PISAが測定する「読解力」

国立教育政策研究所から『OECD生徒の学習到達度調査2018年調査』の結果 が発表され、テレビや新聞では「数学や科学は上位をキープしたが読解力で大きく順位を下げた」と大きく報じられています。
結果はたしかにショッキングなものかもしれませんが、騒いでいるだけでは問題の正体を見失うような気がいたします。

❏ 測定する能力に新たに加えられた2項目

同研究所のホームページに掲載されている「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査のポイント」の 4ページ目に言及されている通り、今回のテストから【読解力の定義】が一部変更され、測定する能力には「質と信ぴょう性を評価する」と「矛盾を見つけて対処する」の2つが追加されています。

 

日本の生徒の正答率が低い問題には、この新しい測定能力を試すものが含まれています。読解力の国際順位が下がったことを嘆いたり、読解力を高めるにはどうすべきか議論したりする前に、「読解力って何?」というところに立ち戻る必要があるように感じます。
ちなみに、上記の報告書は図版込みのわずか16頁というコンパクトなものです。一度はきちんと目を通しておくべきだと思います。

❏ 新定義にそった学ばせ方への転換は急務

報告書では、以下の2問で日本の生徒の正答率がOECD平均を下回っているとの指摘がなされています。
課題文2:オンライン雑誌記事 (商品の安全性について別の見解)

問4: 必要な情報がどのWebサイトに記載されているか推測し探し出す‥【測定する能力①情報を探し出す】
課題文1と2を比較対照

問6: 情報の質と信ぴょう性を評価し自分ならどう対処するか、根拠を示して説明する‥【測定する能力③評価し、熟考する】

いずれも、従来型の(あるいは伝統的な)テストでは問われることがなかった能力を要求していますので、これまでと同じ教え方/学ばせ方をしていては、読解力の大きな向上は望めないように思います。
新テストの試行問題でも、問題を考察するに当たりどの資料に当たるかを訊いたり、対立する意見の落としどころを探させたりする問いが登場していましたが、試そうとしている力/測定する能力という点では、同じ方向だと思います。
PISAでは、読解力を以下のように定義しています。読解力という用語こそ、従来から広く用いられているものですが、指しているものには小さからぬ違いがありますよね。

自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組むこと。

読解力という言葉の成り立ちに縛られてしまうと、「読んで理解する力=読解力」という捉え方になりがちですが、新しい定義による読解力には、「読んで理解したことをもとに行う思考や判断」、さらにはその先にある「当事者としての行動」までが含まれています。

❏ 全教科を挙げて取り組む総力戦+探究型学習

こうなってくると、読解力の育成を国語や英語といった言語系の教科での指導だけに委ねるのは現実的ではなさそうです。
あらゆる教科・科目の中で、教科書をしっかりと自力で読ませることは当然として、解くべき課題を与えた上で、様々な資料を与えて読ませることにこれまで以上に注力する必要があると考えます。
読解力を身につけさせる指導は、「全教科の先生がそれぞれの立場から参加する総力戦」です。cf. 全教科でコミットすべき能力・資質の涵養
当然ながら、読ませて終わりではなく、書かれていることの信ぴょう性を評価したり、別の資料・データに当たりながら真偽を確かめることもタスクの中で求めていく必要があると思います。
そうした学びをデザインしようと思えば、当然ながらPBL(課題解決型学習)の要素を授業に採り入れなければなりませんし、そこで身につけた様々なスキルや能力を統合し、さらに磨きをかける場としての「探究型学習」の整備が必要になるのは必然ではないでしょうか。
続編:PISAが測ろうとしている「創造的思考力」
■ご参考記事:

  1. 教科書をきちんと読ませる
  2. 生徒に問いを立てさせる
  3. 調べたことの先に~新たな知と当事者としての関わり
  4. 探究活動を通して養う”ファクトフルネス”
  5. 新しい学力観の下での授業デザイン(まとめ)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一