問いそのものを深化、拡張する練習の場

授業を受けている中でも、日々の生活の中でも、何かしら疑問が思い浮かぶことがありますが、多くの場合、スマホでググってちょこっと調べてみたりするところに止まるのではないでしょうか。ときには何の行動も取らず、そのまま放置してしまうことも少なくないかと思います。
疑問が逼迫したものでなければ、それでも実害はないかと思いますが、そこに潜む問題の実態を探り、その解決策を考え出していく力(姿勢と方法)を獲得するチャンスを逃していることになるはずです。
中学、高校は、問題発見・解決力などの思考力の土台が形作られる大切な時期。生徒には、「疑問をそのままにする」のではなく、漠然とした疑問を「答えを導くべき問い」に具体化し、より深く考え、より広く調べる姿勢と方法を学ばせていきたいものです。

❏ まずは、生徒自身に疑問を見つけさせるところから

教科書や資料を読ませて、そこに何らかの疑問を見つけさせることが、如上の姿勢と方法の獲得を目指す指導の入り口です。
各単元の学習内容を、先生が逐一丁寧に説明して理解させていくだけでは、生徒が疑問を差し挟む余地はなくなっていきます。
生徒自身に疑問を見つけるように求めても、何の事前指導/準備なしには中々上手くいかないこともあろうかと思います。
まずは、教科書や資料に書かれていることについて先生が問いを投げ掛け、生徒にその答えを探させる/考えさせることから始めましょう。
先生が頻繁に発する問いを「まねる」ことで、疑問の見つけ方、問いの立て方を生徒は少しずつ学んでいくことができるはずです。
その中では、「矛盾を見つけて対処する力」(PISAが測定する「読解力」の一部)も身についてくるのではないでしょうか。

❏ 既知の範囲を取り除き、問いに焦点を定めさせる

生徒が疑問を見つけ出したら、それを言語化させましょう。自分の頭の中に生じたものに、他者と共有できるような的確な表現を与えようとすることで、疑問はより具体的なものになっていきます。
最初の段階で言葉に起こせる問いは、「○○って何ですか」「どうして〇〇になるんですか」といった程度の曖昧(丸投げ)なものに止まるかもしれませんが、ここからが「問いを深化、拡張する練習」です。
まずは、「今の段階で、どこまでならわかっている?」と尋ねて、疑問を絞らせ、問いの焦点を定めさせていきましょう。
さらに、辞書や用語集、参考書などに当たらせて、「既に入手できていたのに、知ろうとしていなかったところ」をカバーさせていきます。
言うまでもありませんが、「まだ明らかにされていないこと」と「単に学ぶ機会がなかった/自分が知らなかっただけのこと」は別物。問いを立てて、思考を重ね、新たな知を作り上げるべきものは前者です。

❏ 言語化させた問いをシェアして思考を深める/広げる

前段の活動を経て、疑問を絞る/問いに焦点を定めることができたら、今度はそれを「問いの形」に整えて(=言語化して)、生徒間で共有させましょう。
他の生徒が立てた問いに触れることは、自分一人では思いつかなかったところにまで疑問を向けるきっかけになり、対象をより深く、広い視野で考えられるようになるための土台を作ります。
さらに、それぞれが作り、持ち寄った問いに答えを作らせていきましょう。同じ問いでも各々が作った答えには違う着眼点があるはず。
答えの着眼点が異なるということは、問いに表現されている「考えるべきポイント」が他にもあったということであり、それに気づかないことには、観察も単層的、思考も浅薄なところに止まってしまいます。
こうした話し合い(対話)の中で得た気づきを携えて、自分が作った先の問いを作り直してみる中で、問い(=思考)は、より深く、拡張されたものにブラッシュアップされていくはずです。
ここで仕上げた問いはその場限りのものでしょうが、問いを作る(=対象に思考を巡らせる)ための発想を膨らませ、その工程に習熟していくことが、生徒一人ひとりの思考力、特に問題発見力を高めていきます。

❏ 探究活動や大学での学修、職業生活の土台として

新課程で「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わりましたが、両者の違いの一つは、リサーチ・クエスチョンをきちんと立てさせるかどうか、ではないでしょうか。
既に明らかにされていることを調べ上げた上で、「まだ答えが出ていない問い」に取り組み、「新たな知を作り出す」方法を学んでいくのが、高校での総合的な探究の時間です。

各地の学校で、探究活動への取り組みを拝見していると、「調べ学習との違いが意識されていない」「適切な問いが立てられない=探究テーマを設定できない」といった状況が多々見られますが、根っこにある問題のひとつは、本稿で取り上げた「問いを深化、拡張する方法」への習熟の不足にあると感じます。
主体的に学ぶ姿勢は、「やる気を持って計画的に」というだけではないはず。自らが立てた問いを起点にすることも、構成要素の一つです。
より深く、広い学びに主体的に取り組むには、生徒一人ひとりが「問いそのものを深化、拡張する力」を身に付ける必要があるはずです。
大学に進学してからの学修/研究活動では、自ら問いを立てるところが起点ですが、高校までの学習との違いに戸惑ったり、きちんと理解しないまま大学生活を終えてしまう学生も少なくないと聞きます。
学びに向かう姿勢を切り替えさせるのは、入学後の指導における大学側の責任でしょうが、高校での学びの中で、大学での学修に必要な姿勢は何かを伝える(=学びを通して知る機会を作る)ことで、高等教育への接続を円滑にしてあげることも大切かと思います。
学校を卒業して社会に出た後に「持続可能な未来への責任」(21世紀型能力の「実践力」の一つ)を果たすには、身の回りのこと/社会の未来に対し、適切な問いを深く、広い視野で立てられることは重要です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一