受験生や保護者の手に渡る学校案内(パンフレット)は、学校の教育観や指導展望を外部に示す、いわば「学校からの公約」です。別稿でも書いた通り、生徒募集を通じて入学前の生徒と交わした約束は、入学後の教育活動の中で履行されなければなりません。
学校案内で表明されている教育方針や指導設計は、日々の授業や学年運営の中でどれだけ実現されているでしょうか。実現のためには、学校案内に書かれている内容を深く理解し、個々の指導や校務がどこに結びつき、何を目指すものか、構造的に捉えておくことが「前提」です。
入試広報担当の先生方は、説明会の準備や編集段階で記述に触れることが多く、学校案内の内容を熟知しているでしょう。しかし、担当以外の先生方が同じ水準で学校案内を読み込み、内容を理解し、自分の授業や分掌、学年運営に結び付けていくのは、必ずしも容易ではありません。
❏ 学校案内の記述と、授業や学年運営の実態の「距離」
多忙な校務の中、毎年更新される学校案内にしっかり目を通し、深く掘り下げてその内容を考える時間は取りにくいものです。学校ホームページでも様々なメッセージが発信されており、すべての発信を常に把握して、認識を更新していくのは、まさに「言うは易く」だと思います。
しかしながら、そこに書かれていることは「学校が校内外に対して約束したこと」である以上、教育活動を実際に行う現場の先生方(分掌、学年、教科)が「それを知らない」というわけにはいきません。
記述されていることを正しく理解するには、字面を一読するだけでは不十分。「ここに書いてあることの実現に、自分の立場から何ができるのか/何が求められているのか」を自問しながら、理解を深め、具体的な行動に落とし込んでいく必要があります。
また、個々の先生方が理解を深めると同時に、分掌、学年、教科、PTといった各組織での「理解の擦り合わせ」(目線合わせ)も必要です。
建学の精神や校是、教育目標に使われている言葉は、短く抽象的であるのが普通。それがどこまでの広がりを持つのか、理解は読み手によって大きく違います。解釈を言語化しないとズレの所在すら掴めません。
こうした取り組みを重ねる中でしか、学校案内等に記述されたことと、実際の(日々の)授業や学年運営は一致に向かわず、怠れば双方の距離が開きかねません。学校の教育活動への信頼も揺らいでしまいます。
❏ 一方の努力ではなく、双方でできることを着実に
この「距離」を縮めるには、入試広報担当の工夫と努力だけでは実効は期待できませんし、現場の先生方に「発信通りの実践」を求めるだけでも不十分でしょう。双方からの「協働」が欠かせないはずです。
広報の側からは、外に向けて語った学校像を、日々の授業、学年運営、分掌業務の中でどのように実現していくか、相手に応じてきちんと「翻訳」して伝える、いわゆる「校内広報」にも力を入れるべきです。
学校案内にどんな意図でその表現を選んだのか、どんな受験生・保護者に向けて何を伝えたいのか、説明会や個別相談でどんな期待や質問が寄せられているのか。こうした情報を届けることでも、現場(各組織)の理解は深まります。伝えなければ理解も共感も得られません。
そもそも、外に発信するメッセージを編む段階で、その実現を担う組織とのすり合わせを十分にすべきであり、このステップをないがしろにしていなければ、「翻訳」の手間はさほど大きくはならないはずです。
一方、現場(各組織)は、学校案内の記述を担当業務に引き寄せ、実現方法を考えることになります。案内にある「主体的な学び」「探究の姿勢」「きめ細かな指導」「進路実現への支援」といった言葉をどう解釈し、日々の指導で実現するか、現場の創意と努力の見せどころです。
如上の「事前のすり合わせ(広報メッセージの編集協働)」を通じて、しっかりと「最終的に目指すべきもの」が形成・共有されていることこそが、その実現に向けた各組織のコミットメントを引き出すカギです。
❏ すり合わせは、目標を記述する言葉より「評価規準」で
教育目標等を記述する言葉は、抽象的で簡潔に過ぎることがあり、それをそのままぶつけ合っても、議論はすれ違いがち。ときには噛み合っていないことにすら気づかないことがあります。
そんなときに拠り所にしたいのは、「目標を達成したときに現れる生徒の行動や姿勢」、すなわち「評価の規準」です。一つの抽象語が幾つかの側面を持つなら、「観点別の評価規準のセット」になるはずです。
たとえば、「主体的な学び」「探究の姿勢」を学校案内で打ち出そうとするなら、目指すべき状態は、以下のようなところでしょうか。
生徒が自ら問いを持ち、必要な知識・情報・他者の見方を用いて、
根拠に基づいて考えを深め、次の学びや行動を選択できる。
これを要素(観点)に分解し、各々に段階的評価規準を描けば、学校全体で共有するコモンルーブリック(の原型)になるはずです。
生徒を主語にしたセンテンスであれば、どんな能力や資質を、どの程度の水準で獲得させることを目指すのかを、イメージしやすくなります。
評価規準は「共通」でも、そこに到達させるための関与(指導)は、分掌、教科、学年で異なり、指導の具体的設計は各組織に委ねられます。
分掌では、そうした学びに再構成できるような経験の場を、いつ、どこに用意し、指導カレンダーに落とすかを考えていくことになるはず。
教科では、そこで必要になる「基礎」を日々の授業の中で築くことが仕事になるでしょうし、学年は指導を経た生徒の認識の変化などを観察して、「進捗と改善課題を捉えた学び」のマネジメントが求められます。
探究や進路の学習も、生徒一人ひとりの内に成果が蓄積されるもの。それをトータルに把握して、より良い方向に導くのはホームルーム。学年で足並みを揃えないと、年度を跨いだ指導の接続もできません。
❏ 期待と実態の距離を、学校評価などのデータで確かめる
生徒募集での「発信」は、生徒や保護者に「期待」を持たせます。学校生活や教育内容などへの満足度はその期待を基準に決まることが多いため、学校評価アンケートの結果が振るわないところでは、発信で作った期待と、日々の実態のズレが生じている可能性がありそうです。
学校全体で想定ほどの評価が得られないこともあれば、学年(年度)間で差が生じることもあれば、クラス間での違いが出ることもあります。発信が同じである以上、実践(指導)や伝わり方に違いがあると考えるのが妥当。優れた実践に倣い合うことで改善を進められるはずです。
こうしたデータを用いて、期待と実態の「距離」が広がっているところを把握すれば、それを詰める上での優先順位もつけやすくなります。
両者の不一致が大きい箇所では、まずは「学校案内に何が書かれているか」を、現場の先生方(各組織)にしっかりと把握してもらう必要がありそうです。スタートは「パンフレットの読み直し」でしょう。そこを起点に、教育活動の再設計に進んでもらうことになるはずです。
読み合わせをしながら、評価の規準(目指すべき到達状態)の具体化とブラッシュアップを進めて行きたいところです。
学校の発信(パンフレットやホームページ)への関心が高まれば、日々の教育活動を設計したり、振り返ったりするときにも、広報媒体に立ち戻ることも増えるはず。その結果、個々の指導が確固たる拠り所を得るようになれば、学校に向けられた期待はより良く満たされるはずです。
もしかしたら、これまで学校案内やホームページに目を通す機会を十分に持てずにいた先生もいらっしゃるかもしれません。そうした先生方にこそ、学校案内を読み直すことを、自校の教育活動を見直す入口として位置付けてもらいたいところです。
ストレートなお願いより、授業研究や授業観察の事後協議で「この実践はパンフのどの言葉と結びつくか」を一言添えてもらう、 新学期の学年方針策定時にパンフの文言を「素材」に使ってもらうなども好適です。

本稿の内容をChatGPTでイラストに起こしました。クリックで拡大します。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
