教室でしかできない学びを充実~問いを軸に授業を設計

中学に続き、高校も新課程に移行した今、これまでと同じように教えていては、学ばせること(学習内容)は減らさず、様々な能力(21世紀型能力でいうところの「基礎力、思考力、実践力」)をより高い次元で獲得させていくという要求には応えきれません。
教室を離れた生徒が個人でできることと、教室でしかできないことの線引きをこれまで以上に明確にした上で、後者に重点をおいた授業デザインへの転換が求められます。

2020/05/21 公開の記事をアップデートしました。

❏ 問いを軸に授業をデザインするときの基本的な流れ

教室でしかできない学習活動にしっかりと軸足をおいた授業をデザインするには、その日の授業や単元を学び終えたときに生徒が答えを作る、本時の学びを俯瞰し得る問いをターゲットに設定するのが効果的です。
その基本的な流れは、以下のチャートに示す通りです。

問いが決まれば、答えを作るのに必要な事柄(=獲得させるべき知識や理解、習熟すべき手順に加えて問題の捉え方など)も自ずと決定しますので、授業で何を学ばせるのかがはっきりします。
学ばせるべきものがはっきりしたら、それぞれをどんな方法で獲得させるのかを考えましょう。言うまでもありませんが、説明を聞かせて理解させるだけでは学習方策の獲得も進みません。

  1. 教科書や資料を自力で読ませ、理解させる
  2. 個々に考える/周囲と話し合う中で気づかせる
  3. 説明を聞かせて理解させる(手掛かりができたら 1. や 2. に戻す)

1.でカバーできる範囲が広がれば、生徒の自学自習(予習や復習)に回せるところが増え、対話的な学び、協働での課題解決などの、「教室でしかできないところ」の充実が図れます。

❏ 学習活動の組み合わせで、多様な能力・資質を養う

別稿「カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する」でも申し上げた通り、生徒は、各単元の内容を学びながら、そこで取り組んだ学習活動を通して、様々な能力・資質を獲得します。
教科書や資料、副教材を自力で読ませなければ、言語・数量・情報の各スキル(=基礎力)を養うチャンスを逃します。
教え合い・学び合いを通し、自らの不明を言葉にして必要な助けを得る力や自分の考えを他者の理解を得るように表現する力も身につきます。
対話を通して周囲と気づきを交換することで、問いを立てたり解法を考えたりする発想(思考力)にも拡充が図れるはずです。
ターゲットとなる問いに答えを導くために必要なパーツ(知識や理解、発想など)ごとに、それぞれを獲得するのに適切な学習活動に振り分けてこそ、教科固有の内容を学ぶことを手段に、様々な能力・資質(=生きる力)の向上が図れるということです。

❏ 単元理解の軸ができたら、知識の拡充は個人のタスクで

ターゲット設問に答えを導くことができれば、その日の授業/単元で学んでいることの軸となる理解は形成されていますので、周辺知識の補完や拡充は、サブノート式のプリントの空所を教科書や副教材を読んで穴埋めするタスクなどを通して、生徒自身にも十分に出来るはずです。

こうしたタスクの経験を重ねることで、「個人で出来ること」が増え、教室でしかできないことの充実をさらに図りやすい状態が作れます。
ターゲットとなる問いを設定することは、生徒が自ら知の地平を押し広げるきっかけを与えることに外なりません。

問題意識を持てばそれを解消するために必要な知識や理解を得ようとする意欲も生まれます。問題意識というサーチライトを点灯してこそ、暗闇に隠されていたものも発見できます。

❏ ターゲット設問を効果的に使えたかの点検

ターゲット設問が如上の効果を得たかどうかは、授業を終えるときに「今日の学びで意義深かったことは何か」を尋ねて、リフレクション・ログなどで生徒自身の言葉にさせてみることでも把握ができます。
ぼんやりしたものや的外れなものしか出て来ないようなら、ターゲット設問そのものが好適性を欠いていたか、問いを認識させるための「学びのウォーミング・アップ」が足りなかったかのいずれかです。
授業評価アンケートのデータを見ても、ターゲットとなり得る問いや課題を与えていながら、学習目標の理解や対話・協働の充実に繋がらないケースがあり、その多くは問いの使い方に改善点が見出せます。
ちなみに、シラバスや年間授業計画を起草するときも、ターゲット設問への言及は、到達目標を生徒ときちんと共有するのに効果的です。 



これまでに起こした拙稿から、ターゲット設問と授業デザインに関するものをピックアップしてみました。何かのご参考になれば光栄です。

  1. どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる
  2. 解いたことで成長ができる問題こそが”良問”
  3. 単元ごとに設定するターゲット設問
  4. 学習目標は解くべき課題で示す
  5. 活動性と学びの成果を繋ぐ鍵~課題を通じた目標理解
  6. 解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝える
  7. ターゲット設問を分割~小さな問いで場面ごとの理解確認
  8. 理解を確認した後のフォローに不要な時間を取られない


この記事を最初に起こしたのは、2020年5月21日。コロナ禍で一斉休校となった学校が再開しようかというタイミングです。
進められなかった授業の遅れを取り戻そうと、詰め込んだり駆け足になっては、深く確かな学びは実現から遠ざかることは自明。教室を離れてもできることと、教室でしかできないことの切り分けをしっかりつけることに解決の糸口を求めました。
高校でも新課程に移行し、学ばせることは減らさず、思考力や実践力をこれまで以上に高めることが求められるこの局面でも、取るべきアプローチは「問いを軸に授業を設計し、教室でしかできない学びの充実を図ること」であることに変わりはありません。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一