授業を終えてからの学びの「仕上げ」と「拡張」

授業は50分という限られた時間の中で行われるものですから、その中でできることには自ずと限りがあります。
授業内での学びで得た知識や気づきを携えて課題にじっくり取り組み、学びを深く確かなものにすることや、教室での学びの中で刺激された興味や関心に沿って学びを拡張していくことで、学びの総量(深さ✕広さ✕密度)を大きくしたいものです。

2020/01/27 公開の記事をアップデートしました。

❏ 教室での気づきをそのままに放置しない

授業中にどれだけの気づきがあっても、それをもとにじっくりと考えたり、理解したことを言語化してみないと、気づきは断片的なままです。見落としていたことや理解し損ねていたことがあることも認識できず、そのままにされてしまいます。
テレビで情報バラエティ番組を観て「なるほど」と思うことは多々ありますが、大抵はそのままにしてしまうので無知の領域は手つかずのまま放置されます。似たようなお題でも再び「ボーっと生きてきてすみません」と謝ることになりそうです。
深く考えるには、「起点となる問いや課題」が必要ですから、授業を終えるときには、その日の学びをもとに解を導くべき課題をきちんとセットしてあげることは指導者の大事な仕事のひとつだと思います。

先生が正解や模範解答を示した瞬間に生徒は、それ以上考えることを止めてしまいがちです。「あとはこれを覚えればOK」という意識に切り替わってしまえば、そこから先の学びの深まりは期待できません。
別稿で書いた「隠されているものは覗きたくなる」という心理を利用すべく、ときには、結論を出さずに終える授業も仕掛けてみましょう。

❏ 学んだことを振り返りながら、次の問いを立てさせる

学びの仕上げに好適な問いは、先生が用意してあげるのが最も確実で簡便な方法でしょうが、それだけでは生徒は自ら問いを立てる力を身につける機会を持てません。生徒自身が教科書やノートに目を通し直して、自ら問いを立てるよう、そうした場を積極的に作っていきましょう。

教科書に書かれていることでも、「本当にそうなのか」「なぜこう言えるのか」を考え、物事を鵜呑みにせずに事実を確かめて行く姿勢(ファクトフルネス)は、これからの社会を生きていくために必要な力です。
“PISA2018″では、「読解力の順位が下がった」と大騒ぎになりましたが、日本の生徒の失点が多かったのは「情報の質と信ぴょう性を評価する」や「矛盾を見つけて対処する」といった、新たに読解力要素に加えられた部分でのことです。cf. PISAが測定する「読解力」
書かれていることを鵜呑みにしていては、矛盾を見つける力も身につかないでしょうし、それに対処する方法を学ぶ機会もありません。
学び終えた範囲に改めて質問を作らせることが、背後にあるメカニズムや行間に隠れている考え方に意識を向けさせるのに効果的な方法です。

❏ 学んだことをもとに行う「拡張型調べ学習」

教科書や先生が用意した資料/プリントに書かれていることをきちんと調べ/改めて深く考えてみることに加えて、授業内で見出した興味や関心を起点に「拡張型調べ学習」に取り組ませてみるのもお奨めです。
教科書内容を理解するのに精一杯という生徒に、プラスα の課題を与えても、容量超過で「仕上げ切れないことを増やすだけ」という結果になりますので、あくまでも任意課題という位置づけになります。

授業で扱った課題やテーマに別のアプローチはないか、異なる考え方で解決に取り組んでいる人はいないかなどを調べてみて、そこで知ったことをミニプレゼンにまとめさせている実践を方々で見かけます。
生徒は授業でベースになる知識・理解を得ていますので、インターネットで検索するためのキーワードを所持していますし、先生が参考図書を挙げてあげれば図書室に足が向くかもしれません。(当然ながら司書の先生との事前の打ち合わせ、蔵書の点検と整備が必要ですが…。)
理科や社会だけでなく、英語や国語で読んだ文章を起点にすることだってできます。本文に登場した重要語彙は検索のキーワードになり、授業で得た知識は自ら調べて行くものを理解する土台になります。
教科書で学んだ瞬間こそが、その先の学びに向かう絶好機です。
拡張型調べ学習は、当然ながら生徒自身によるアウトプットを伴いますので、提出してきたものには肯定的・建設的なフィードバックを行うことで生徒の興味・関心、さらには自己有能感を刺激できます。
好適なアウトプットは教室内外で他の生徒とシェア(授業内での紹介や校内掲示、教科通信などへの掲出)をすれば、学びのコミュニティに相互啓発が働きますので、生徒が互いの頑張りを支え合う集団作りの一助にもなるはずです。

❏ 生徒が自力で進められる工程は授業外学習に

授業を終えてからの学びの「仕上げ」と「拡張」は、授業時間の枠には収まり切れないことも十分に想定され、実際にはその多くが、教室を離れて行う生徒の自学自習に任せることになろうかと思います。
教室を出るまでの学習活動の中で、生徒が自力で仕上げと拡張に挑めるだけの「レディネス」を整えさせておく必要があるということです。
先生との問答、生徒同士の話し合い、資料や文献を介した先人との対話などで「起点となる気づき」をしっかり積ませておくのに加えて、必要な情報へのアクセスにも十分に習熟させておく必要があります。
まさに、学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められるということであり、そのためには、原因から考える家庭学習時間の延伸策をどれだけ効果的に講じることができるかが問われることになりそうです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一