授業外の学習指導機会の位置づけと実施方法

補習や講習など、学校では様々な学習指導の機会が「授業外」に設けられていますが、通常の(=教育課程の中に設定されている)授業との関連付けが曖昧なまま、それ以外の指導機会(補習や講習)が「追加」されているだけのケースが少なくないように思われます。
生徒が学習に向けられる時間には「枠」があります。そこに色々な指導機会を加えていくだけでは、あふれ出すものが増えるばかり。
個々の指導機会の関連付けを明確にして、トータルでの効果を最大化しつつ、効率的な運用を心掛ける必要があるはずです。様々な学びの場への「時間の適正配分」を旨に、指導計画全体を設計しましょう。

❏ まずは授業とその予復習の充実こそ優先すべきこと

24時間(あるいは1週間の168時間)のうち、生徒が学習に割り当てられるのは、一定の時間であるのは言うまでもありません。
その時間枠の中心には、「通常の授業とその予復習」を据えるのが本来の姿であり、補習や講習を付け加えることで授業の予復習に十分な時間が当てられなくなっては本末転倒です。
新しい学力観の下での学習指導では、各単元の内容を学ぶことを手段に様々な能力・資質の獲得を図らせていく(cf. 学習内容×獲得させるべき能力・資質のマトリクス)ことが求められます。
能力・資質は、生徒自身が取り組む学習活動を通して獲得が図られるため、教室を離れて生徒が課題(予習や復習/学びの仕上げ)にじっくり取り組む時間の確保は以前にも増して重要になっています。

教室でしかできないことと、生徒が個人でできる/やるべきことの線引きを明確にしても、後者に充てる時間が十分に確保できなければ、授業デザインは「絵に描いた餅」。計画通りに学び/指導は進みません。
補習や講習は、目的を明確にした上で、対象と内容を必要最小限に絞って、効率的に実施するのが基本的なスタンス、ということです。

❏ 補習や講習の目的~なぜ必要か、代替手段はないか

補習や講習が必要になるのは、「既習内容の理解や習熟の不足」が学びを先に進めるのを妨げている場合や、「より高い意欲を備えた生徒のニーズ」に授業だけでは応えきれない場合などでしょう。

既習内容の定着不足を解消するための補習

ある特定の科目への苦手意識に縛られ、進路選択を「消去法的」に行う生徒がいるのも現実であり、学びを円滑に進められずにいる生徒に何らかの「救済」を講じる必要はありますが、その手段は補習や講習だけではないはずです。
一度は教室で教えたことが十分に理解できていない/定着していない生徒に、「教え直し」という手段だけでは十分な効果はなさそうです。
生徒を集めて補習を行っても、躓いている箇所は生徒それぞれ。講義スタイルで同じ話を聞かせても、全員の必要を満たすとは限りません。
生徒同士の教え合いや、単元/学習項目ごとの解説動画を活用した「学び直し」と、その支援(質問に答えたり、学び直しの進め方の助言をしたり)に注力した方が、より大きな効果が得られるかもしれません。
解説動画は業者のものもありますし、先生方が手分けして作成するのも手です。ライブラリーを整備すれば、様々な場面で利用が可能です。

より高い「学ぶ意欲」に応えるための講習

また、学ぶ意欲や学ぶ力に余裕のある生徒に、発展的/実践的な学びの場を提供する目的で設置する講習の類もあり得ますが、意欲/学力の高い生徒である以上、チャレンジしたい課題は様々かも。
同一の教材で「逐一教える」ことより、自分で課題を見つけ/探させ、トライさせた上で、生徒が手助けを必要とする場面に限って、最小限の対応をする方が、自発的な取り組みに「蓋」をせずに済みます。
目的(志望の大学や学部系統など)を同じくする生徒が集まり、過去問などから探した課題に取り組んで解法を競い合うのも面白そうです。

❏ 自分の学習を効果的にデザインできる生徒を育てる

苦手な科目を克服するにも、さらに力を伸ばすにも、大切になってくるのは「生徒が自分の学びをデザインできるようになる」ことです。
考査や模試の振り返りを経て、より良いパフォーマンスを得るには、何をどう学んでいくべきかを考え、その方法を試してブラッシュアップを重ねる中で、自分なりの学び方を確立させていきたいところ。
テストで出来なかったところを教え直したり、間違い直しをさせたりするのは、絆創膏を貼るようなもの。キズ(学び損ねたこと)は埋まっても、学習行動そのものが変わらなければ次も同じことの繰り返しです。

補習や講習で、生徒に不足しているもの(解法を含めた「知識」や単元内容の理解など)を補ってあげることも大切でしょうが、それだけでは「学び方を見直し、より良い学習者になる」のは難しそうです。
最小限のところは「教え直し」で補うとしても、その先は、生徒自身の学習への取り組みの中で、学ばせるところを大きく取った、補習や講習の「デザイン」が求められるのではないでしょうか。
教室外での生徒の学びのメインとなる「授業の予復習」に取り組む場として、自習室や教室を開放し、そこに支援者として先生などがいらっしゃる形も、新課程が求める学ばせ方の実現には大きく貢献しそうです。
■関連記事:

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一