限られた授業時間を有効に使う

新課程への移行で、「各単元の学習内容をしっかり理解させ、知識として定着させた上で、且つ思考力や判断力、表現力も高める」という高い要求が教室に向けられます。これまで以上にやるべきことが増えるのは明白ながら、授業時間は基本的にこれまでと変わりません。
この結果、当然ながら、「授業時間をいかに有効に使うか」がこれまで以上に重要な課題となりますが、解決のアプローチを何かひとつに求めたところで限界があるのは明白です。様々な観点からの解決策を考え、それらを組み合わせて対応するしかなさそうです。
思いつくまま、取るべき戦略をざっと挙げていくと、以下のようなリストになるのではないでしょうか。

  1. 生徒に何かをやらせているときに他の処理を済ませる。
  2. 生徒が個人でできることを教室での活動から切り離す。
  3. 各教科(+探究)での学びの重なりをうまく使う。
  4. 行事の見直し(効果測定)を経て教育活動を精選する。

❏ 学習に直接つながらないちょっとした時間を削る

教室を訪ねて授業を拝見していると、始業の礼から出席確認という流れをお決まりのように行っているケースがまだ見られます。ごくわずかな時間ですので目くじらを立てることもありませんが、こうしたちょっとの時間も積み重なると結構大きなものになります。
出席を確認する中で生徒に一人ひとりの様子を観察して体調などに問題はないか把握することも大事ですが、それだけなら導入フェイズで行う既習内容の復習での問答の中でも十分にできますよね。
観察の記録を残すにしても、配布したプリントを生徒が後ろに流している間にもメモを取る時間は十分にあります。
机の配置をスクール形式から島型に変更させるときも、あれこれ口頭で指示を出すよりプロジェクタでフォーメーションを提示した方が時間の短縮になりますし、習慣化を通じて細かな指示を不要にしておき、通路に荷物を置かないことを徹底すれば、時短効果はさらに大きいはず。
瞬間ごとの所要時間は10秒だったとしても、毎回の授業で3回そうした場面があり、週3回、年35週の積み重ねではトータル3,150秒、52.5分という時間を生み出すことができます。その時間は、本来ならば、生徒が考えたり、話し合ったりするのに当てることができるはずです。
このほかにも、ちょっとずつ削れる無駄な時間はありそうです。

  • グループワーク中に観察したことをフィードバックするにも、活動をストップさせて話を聞かせるのではなく、板書しておいて生徒それぞれのタイミングでそれを読めるようにしておく。
  • 実験や実習の作業手順や注意点をプリントで配ったのなら、いちいち読んで聞かせるのではなく、生徒に読ませて、要所だけ問い掛けで確認する。(読む力を高める効果も期待できます)
  • 授業内の活動の配列は、予め板書するかスライドを用意しプロジェクタに表示しておくことで、生徒が常に次の工程をあらかじめ認識できるようにしておくことで、流れを切らないようにする。

❏ 生徒が個々に取り組める範囲を押し広げて行く

別稿「教室でしかできない学びを充実~問いを軸に授業を設計」でも書いたことですが、教室外での生徒個々の活動でカバーできることは、教室の中でわざわざ時間を割いて行わない方が、授業時間を有効に活用するにも、生徒を学習者として自立させる上でも有利に働くはずです。
授業を通して単元理解の核をしっかり作りさえすれば、周辺に整えるべき知識は、教科書や副教材を読ませ、サブノート式のプリントの穴埋めに取り組ませることで獲得を図らせるようにしたいところです。
もしできないというのであれば、やらせていなかったのではないでしょうか。学び方における守破離を意識して指導計画を練りましょう。

また、本当なら予習させたいことなのに、生徒ができないからと授業でカバーしていることもあるのではないでしょうか。
もしそうした部分が残っているようなら、いつまでも現状を続けるのではなく、生徒ができるように指導を重ねる/できる環境を整えることに解決策を求めるべきです。
予習で必要なスキルは、同様のタスクを授業内で経験させながら獲得させて行くようにしましょう。生徒が自力でできることを徐々に増やしていくことに注力しないと、いつまでも授業時間を有効に使えません。

❏ 学習内容ごとに作る解説動画のライブラリー

解説動画を見せれば授業の代替になるような箇所(例えば、どのクラスでも一様に教えることになる各単元の基礎事項など)は、ビデオを調えてYouTubeなどにアップしておけば、生徒はそれを見て予習できます。
その部分に当てていた授業時間をほかのこと(対話的な学びなど)に当てることができるようになるということです。
単元固有の決まった知識を項目ごとに解説する場面では、誰がどう教えるかによる違いは微々たるもの。学びの工程のパーツとして用いるだけなので、授業のデザイン(学習活動の配列)の自由度も損ねません。
教科内で分業して各単元で必要な「最小限の知識セット」をライブラリーとして整備してしまえば、既習内容の理解不足といった個々の生徒が抱える問題にも、「個別に教える」以外の解決策が生まれます。
既習内容なのに記憶が保持できていない/想起できなくなっているような場面でも、「教え直し」という手段に頼るしかなければ、貴重な授業時間をいくらでも使ってしまうことになります。
クラス全員に「復習ビデオ」を見せては、無駄な時間となる生徒も出てきます。次の授業に向けた予習の課題として「既習内容の確認テスト」を課し、解けなかった/不正解だった/答えの根拠に自信がない場合には指定した動画を見せるという「点検(診断)」→「対処(処方)」をセットにした課題付与も考えましょう。
ビデオを作る手間も小さくありませんから、インターネット上で公開されている中から「これぞ」というものを見つけて活用してしまうという手もあるのではないでしょうか。自分が教えなくても、生徒が理解し知識を獲得すれば、それで目的は果たせるはずです。

ちなみに、授業を終えて一定以上の理解ができた生徒に、ちょっと難しめの問題にチャレンジさせて学びの拡張を図ろうという場面でも、動画の利用は効率的です。クラスや年度を超えての使いまわしも可能です。講習会などでビデオを自撮りしておけば、制作の手間もいりません。

❏ 先生方の協働/組織の取り組みで生まれる解決策

冒頭で挙げた解決へのアプローチのうち、「3. 各教科(+探究)での学びの重なりをうまく使う」と「4. 行事の見直し(効果測定)を経て教育活動を精選する」の2つは、先生方がご自身の担当する授業の中だけでは効果的な対策を講じるのは難しそうです。
分掌、学年、教科といった組織を巻き込んだ協働があってこそ、うまく機能するのだと思います。
詳しくは、以下の別稿に譲りますが、自分が行う授業、指導者として関わる教育活動に目を向けているだけでは、手持ちの時間を本当に有効に/効率的に使っているかの判断も誤る可能性があります。
生徒の側での視点に立ち、3年間あるいは6年間の学校生活全体の中で学んでいくこと/体験することを冷静になって考え直してみましょう。案外、「この指導は今、この科目の中でやらなくてもいいんじゃね?」という部分も見つかったりするものです。
限られた授業時間を有効に使う(追記)に続く。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一