順位としてあまり高くない問題もあろうかと思います。
先生方が多忙であるのと同様に、生徒も学習に振り向けられる時間を無限に持っているわけではありませんので、必要性の高いものを選択的に与えることで、効率的な時間の使い方をさせてあげたいところです。
取り組ませるべき生徒が限定される問題は、志望校別の講習会の教材などにとっておくのも好適ですが、授業内で全員に提示しつつも、提出は任意とする課題としても活用できます。
問題にチャレンジした生徒に「答え合わせの場」への参加を促せば、進路希望を同じくする生徒が集うコミュニティを作り出すこともできそうです。(cf. 生徒が互いの頑張りを支え合う集団作り)
その6に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
生徒の進路希望の分布などに基づき出題研究の対象とする範囲(大学や学部)を決めたら、各々に担当を割り振って、第一段階の審査(価値の低い問題を予め除外するフィルタリング作業)に取り掛かりましょう。
個々の授業/単元での授業のデザイン(指導計画の中への「良問」の配列とその使い方)の検討に十分な時間を確保できるように、如上の第一フェイズまではできるだけスピーディーに通過したいところです。
2014/09/02 公開の記事をアップデートしました。
❏ 残した問題には大問ごとにタグをつける
出題研究は「大問」ごとに行います。教室に課題として持ち込むときも、基本的には大問ごとに切り出して用いているはずだと思います。
1回分の入試問題をフルセットで扱うのは、受験期を迎えて志望校が具体化した後、時間配分の感覚を学ばせたりするときぐらいでしょう。
最初のフィルタリングを行うときに、良問の候補として残していく大問を見つけたら、その場で「検索に用いる情報(タグ)」をつけていくと後で探したりするときの手間も大きく減らせます。
どんな情報を検索のキーにするかは、出題研究を協働で行うメンバー間で前もっておおまかには決めておくべきでしょうが、一般的には、
などをそれぞれ独立させておき、それらを組み合わせたものになろうかと思います。
大問が焦点を当てて測定しようとしている学力(基礎力、思考力の各構成要素など)まで細分化することも可能ですが、作業が煩雑になる上、担当者間で解釈も割れがちです。後の擦り合わせを待ちましょう。
如上のタグの書き込みには、付箋を使ったり余白を利用したりすることもできますが、散逸したり、スペースが足りなかったりと、後フェイズでの作業を考えると、やや不向きかと思います。
問題のコピーを貼り込んで整理する台紙にヘッダやフッタを設けたり、あるいは画像を貼り込む「ひな形」の1枚目を「かがみ」にして、そこにタグを書き込むようにした方が、作業も効率的かと思います。
❏ 教科書をはみ出す部分の大きさを評価
本シリーズの第2稿では以下のベン図を示し、教科書の記載(=教科書から学べるもの)と出題の要求の差分をイメージしていただきました。
各大問が、如上のA~Cのそれぞれをどのくらい含んでいるかもここで点検し、タグにして付しておくと、後の整理に便利かもしれません。
などを問題評価の基準(観点)として並べて置き、それぞれの要求水準を{多い~少ない}{高度~平易}などの3~4段階で仮の評価をしてもらい、チェック欄にレ点を入れることにするのは如何でしょうか。
増える手間はそれほど大きくないと思います。その上、授業に使う問題を探すときも対象を絞りやすくなりますし、評価結果を互いに突き合わせてみれば、先生方の間にあった「感覚のズレ」も詰められるといったメリットもあり、トータルでのコスパは悪くないように思います。
❏ 注目すべき部分にはコメントを残し、後の擦り合わせに
大問ごとのインデックス(如上のタグの集合体)を書き上げるのと同時に、着目すべき箇所や検討が必要と思われる箇所にはコメントをつけておく(紙のファイルなら付箋を貼る)のが好適です。
特に優れた設問(小問や枝問)を見つけたら、高く評価した理由や、教室内外での活用場面などをコメントに残しておくと、後から見る他の先生にとっても大いに参考になろうかと思います。
前項の「個々の問題に対する観点評価」の場合と同じく、ここでの評価理由などにも点検した先生によって小さからぬズレや違いがあります。
そうした食い違いを、話し合いや意見交換の中で解消を図れば、学力観の擦り合わせが進み、より良い学習指導の実現にむけた協働も、方向性を持ったものになり、そのスピードも上がってくるはずです。
❏ 各大問に総合評価を与えて、その後の作業を効率化
ここまでの一連の作業を終えると、各大問が教材として適性を備えているか、どんな場面で活用できるか、明確になってきているはずです。
この段階まで来たら、初期作業(フィルタリング)の仕上げとして、大問ごとに「総合評価」を与えてみましょう。評価区分は、あまり細かくしても意味がありませんので、
S | 授業で是非とも使いたい、“マイルストーン”になり得る良問 |
---|---|
A | 教室内外の課題として十分な適性を備える問題 |
B | わざわざ時間を割いてまで教室で扱う必要性の低そうな問題 |
C | 生徒に見せない方が良い問題=悪問(少なからずあります) |
といった具合に、4段階程度に分ければそれで十分だと思います。総合評価を記号化しておくのは、個々の検討に入る時に、抽出やソートの手間を小さくするためであるのは言うまでもありません。
Sから順番に吟味や検討を進めて「すぐに使える問題」を指導計画に落とし込むまでの時間を短縮することが大切だと思います。
❏ 授業への組み入れ、扱い方を先生方の話し合いで吟味
それぞれの先生方が担当する問題をひと通り解き終え、総合評価に沿って検討の優先順位を決めたら、他の先生を交えた検討に進みます。
対面で行う時間が取れないときは、電子会議室などを介して、時間と空間を共有せずに進めていく方法もありますが、できれば「対面でわいわい」やりながら進めたいところ。実のある協議になりやすいはずです。
先生方の話し合い/意見交換の中で行う吟味・検討の着眼点は、
といった、授業への組み込み方、指導計画上の位置づけなどです。本当に良い問題なら、個々の先生の判断で取捨選択するよりも、共通指導案に組み込んで、すべてのクラスの学びに活用したいものです。
なお、S評価を与えた大問でも、削除しておいた方が良い小問や、問題に付加して補足した方が良い事柄などもあるはずです。こうしたことも先生方の意見をすり合わせて具体化していきましょう。
別稿「入試問題を授業の教材に使うときに」でも書きましたが、問題に適切な手を入れて(加工して)から生徒に与えた方が好ましい結果を得ることも少なくありません。
その5に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一