間違え直しや再テストはどこまで成果をあげたか

年度末を迎えて、そろそろ来年度の授業の進め方を具体的にイメージし始める時期でしょうか。使用教材などは既に決まっていると思いますので、ここから先の検討は「それらをどう使うか」に絞られますが、その中でもちょっと立ち止まって考えてみたいことは、小テストの不合格者や定期考査の成績不振者への事後指導をどう行うかです。

❏ 失敗を繰り返させないための指導の効果はどこまで?

副教材をベースに小テストを行いながら計画的に学習を進めさせ、不合格者には再テストを課すことで履行を促す指導はよく見かけます。
定期考査で成績が振るわなかった生徒に、補習や追加の課題を与え、同じ失敗を繰り返させないように促すのもよくある光景の一つです。
これらの指導は、実際のところどこまで効果をあげているでしょうか。
確かに、きちんと取り組まなかった生徒に再学習の機会を与えて、既習内容の理解と定着を確かなものにするという点では一定の効果はあったと思います。
しかしながら、取り組みが不十分となった「根っこの原因」を取り除かなければ、同じ結果を繰り返すばかりで、いつまでも再テストや間違え直しの面倒を見続けなければなりません。
生徒の側でも、再テストや間違い直しといった「後始末」に時間を取られ、先に進む授業の準備や新たな課題の仕上げに十分な時間をかけられなくなれば、また同じ事態を繰り返すリスクが高まります。

❏ 後始末をつけさせるより、学び方の改善を促す

悪循環を断ち切るには、「なぜ、小テストの準備をきちんと行わなかったのか」「授業で学んだことがどうして定着しなかったのか」という、補習的な指導が必要になった原因の特定とその解消が必要です。
中学や高校に入学してきて、それまでとは違う忙しさや生活サイクルの中で、日々の勉強の習慣が作れなかったことも原因の一つかもしれませんが、いつまでも学習習慣が確立しなかった生徒もいるはずです。
再テストや、成績不振者に対するこれまでの指導が、原因の解消という本来の目的を果たしていないということですから、別の作戦を講じる必要があるのは明らかです。
別稿「勉強を好きにさせる学ばせ方」でご紹介した研究では、「テストで間違えた問題をやり直す」という【調整方略】には限界がある一方、「何がわかっていないか確かめながら勉強する」という【モニタリング方略】には広い範囲で効果が期待できることが示唆されています。
これを踏まえれば、小テストや定期考査で失敗した生徒には、

 「これまでの取り組み方の中で何がまずかったのか」

 「同じ失敗を繰り返さないためにはどうするべきなのか」

といったことをきちんと振り返らせることで、学びのメタ認知を高める必要があり、指導の重きもそちらにシフトすべきだと思います。

❏ 新テストへの対応は、補習の繰り返しを許容しない

来年度の授業に思いを馳せて、あれこれやり方を考えてみる前に、まずは、再テストややり直し補習を課した効果はいかほどのものだったのか本年度の指導を振り返って検証してみる必要があると思います。
一年間の指導を振り返ってみたとき、同じ生徒がいくども再テストや補習の場面に顔を出していたとしたら、これまでのやり方には足りないものがあったということではないでしょうか。
どんな問いを立てるかで授業デザインは決まる“でもお伝えした通り、新テストでは、「正解は何か」を問う従来型の問いに加えて、「どうやって解を導くべきか」を尋ねる設問が登場します。
また、理解したことをきちんと覚えることの先に、これまで以上に大きな比重を置いた学びのデザインも必要になります。
これらを踏まえただけでも、丁寧に面倒を見てあげて既習内容の定着を促すことに、過大な時間とエネルギーを投じ続けるのでは様々なところに歪みが生じることが懸念されます。

❏ 自校の生徒に合った方法を先生方の協働で創り上げる

繰り返しになりますが、「次の機会で同じ失敗を繰り返さないために、どうするべきか」を生徒自身にしっかり考えさせ、学習者としての行動そのものを改めさせていくことに注力すべきです。
こうしなさい、ああしなさいという指示を徹底するばかりでは、生徒が自らあり方や取り組み方を考える機会を奪ってしまいます。
具体的な指導にはいろいろな方法があると思いますが、先生方が協働でこの課題の解決に取り組む中、まずは、それぞれ最善と思う方法を実際の教室で試してみましょう。
ある程度の指導期間を経たのち、改善指導の成果を互いに比較してみれば、再テストややり直し補習のスパイラルから抜け出せた生徒がより多い方法を見つけ出すことができるはずです。
この場合に限らず、優良実践は、結果の違いの中に見つかるものです。
見出した効果的な方法を先生方の間で共有し、更なるブラッシュアップを図るのが、自校の生徒に最もマッチした指導法を確立するための最も確実で最短のルートだと思います。



これまでに課していた宿題や予習・復習の方法についても、パフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルに切り替わる新しい学力観に照らして妥当なものかどうか、これを機にきちんと見直すべきです。
宿題や課題に取り組ませた以上、「できるようになった」「学び方が身についた」「興味・関心が高まった」のいずれかの効果は表れるはずですよね。無駄なことにコストを投じる必要はありません。
指導方法の効果測定#3 ポートフォリオの記録を利用 でご紹介したような方法で効果の検証をしてみて、有意性が確認できなかったら「ひっこめる」という判断も必要です。
■ご参考記事:

  1. その宿題、本当に必要ですか?(全3編)
  2. 予習・復習で何をさせるか~目的とタスクのデザイン(全3編)
  3. 学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められる
  4. 予習・復習、課題のあり方(ジャンル別記事インデックス)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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