生徒が立てた問いを起点に作り出す対話と学び

授業準備や導入フェイズでの課題として「生徒に問いを立てさせる」ことや、教室での学びをひと通り終えた段階で「質問を引き出す」ことの効果については、それぞれの記事でも触れてきました。
問いを立てさせるのも、質問を引き出すのも簡単なチャレンジではありませんが、出てきた生徒の問いや質問をどう扱うかにも、様々な工夫が考えられるところです。各地の先生方の取り組みに学ばせていただきながら、より良い方法を探していきたいと思います。

❏ 疑問を言語化させることで図る「学びの深まり」

漠然と浮かんだ疑問を曖昧なままにさせるのではなく、既に獲得した知識や理解を動員して疑問の正体を捉え、問い/質問の形に言語化させること自体にも大きな意味があると考えます。
その場で疑問を思いついたままに挙げさせるだけでは、教材に向き合わせ(テクストと対話をさせ)、学びを深く確かなものにするという目的に近づくことにはならないのではないでしょうか。
疑問を言語化する「個人ワーク」に、必要にして十分な時間を与えているか、しっかり点検したいところです。
授業準備の課題としてなら、時間の確保は比較的容易でしょうが、教室での学び(先生の説明を聞く/周囲と話し合う)を終えての振り返りの場合は、生徒間で所要時間に差が生じますので、一度教室を離れてじっくり向き合わせるようにした方が良いこともあろうかと思います。
日々の授業で使用する「リフレクション・シート」に「今日の質問」という欄を設けておき、昼休みの終わりや放課後までに所定の「ポスト」に投函させるという手もありますし、Googleフォームを使って「質問投稿」をさせている先生もいらっしゃいました。
好適な問いや質問を取り上げて、着眼点の良さ、注意深い観察などに肯定的な評価の言葉を重ねていくことで、問いを立てる/質問をするという行動への生徒の動機を刺激していきましょう。

❏ 一人の疑問をクラス全員の学びの起点に

授業評価アンケートの自由記述意見を読ませていただいていると、こんな意見にもしばしば出会います。

  • 生徒からの質問に先生が答えているのを聞いて、理解が一層深まった/学びが広がった。
  • 質問の内容について詳しく様々な問題から説明してくれるので授業を通して内容が深まる。
  • 前回の復習と質問への回答から授業が始まるので、毎回の授業の繋がりと積み上げが良く分かる。
  • オンラインだったが、他の生徒の質問に触れて、一緒に学んでいるという実感が持てた。
  • 周りがどんどん質問する姿をみて、自分も臆さずに質問したり意見を言ったりしようと思った。
  • 意見や考えを発表したとき、周りがちゃんと質問してくれるので、理解や考えが深まる。

自分では何の疑問も浮かばず、鵜呑みにしていたところでも、周囲が発する質問に触れて、改めて切り込んで考えてみることもあるようです。
一人の疑問を起点に、クラス全体での学びをどこまで深め、広げられるかは、まさに指導者としての腕の見せ所の一つではないでしょうか。
リフレクション・ログに添えらえた/質問フォームに投稿された疑問から、クラス全体で改めて考えさせたい事柄をピックアップして、次の日の授業の冒頭での「復習」の材料にしてみるのも好適かと思います。
単純なことであれば、質問を紹介した上で先生から解を示すのでも良いでしょうし、大事なところなら、個々に考える時間をとったり、ペアで話し合わせてみたりといったバリエーションも考えられます。
想像もしなかったところに生徒の不明や疑問が生じていたことに気づけば、次の機会での「説明の構成」にも新たな工夫が生まれるはずです。

❏ 質問への対応は「対話的な学び」の大事な一形態

教えるべきことが山ほどあり、十分とは言えない授業時間の中に生徒からの問い/質問をじっくり扱う余裕はないというのが、先生方の率直なご感想かと思います。
しかしながら、質問に答えることも、先日の記事で触れた提出物への添削も、学習者との「対話」にほかならず、その充実は決して軽んじることのできない重要な課題であると考えます。
質問に答え、課題を添削することは、先生と生徒の対話であるのは言うまでもありませんが、リフレクションシートや質問フォームに寄せられた問いや質問を「先生が上手に仲介」することで、学習者間の対話にもなります。
生徒同士の話し合いも、放っておくだけでは掘り下げの足りないものになりがちですが、「質問」を処理する中で、先生からのフィードバックや新たな問い掛けがあれば、効果的に学びを深く、確かなものにすることができるのではないでしょうか。
授業時間の余りを質疑応答に充てるという、消極的な姿勢ではなく、質問を介した対話的な学びを授業内に充実させるために、授業を進行するフレームの中に最初から「生徒の質問を起点にした学びの場」を組み込んでおくという考え方もあり得るように思います。



生徒の問い/質問に対して、先生が直接的な答えを示してその場での疑問を解消してあげるだけでは、生徒の学びは「知りたいことは知れた」という満足感で終わってしまうかもしれません。
各教科の専門家である先生に「正解」を示された以上、生徒は「そうなんだ」と納得してしまい、不明解消の努力はそこでストップ。疑問に答えを見つけるための行動/必要な情報にアクセスし自ら考える方法を学ぶチャンスも逃してしまうのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一