対話などの学習活動が、学びの成果に直結しない?

授業評価アンケートの標準的な質問設計に含まれる、Ⅵ対話協働「話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる」は、対話的な学び、深い学びがどこまで実現しているかを測る意図で設けた項目です。
対話は、気づきや発想の交換で思考を拡充するために欠かせないものですし、協働の場面は、様々な課題の解決に協力し合って取り組むときに必要な姿勢やスキルを獲得させるトレーニングとして不可欠です。
思考力のみならず、表現力や判断力を鍛えるのにも、日々の学びの中での対話の機会の充実が必要です。
自分が理解したこと/考えたことに、他者の理解と共感を得られるような表現を与える力を得るのも、対話を通して様々な意見に触れて自分の考えや立ち位置を相対化しないと広い視野に立った(=独善を離れた)正しい判断ができないことを学ぶのも、様々な対話(議論)を経験する中でのことではないでしょうか。
高大接続改革から新課程への移行という大きな変化の中で、Ⅵ対話協働の集計値はどの学校でもほぼ例外なく高まってきており、教室での対話が充実してきている様子が見て取れますが、対話が増えただけで学びの成果に上手く繋がっていないケースも少なからず見られます。

❏ 対話協働と学習効果の相関は、まだ弱め

下図は、この夏に当オフィス監修の授業評価アンケートをご利用いただいた学校の集計データで作成したもの(国社数理英、n=3,230)です。

Ⅵ対話協働の集計値(上図では換算得点5ポイント刻みで階級化してあります)が上昇すると、Ⅶ学習効果「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる」の得点も着実に向上していますが、Ⅴ活用機会の場合(前稿参照)と比べ、平均値を結んだ折れ線の傾きは緩やかです。
考え得るのは、「対話や協働の場面を作ることの重要性は広く認識されて、実践に移されているが、その場面で得たものを学びの成果に結びつける工夫は、まだ試行錯誤の途上にある」といったところでしょうか。
相関の強さは教科によっても異なります。Ⅶ学習効果を目的変数、Ⅵ対話協働を説明変数とする回帰式の決定係数(相関係数の二乗)は、手元のデータで、国語が0.29、社会が0.48、数学が0.36、理科が0.62、英語が0.49でした。
各教科の学習内容による違いもあろうかと思いますが、経年的に同じ学校・教科のデータを追跡してみると決定係数は大きくなっていく傾向にあり、対話の効果を学びの成果に繋げる手法の確立の度合いが(複数の学校を跨いでもなお)教科ごとに違っている可能性もありそうです。
従来の学ばせ方と、新課程が求める学ばせ方の違いの大きさが、手法確立の度合いを変えていると考えることもできるのではないでしょうか。

❏ 活動の成果を確かな学びに転化させる「学びの仕上げ」

対話を通して、気づきなどを得て、より深く分かった気がしても、それらを「問いへの答え」などの形にまとめてみないと、本当に学びが深まり、新たな力を得たのかどうか、生徒自身にも判然としないはずです。
周囲と話し合う中で、「なるほど」と膝を打っても、何となく理解しているだけであるのは珍しくありません。改めて「説明してごらん」と言語化を求めてみると、言葉に詰まったりあやふやだったりします。
話し合いにも積極的に関わりを持たずに、周囲が作り出した答えにただ乗りしているだけの生徒(フリーライダー)だっているかも。
課題を与えて生徒たちに話し合いをさせたら、その仕上げ(答案へのまとめ上げ)は、個々のタスクに戻して、しっかり取り組ませましょう。

こうした過程を経ることで、集団の中での気づきが、個の中での知識や理解に編まれていきますし、不明が残っていればそれを解消するためにさらなる学び(調べる、訊く)、所謂インテイクにも繋がるはずです。

❏ 活動が意図するところを生徒は理解しているか

対話にしろ、協働にしろ、学習活動をデザインするのは、授業を担当されている先生方ですが、個々の活動に込めた意図は生徒に正しく理解されているでしょうか。
学習活動を通して、生徒にどんな知識・理解を獲得させるか、どんな能力・資質を身につけさせるかを考えて、先生方は授業案を考えますが、そこで意図したものは自動的に生徒に伝わるものではありません。
活動を通して、それまで知らなかったこと/考えたことのなかったことが頭の中に加われば、「気づきや学びの深まりが得られた」という認識にはなるでしょうが、それらが「獲得を目指すべき学力」とどう繋がるかピンと来ていない生徒もいるかもしれません。
生徒が感じる「色んなことを学べたけど、これって学力?」という腹に落ちないものを解消するには、活動を通して獲得を図ったものが、生徒にとって身につけるべきものであると得心させる仕掛けが必要です。
学び終えたときに答えを導くべき具体的な問いが用意され、それを生徒が「自分ごとの問題」と認識できれば、それに答えを持てたことで、新たな力の獲得/自分の進歩も実感できるのではないでしょうか。

よりダイレクトな効果を狙うなら、生徒が志望している大学群の過去問を材料に、対話・協働の場を作るという手もあります。
対話や協働といった学習活動に取り組ませる前に、手持ちの知識と発想で「仮の答え」を作らせて置き、活動を終えてから答えを作り直させれば、両者の差分の中に進歩を見て取らせることもできます。



別稿「学ぶことへの自分の理由を持たせる~新単元等の導入指導」でも書きましたが、新しい単元を学び始めるとき、これから学ぶことが自分にとってどんな意味があるのか(どこで必要になるのか)、生徒はわかっていないことがしばしばです。
上の箱ひげ図で、箱の下端に届いていない場合は、このあたりも振り返ってみる必要がありそうです。問いをテーマに授業を考える機会を、周囲の先生方と一緒に持てれば、授業改善へのヒントもたくさん見つかるのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一