生徒は「振り返り」を効果的に行えているか

課題や活動に取り組むたびに、そこまでの成果や過程を振り返ることの第一義は、「より良いパフォーマンスを得るのに何をどうするべきか」を生徒一人ひとりが見つけ出すことです。
より良い取り組み方を考え出して、それを実践すれば、次の機会で「より納得できる結果」が得られ、科目への自己効力感も高まります。
しかしながら、生徒による授業評価アンケートの集計データを見ていると、こうしたメカニズムが十分に機能していない可能性が疑われる授業も散見されます。担当する授業が相対的にどのような位置にいるか、散布図上で確認し、改善の方向を探ってみるのも好適かと存じます。

❏ 振り返りの結果、学習方策は高まっているか

冒頭で申し上げたことを別の表現で言い換えるなら、「振り返りは、メタ認知・適応的学習力を獲得させる機会」ということになります。
日々の授業で「的確な振り返り」が重ねられていれば、当然の帰結として、「科目への取り組み方/学び方」が身についてくるはずです。
しかしながら、実際には、下図に見る通り、「振り返り」の充実が「学習方策の獲得」に直結していない授業も少なくないようです。
Ⅴ振り返り

「振り返りや先生からの助言を通じ、次に向けた課題が意識できる」

(非常にそう思う~当てはまらないの5段階から択一:満点100)
Ⅸ学習方策

「私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」

(とてもそう思う~まったく思わないの5段階から択一:+10~-10)

考え出した「仮説」は実際に試して「検証」させる

近似線から下方に大きく離れた(=振り返りの充実度ほどに学習方策の獲得が進んでいない)授業では、振り返りの中で見つけ出した「改善への仮説」を実際に試してみる機会を持たせているでしょうか。
自分で見つけたものであれ、先生から示されたものであれ、「より良いパフォーマンスを得るためにやるべきこと」は、その段階ではあくまでも「仮説」に過ぎないはず。実際にそれを試してみて、手応えを得てこそ、「学び方/取り組み方が分かった」との実感が得られます。

先回りして教えず、生徒が自ら考え出すのを待つ

また、生徒が自ら、しっかりと振り返りを行い、仮説を立ててみるところまで待たずに、先生からの助言や指示が出てしまうと、生徒はそれを鵜呑みにして自ら考えることをしなくなりがちです。

メタ認知・適応的学習力は、21世紀型能力における「思考力」の構成要素です。生徒自身に考えさせない限り、思考の力は伸ばせません。
その場で取り組んでいる課題/タスクをクリアする方法はわかっても、次の新たな課題に対して取り組み方を自ら考え出せるようにならなければ、また同じこと。科目に対する自己効力感は向上しにくいはずです。
どのように取り組むべきか、生徒自身に考え出させた上で、その結果をより深めさせるような問い掛けや示唆を心掛けましょう。
フィードバックは、生徒のパフォーマンスに対して直接行うだけより、振り返りの結果(形成した課題の好適性)に対しても行うべきです。

❏ 目的意識(自分の課題を持った取り組み)は高まったか

振り返りの目的は、前述の通り、より良いパフォーマンスを目指した課題形成ですが、これに加えて、「次に向けた自分の目標の設定」と「取り組みの成果のたな卸し」にも意識を向けさせる必要があります。
次の機会/トライで何を目指して頑張るのか、自分の目標を設定させることに改善の余地を残す授業が多いのは、下左図に見られる、振り返りの充実と目的意識の向上の相関の弱さからも窺えます。
また、振り返りというと「反省」の意味合いが強くなりがちなのか、取り組んだ結果をポジティブに捉える機会としての認識が不足しがち。下左図に照らし、近似線の下方に位置する場合、その傾向があります。
Ⅹ目的意識

「私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる」

(とてもそう思う~まったく思わないの5段階から択一:+10~-10)
Ⅶ学習効果

「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる」

(非常にそう思う~当てはまらないの5段階から択一:満点100)


実技実習系の授業ではとりわけ、得意な生徒と苦手な生徒の間のパフォーマンスに大きな差が生じがちです。周囲の出来栄えとの比較がメインでは、苦手な生徒は自分の上達を実感する機会は乏しいと思います。
振り返りに際し、「次のトライで自分が達成を目指すこと」を具体的に挙げさせ、それに向けた努力を促していけば、生徒はそれぞれにチャレンジングで、且つ達成可能性を備えた目標を持ち得ます。
こうした「振り返り→目標設定→達成検証」のサイクルを回す中で、消極的だった生徒も徐々に「取り組むことへの自分の理由」を持つようになってくるはずです。

❏ 発表の場は相対化スキルの獲得に寄与しているか

的確な振り返りを行うには、彼我のパフォーマンスの違いを知る中で、その違いを生んでいる理由に思考を巡らすことが必要です。
実技実習系の授業に限らず、生徒が努力した成果を発表させる場を設けることは珍しくありませんが、そうした場を持つことの目的が曖昧になっているケースも少なくないように感じます。
単純に「頑張らせたからにはその成果を発表させてやりたい」というのでは、発表が自己目的化しています。「発表が控えているからこそ生徒は頑張る」というのは、外的動機づけに頼りすぎかもしれません。
学びの場で「発表の場」を持つのは、自分の取り組みの成果や過程を相対化することで、的確な振り返りを行わせるためです。下図で近似線から下方に大きく離れた授業では、この関連が曖昧なのかもしれません。
Ⅵ発表の場

「自分の努力や取り組みの成果を示せる発表の機会が整っている」

(とてもそう思う~まったく思わないの5段階から択一:+10~-10)

❏ ログを参考に生徒理解を深めているか

しっかりと振り返りに取り組ませ、その結果をリフレクションログに言語化&記録させれば、それに目を通すことで、生徒理解も進みます。
外から観察しているだけでは、生徒がどんな意識でいるかは把握しきれません。生徒が言葉にしたものを参考にするしかないはずです。
個々の生徒がどんな進歩を実感し、どんな課題を抱えて取り組んでいるのかを予め知っていれば、授業の中での観察にも焦点が持ちやすくなりますし、的確な声掛け(評価、助言)も行いやすくなります。
集団としての特徴(課題の分布や進歩の様子)を捉えて、授業の進め方をクラスごとにアレンジしていくこともできるかと思います。
振り返りをさせて終わりではなく、その結果を踏まえた生徒理解の深化や授業への反映ができているかどうかは、下図における座表面上の相対的な位置で推定ができるのではないでしょうか。
Ⅲ生徒理解

「先生は生徒の状況をよく把握しながら授業を進めてくれる」

(非常にそう思う~当てはまらないの5段階から択一:満点100)


別稿でも書いた通り、リフレクションシートの記載を参考に観察精度を高めるよう、生徒のアウトプットには十分な注意を向けたいものです。

❏ 振り返りシートの記入欄を整え直してみるところから

生徒がより効果的に振り返りを行えるようになるかどうかは、先生方の工夫によるところも大きいことは言うまでもありません。
まずは、日々の授業で生徒に記入させるリフレクション(振り返り)シートに以下のような項目を記入するフォームを作ってみるところから、さらなる改善に取り組んでみるのは如何でしょうか。

  • 本時の授業を通じて、どんなところに自分の進歩を感じたか(成果のたな卸し)
  • より良いパフォーマンスを得るには、何にどう取り組めばよいか(課題形成)
  • 次の機会では、どんなことの達成を目指し、どんな工夫や努力をするか。(目標設定)
  • 前時の授業を終えて、設定した「自分の目標」はどれだけ達成できたか。(達成検証)
  • 達成できなかったところには、どんなアプローチで再チャレンジするか。(計画の修正)

書き込まれたものを蓄積していけば、個々の生徒がどれだけ的確に(=課題形成や目標設定に繋がる形で)振り返りができるようになったか、捉えることができるはずです。
振り返りのスキルが向上したということは、取りも直さず「メタ認知・適応的学習力」(=思考力の構成要素の一部)が高まったということ。観点別評価の「思考、判断、表現」にも反映させましょう。
また、生徒が残したリフレクション・ログから好適なものをピックアップして教室内外でシェアすれば、相互啓発の材料になるはず。生徒が互いに「的確な振り返りのやり方」を学んでいけるかもしれません。
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