授業観察を行うときに押さえるべきところ

管理職の先生方が「授業観察」を行うときや、教育実習生の授業を指導役の先生が観るときには、押さえておきたいポイントが多々あります。さらには観察で実際の教室に足を運ぶ前にも、観察者と授業者との間で行っておくべきことがあり、参観を終えた後も同様です。
どこに観点を置いて授業を観るかに加えて、参観結果をどのように授業者にフィードバックするかは、授業を観察する先生方それぞれの経験則に頼りがちかと思います。授業観察の方法を体系立てて学んだり、研究したりする機会に恵まれてきた方はそれほど多くありません。

❏ どこを観点に、どのように授業を観るか

授業を観るときの「観点」には、様々なものがありますが、生徒と同じ目線で観るべきところと、指導の技術と知見を備えた教科学習指導の専門家としての目で見るべきところを分けて考えていきましょう。

・授業評価アンケートで生徒に訊いているところ

説明が論理だってわかりやすく行われているかどうかは、授業評価アンケートで訊いた生徒の意見と、観察者(管理職や指導教員)の目での評価は、概ね一致する「はず」ですが、必ずしもそうとは限りません。
授業者が提示した学習目標や、学習活動への取り組み方/辿るべき手順などが正しく生徒に伝わっているかといった部分でも、生徒に尋ねてみたり、行動を観察してみたりしないと実際のところはわかりません。
専門家の目には「わかりやすい、ロジカルで無駄がない」ものに映っても、生徒が備えるレディネスによっては、違う声や反応が出てきます。
こうしたズレを補完するには、授業観察に際し、終了後に行うミニ授業アンケートを用意するのも好適です。授業評価アンケートを定期的に行っている学校なら、そのデータを参考にする手もあります。

・専門家としての知見を土台に見るべきところ

一方、学習指導の専門家でない生徒に訊いても答えようがないところも多々あります。問いの適切性や学習活動の配列はどうかと尋ねられても生徒は「???」でしょう。
以下のような事柄は、観察者が備えた技術や知見に照らして評価をするしかなく、当然ながら、授業観察の欠かせぬ観点になります。

例えば、以下のようなことがらは、専門性を備えた観察者が、授業者の動きと生徒の反応を俯瞰的に観てこそ効果的な評価ができるはずです。

  • 生徒の思考を促す、適切な問いを、頻繁に与えているか。
  • 生徒が個々に取り組む部分と、先生が教える部分の区別を明確にし、前者に十分な重みをかけているか。
  • 生徒が自力で行えることを拡張する段階的な指導を行っているか。
  • 生徒一人ひとりに「学ぶことへの自分の理由」を持たせているか。
  • 確認した結果に基づき、学びの仕上げに取り組ませているか。
  • 生徒の間に「相互啓発」を働かせる機会は十分か。
  • 生徒が自分の学びをきちんと振り返る場を設けているか。(効果的に振り返りをさせているか)

※本稿末尾(署名下)に各項目の関連記事リストを添えました。

様々な観点を同時に働かせて授業を観るのは中々大変ですが、授業評価アンケートのデータなども活用し、その授業がどんな課題を抱えているか、ある程度の当たりをつけておき、観察に焦点を持つのも好適です。
目的意識を持った授業参加という項目での評価が振るわない授業であれば、上のリストの4番目に重みをつけて、「なぜそこの評価が芳しくないかを」考えながら観察を行いたいところです。
ただし、焦点を絞り過ぎると、他の部分に注意が向かなくなり、その授業が持つ良さも、解消すべき問題も、見落としてしまいがちです。


❏ 観察を通して得た気づきは、言語化してシェア

授業観察を行うときは、可能であれば、複数の先生で同じ授業を観るようにするのが好適です。
同じ場面を見ていても、観察者それぞれの経験や知見によって、気づくところは大なり小なり違うもの。それをシェアすることで、より多角的な観察とフィードバックができるようになります。
観察を通じて得た「気づき」は改めてきちんと言語化してみましょう。言語化の過程で、曖昧な部分/感覚的にしか捉えていなかったところが見つかり、より深い考察の入り口に立つことができます。
改善を要する「問題点」だけでなく、生徒の学びに好ましい影響を及ぼしている「良い点、優れた実践」も、言語化の対象です。良さを言葉にすることで、他の先生方との間でもその知見を共有できます。
これらは、研究授業を行うとき(参観後の研究協議に臨む前)にも効果的な取り組みになります。
なお、授業や校務の都合で一緒に教室に入れないようなら、三脚付きのビデオカメラを持ち込んで、授業動画を残してみては如何でしょうか。

❏ 前回までの「記録」も参照して、課題と成果を特定

授業観察は、毎年、定期的に行われているのが普通かと思います。前回の記録も辿りながら、改善課題にどのように取り組み、どんな成果が出ているかも確かめながら、継続的な「改善サイクル」を回しましょう。
授業観察後のフィードバックや意見交換の記録は、授業者ご本人に起草してもらい、共有、保管しておきたいところ。起草を通じて、ご本人も改善課題や今後の取り組みもより良く整理できるはずです。
こうした記録が残っていないようなら、授業観察の日時を決めるときの打ち合わせの際に、以下のようなことがらを授業者ご本人に尋ね、確認したことを参観シートの項目/観点に追加しておきましょう。
「どんなことに注力して授業を行っているか」

「現状における改善課題は何だと感じているか」

「改善に取り組む中でどんな手応えを得ているか」
ご本人が意識しているところに、参観者が関心を向けないのでは、良好で建設的なコミュニケーションにはなりにくいはずです。
授業者の意図するところや問題意識を尋ねるのは、授業観察後に行うフィードバックの場、というケースも多いかと思いますが、授業を参観する前に把握しておかなければ、観察から漏れてしまいかねません。

❏ 校是としての授業像をしっかり共有しておく

授業観察にしても、研究授業にしても、そこに関わる先生方の授業観/学習観に共通するものがなく、バラバラの方向をむいていては研究協議なども双方の意図がかみ合わないものになりがちかと思います。
新課程への移行で、先生方のお仕事は「教えること」から「学ばせること」にシフトしているところ一つをとってみても、先生方の意識の転換が一様に進んでいるわけではないかもしれません。
そのギャップを踏まえず、あるいは埋める働き掛けが不十分なまま、授業観察と評価結果の伝達を行っては、それこそ価値観の正面衝突が避けられなくなります。「大人の対応」で穏やかにその場が過ぎたとしても望ましい方向への授業の転換/より良い授業の実現という、本来の目的に近づけるとは思えません。
まずは、どんな生徒を育てるのか、そのためにはどのような学習活動を重ねさせる必要があるのかを校内でじっくりと議論し、方向性をきちんと共有しておく必要があるはずです。
新しい学力観のもとで、様々な学ばせ方にチャレンジが行われている現フェイズでは、以前のような確立した授業像はないかもしれません。すべての学習活動において評価をしっかり行い、最も効果を挙げている取り組みを「仮のモデル」として共有するところからだと思います。



授業観察というと、管理職や指導教員が他の先生方の授業のやり方を見て指導する、という一方通行なものとの印象が根強くあるような気がしますが、根っこに立ち戻ってみると、学校全体でより良い授業を実現するためにそれぞれの立場で行う「協働」と考えるべきだと思います。
本稿を起こしながら、どのジャンルに分類すべきか少々悩みましたが、今は「授業改善での協働のあり方」に置くのがピッタリだと思います。
すべての先生方の授業を観る立場にある管理職の先生方は、校内の優れた実践を見つけ出し、それを言語化することで校内に伝えていく役割も担っているとお考えいただくべきではないでしょうか。
■関連記事:

  1. 生徒を中心に授業を観る(その1)同(その2)
  2. 授業を観てもらう「チャンス」を活かす
  3. 優れた実践を見て言語化する(見取り稽古)
  4. 授業改善行動の実効性を高めるために
  5. 自教科以外の授業も参考に「学ばせ方」を見直してみる
  6. 優良実践の共有~授業評価の結果を活かして

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

補足:関連記事リスト

(専門家としての知見を土台に見るべきところ)

生徒の思考を促す、適切な問いを、頻繁に与えているか。

生徒が個々に取り組む部分と、先生が教える部分の区別を明確にし、前者に十分な重みをかけているか。

生徒が自力で行えることを拡張する段階的な指導を行っているか。

生徒一人ひとりに「学ぶことへの自分の理由」を持たせているか。

確認した結果に基づき、学びの仕上げに取り組ませているか。

生徒の間に「相互啓発」を働かせる機会は十分か。

生徒が自分の学びをきちんと振り返る場を設けているか。(効果的に振り返りをさせているか)