どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる

どんな問いを立てて教室に持ち込むかは、授業の成否を分ける最大のポイントだと思います。拙稿”学習目標は解くべき課題で示す“で申し上げた通り、「問い」は学習者にとって取り組むべき課題そのものです。
従来は「導いた結論が何か」が問いの主流でしたが、高大接続改革以降の入試では、どうやってその結論を導くかが問いになるシーンが増えそうです。この流れの中で、問いのあり方、教室にどんな問いを持ち込んで授業をデザインするかについて発想の転換が求められます。

❏ 結論ではなく、答えを導く過程が問いの焦点になる

新テストの試行問題では、「答えを導くのにどの資料を参照すべきか/何に根拠を求めるべきか」を尋ねる設問が方々に見受けられました。
例えば、政治経済の第4問B、問7では「ODAについての異なる立場について考察し、その根拠となる資料を正しく判断する」という趣旨の出題がありました。
以前から、思考力や表現力を試そうとする問いには、「〇〇とは何か/どういうことか」と「〇〇と言えるのはなぜか」という2つが主流として存在していましたが、これらとは少し違ったタイプですよね。
これは一例に過ぎませんが、「大学入学共通テスト」における問題作成の方向性についてでは、以下のような記述があります。


「どのように学ぶか」を踏まえた問題の場面設定

共通テストでは、高校等における「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し、授業において生徒が学習する場面や、社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータ等をもとに考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定を重視することとしています。問題の中では、教科書等で扱われていない初見の資料等が扱われることもありますが、問われているのはあくまで、高校等における通常の授業を通じて身に付けた知識の理解や思考力等です。初見の資料等は、新たな場面でもそれらの力が発揮できるかどうかを問うための題材として用いるものであり、そうした資料等の内容自体が知識として問われるわけではないことに留意して下さい。

これらを踏まえると、今後の授業づくりに向けて、問い方に関する発想の転換と拡充が必要かもしれません。

❏ 問いの立て方で、学ばせるものが大きく変わる

例えば、国語や英語で本文を読ませるとき、「この筆者はどんなバックグランドを持つ人か」という問いを与えておいたら、教室で実現する文章との対話も大きく変わります。
昔からよくあるパターンとして、導入のつもりで本文の背景を先回りして説明してしまうやり方があります。
如上の問いを与えて、生徒にそれを考えさせる授業と、従来型の先回り説明型とでは、生徒が学べる/身につけられるものは全く違います。
背景知識が予め与えられた状態でないと、大切なところを読み取れないという状態では、学力・読解力としてあまりに脆弱な気がします。
教室を離れた場での言語活動では、書かれたものを読み、書き手のバックグラウンドや背景にある問題意識を理解するのが「通常の姿」です。
こうした読解力は、新テストへの移行で意図されている「大学での学びに必要な基礎力」の一つですので、

  • この文章の書き手はどのような立場の人か、次の中から選べ。
  • 筆者は次の主張にどう答えるか。理由を添えて〇字で答えよ。

といった出題も十分に予想されるところです。

❏ 問い方をテーマにした授業研究の必要性

問いの立て方次第で、生徒に学ばせるものが変わり、当然ながら、授業のデザインそのものも大きく変わります。また、教室での生徒の学習活動もまったく違ったものになるはずです。


新しい学力観に沿った学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められることになりますが、授業の在り方を根本から変えていく起点となるのは本稿で取り上げた「問いの立て方」です。
授業方法の研究は各地で進んでいますが、問い方をテーマにした授業研究の重要性は益々高まっていくとお考えいただく必要があります。

出題研究を通して”問い方”を学ぶことの必要性は今さら言うまでもありません。高大接続元年を待たずに、教育改革に意欲的な大学ではどんどん新しいタイプの問題が登場するでしょうし、模擬試験の業者もそれに合わせた出題に切り替えて行きますので、問いの立て方を研究するときの教材には事欠かないはずです。
出題研究を通して見つけた良問は、入試問題を授業の教材に使うときにで申し上げたことを踏まえた上で、積極的に授業に採り込んでいくべきでしょうし、授業中の発問もプロセスに焦点を当てた問いを中心としたものに切り替えていく必要があると思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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