学びを軸にICT活用を考える#3 「対話」の場面

ICTを活用すべきシーンには、前々稿の「伝達」、前稿の「調査」に加えて「対話の場面」があります。「対話的な学び」に期待されるところの大きさは、ここで改めて申し上げるまでもありませんが、生徒が互いに顔を突き合わせて行うものだけが対話ではありません。対面以外の環境で実現する対話的な学びだってあり得ます。
他の生徒が作り上げた「答え」を見て得た気づきをもとに、改めて自分の答えを作り直してみることもまた、間接的に行われる「対話」です。生徒同士の相互評価の中で自分の成果や取り組みに寄せられたコメントなどに触れて、自分の意見や考えをアップデートするときも、ある種の対話が成立しています。
いずれもICTを利用すれば、「時間と場所の共有」という縛りなしに実現が可能ですし、回収や配布の手間も大幅に抑えられます。

2015/10/16 公開の記事をアップデートしました。

❏ ICTで広がる、互いの成果に触れて得る学び

冒頭に挙げたように、生徒がそれぞれに取り組んだ成果を共有することは、生徒間に気づきの交換(=対話)を生み、相互啓発を働かせます。

提出物を先生が丁寧に評価し、添削して返却するだけでは、こうした対話は生まれません。(cf. 提出物は丁寧に添削して返すのがベスト?
いちいち発表会を催すのでは、投資も負担も大き過ぎますし、プリントなどにして全員に配布するのも非現実的。そもそも、動きのあるものや立体的なものはプリントにすること自体が不可能です。
ここで積極的に活用すべきがICTであるのは言うまでもありません。答案やレポートも、投稿フォームを用意して提出させれば、一括で管理できますし、先生が目を通した上で、必要なものを選択して公開設定にする/配信するといった操作も簡単です。
演技/演奏、発表/プレゼンなら、動画にしてアップロード。絵画や造形物なら、写真のほかに、本人解説付きの動画という手もあります。
シェアされた他の生徒の成果物に対して、評価やコメントをさせるときも、ICTを介して行わせれば、投稿で集まったものを相互啓発の材料としてその後の学びに活用できるはずです。(提出管理もチェックリストを作っていちいち点検しなくて済むので楽なはず。)
自分では思いつきもしなかったところに着目した、他の生徒からの鋭いコメントや指摘は、「なるほど!」という驚きとともに、新たな観点やものの見方を与えてくれるのではないでしょうか。
学習者としての自立を図らせるには、評価者としての成長を遂げさせる必要があるのは、別稿にも書いた通りですし、発表やプレゼンのスキルばかり磨いたところで、物事をより深く考える力は身につきません。

❏ 教室内でリアルタイムで進む学習活動の中でも

生徒が同じ課題に一斉に取り組んでいるときに、他の生徒が課題にどうアプローチをしているかを知れば、その場で軌道修正をして、より深い学びに近づくこともできるはず。刺激は互いの学びを膨らませます。
授業を終えた後で、提出物を先生がシェアしてくれても、そこで得たヒントを活かして課題に再び取り組む時間が確保できるとは限りません。
隣の生徒がどんなことをやっているかは、ちょっと手元を覗き込めばわかりますが、教室内で遠く離れた生徒のところまで足を延ばすのは少々ためらいを感じるところでしょうし、「他のクラスの生徒は?」となると、ちょっとやりようが見つかりません。
ワークシートをサーバーに置いて、互いの状況をリアルタイムに覗けるようにすれば、如上の制約は割と簡単に外せるのではないでしょうか。
相互啓発の届く範囲を広げ、生徒同士の「教え合い・学び合い」を拡張するのに、ICTが担う役割は小さくありません。

電子データの「保存や検索が容易」というメリットを活かせば、他クラスのみならず、先輩学年や卒業生が残したものだって「教材」にできるはずです。
先生方にとっても、生徒が残したものを蓄積し「どんなアウトプットがあり、どこで学びに欠けがあったか」を知るための資料に活用すれば、次年度以降の指導の改善に役立てられます。紙のコピーでは場所を食うだけ。文字列検索もできないのでは、使いにくくて仕方ありません。

❏ 教室での教科学習指導以外にも活用の機会

生徒一人ひとりがタブレットなりスマホなりを持っていれば、電子会議室を用いた議論をさせることもできます。
学校行事に向けた班ごとの話し合い、係の仕事、委員会活動などがすぐに思いつくところですが、目標の設定、計画作り、進捗管理などもいちいち集まって話し合わずともできることがあるはずです。
対面でしかできないことも多々ありますが、一方で、互いの時間を調整するのもひと手間ですし、他の活動との折り合いをつける中で、参加できない生徒が出てしまうのも、「対面での話し合い」を唯一の手段と考えるところから生まれる弊害です。
時間をずらした議論の積み上げは、メンバーが都合をつけ合うのを容易にするだけでなく、相手に伝えるために思考を整理し、言語化してまとめる練習にもなりますし、文字として残った各メンバーの発言/投稿をじっくり読んで、自分の頭を整理する時間も持てます。
こうしたリモートでの対話を重ねて、問題を整理し、話し合いに焦点を持たせてから、対面での協議に移行すれば、得られるものは大きくなるでしょうし、このやり方の利点と方法を生徒が学ぶ機会にもなります。
情報スキル、ひいては21世紀型能力の獲得と向上には、教科学習指導以外の活動も積極的に活用し、その場を作っていきたいところです。

❏ 一番大事な「自分との対話」にもICTを活用

本稿のサブテーマの「対話」では、もう一人「自分」という、とても大切な相手がいます。進路の選択などはまさに自分との対話の積み重ねの中で行うものではないでしょうか。
一度に決断まで至るのではなく、調査や体験を重ねながら、考えを固めていく必要がある事柄では、自分が以前に考えたことを思い出したり、客観的に見直してみたりすることも多々あるはず。体験のたびに感じたことをしっかり考え、言語化&記録しないと、自分との対話がきちんとできません。
もちろん、考えたことをメモに残すのは、ICTを使わずとも、手帳などでもできますが、いつも持ち歩いているスマホなら、何かを思いつくたびにメモを残すのも容易なはず。手帳や筆記用具をもたないことはあっても、中高生がスマホを持たずにいるのはレアなような気がします。
その場ではまとまりのないメモでも、打ち込んで置きさえすれば、時間ができたときに整理しなおし、きちんとした「考え」にまとめることもできるはずです。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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