協働場面における個々の生徒の評価をどう行うか

協働で課題解決に生徒が取り組んでいる場面での「個々の生徒の評価」はどうすべきかとのご相談をいただくことが少なくありません。
最終的に導き出された答えや発表の内容を、評価基準に当てはめて採点すれば、グループとしての成果(どこまで理解が進み、知識を得たか。思考をどこまで深めたか。表現は効果的で適切かなど)は測れますが、個々のメンバーについての評価には馴染みません。
メンバーの組み合わせが変われば、「成果」も違ったものになるはず。グループ全体の成果をもって、生徒一人ひとりの学力(能力や資質)とするのは無理筋に過ぎるように思います。

❏ 知識や技能は、生徒が個々に仕上げた答えを採点して

学力の三要素のうち「知識・技能」については、学び終えて答えを仕上げるべき問いを用意しておき、話し合いなどの後に、生徒一人ひとりにその答えを作らせてみれば、その出来栄えで評価が可能です。

問いを予め用意しておくことは前提条件ですが、元々、話し合いに方向性を持たせるにも、事前の調べ学習などに取り組ませる上でも欠かせないものですので、余計な手間が増えるということでもないはずです。
話し合いに臨む前に各自で作っておく「仮の答え」と、話し合いを終えて作り直した「仕上げた答え」の両方を記録させておけば、両者の差分に対話を通した学びの深まりが現れ、指導の効果測定もできます。
また、話し合いのたびに答えを提出させて採点するのではなく、考査までに答えを仕上げておくように指示をし、定期考査では教室で提示した問いのうち、幾つかを選んで出題するというのも現実的かと思います。
どれが出題されるか分からない以上、協働場面ごとに取り組んだ問いのすべてに生徒は答えを用意せざるを得ず、考査期間を待たずに、日々、その日の学びを仕上げる習慣も身についてくるはずです。
中には、“正解を言って欲しい”と言う生徒もいるかもしれません。その生徒を縛っている「習ったことを覚えれば良い」という誤った学習観を改めさせるべく、学びに向かう姿勢をしっかり話して聞かせましょう。

❏ 協働場面の活動評価は「チームへの貢献」を観点に

教科学習指導の場に限りませんが、協働は「メンバーがそれぞれの役割を引き受ける場」ですので、評価もまた、この特性を踏まえて観点を定めていくのが妥当と考えます。
対象に関する知識の豊富さで話し合いを引っ張り、「答え」を作り出すのに大きな役割を果たす生徒もいるでしょうが、個々のメンバーが果たす役割はそれだけではないはずです。
意見の対立が生じたときにうまく間を取り持って、議論を建設的な方向に戻せる生徒もいるかもしれませんし、周囲を見渡し、適切なタイミングで場の環境を整えるのに長けた生徒もいるかと思います。
まずは、話し合いの中で各メンバーが果たし得る役割/貢献にどんなものがあるか、しっかりと考えて書き出すことで、行動評価の観点を作るところからではないでしょうか。

  • やり取りに適切に介入し、その方向性を保ち、議論をまとめ上げた
  • 調べたことをもとに、タイミングよく有益な示唆、提案を行った
  • 新たな問いを投げ掛け、停滞しかけた議論を整理し、再始動させた
  • 効果的に周囲をサポートした(用具を揃える、机上を片付ける)
  • 手は出さないが、進行をしっかり観察し、正確に記録を取っていた
  • 発表に際して、効果的な表現の方法やまとめ方のアイデアを出した

などなど、場面ごとに様々な「評価すべき行動」がありそうです。少なくとも、「手持ちの豊富な知識で議論をリードする生徒」ばかりが高く評価されるのは、協働の場面での評価のあり方と違う気がします。
協働性という言葉を、十分に定義しないまま、あちらこちらで使っている状態では、その構成要素を切り出し、それぞれに照らした評価はできないと思います。
リーダーシップの獲得を教育目標に掲げているケースは少なくありませんが、対になるはずのフォロワーシップを備えたメンバーや有能なサポーターがいてこそ、リーダーシップはコミュニティのパフォーマンスの向上に寄与し得るのではないでしょうか。
ちなみに、グループのメンバーが固定すると、そこで引き受ける役割も決まってしまいがち。様々な役割の果たし方を学ばせる/評価するためにも、ペアやグループといったフォーメーションは、意図的に且つ頻繁に更新することで、一人ひとり役割を固定させないことが大切です。

❏ 協働の様子を観察しながら観点を設けていく

前段で例示したものも、協働場面での行動として評価すべきものの幾つかを思いつくままに挙げたにすぎません。他にも色々とあるはずです。
まずは、しばらくの期間に亘って、生徒が協働で課題の解決に取り組む場面(議論、実験、制作など)をしっかりと観察してみましょう。
その中で見て取れた、優れた/評価すべき行動を一つひとつメモに書き出していき、ある程度の蓄積がなされたところで整理していきます。
当然ながら、他の先生方と一緒に観察とメモ起こしに取り組めば、蓄積のスピードもアップする上に、見落としも減ります。メモの共有と整理は科目や教科を跨いで行うのも好適。互いの気づきになり得ます。
書き出したものを整理し、適切な名称を与えて行けば、ルーブリックの観点とA評価の規準は揃うはず。それを起点に「少し足りない」「まだまだ」の状態を表現すれば、BC規準も整うのではないでしょうか。

❏ 評価基準ができたら、生徒にも使わせブラッシュアップ

別稿でも申し上げた通り、評価基準は出来上がったものをそのまま使っているのでは完成度も高まりませんし、使い勝手も良くなりません。
使いながら、規準の表現を改めたり、観点を追加/削除したりする中で評価基準そのものを育てていくという発想で臨みましょう。
また、生徒にも使わせることで、自己評価が適切にできるようにさせていく(=メタ認知・適応的学習力の向上を図る)ことも大切です。基準を示しておけば、評価結果に対する説明責任も果たしやすくなります。
協働の場面を経験させても、適切な(=基準に照らした)振り返りができなければ、協働へのより良い取り組み方を見つけ出すのも遅れます。
グループで話し合いをさせたときに、観点ごとに「最も大きく貢献したメンバー」を相互評価で挙げさせ、その理由を具体的に言語化させてみると、別の機会での自分が取るべき行動も思い浮かぶはずです。
こうした生徒による相互評価の結果は、先生方が個々の生徒についての評価を行うときにも補足的な材料として有効に使えると思います。



生徒に協働で課題解決に取り組ませる場面では「チームにどんな貢献をしたか」という視点を持って行動を観察することで、主体性や協働性、あるいは21世紀型能力の「実践力」の構成要素である社会参画力や自律的活動力、人間関係形成力などの評価にも具体性が備わりそうだと、本稿を起こして改めて感じました。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一