生徒に問いを立てさせる(続編)

以前に起こした拙稿「生徒に問いを立てさせる」では、問いを立てることは教材に深く関わることであり、問いを立てることで学びは広く・深いものになる、ということを申し上げました。
どんなジャンルの文章でも、問いを立てながら読むことで初めて書き手との対話が生まれます。グラフやデータ、あるいは絵画などの言語以外の方法で表現されたものも同じです。
このようにメリットの多い「問いを立てる」というタスクには、教室で早いうちから取り組ませるべきだと思います。その方法に習熟させることで、生徒を学習者として一段高いステージに引き上げられます。
しかしながら、ただ問いを立てるだけでは、薄っぺらで通り一遍な活動になってしまいます。問いを立てるタスクに、どのような手順・構成で取り組ませるかも、しっかりと考えてみる必要があると考えます。

❏ 問いを立てさせる前に、学習範囲をしっかり読ませる

本時の学習範囲の中に問いを立てる、という活動に取り組ませるに際して、まず取り組ませるべきことは、教科書や関連資料(副教材やプリント)をじっくり読ませることです。
書かれていること(=紙面に文字として表現されていること)すら把握しないままでは、問いを立ててみたところで、「いや、それは書いてあるよね」と突っ込まれるような表層的なものになってしまいます。
書かれていることは分かった、けれども何かモヤモヤ(疑問)が残るという状態に到達したときが、問いを立てるタスクに進む好機です。
そのモヤモヤを、他者と共有できるようにきちんと言語化することこそが「問いを立てる」ということだと思います。

❏ 理解の途上で生まれたモヤモヤを言語化する

何か疑問や違和感を感じても、それがうまく言葉にできないことは日常生活の中でもありますが、それは疑問の正体が掴めていないからです。
疑問をちゃんとした言葉にする(=問いに仕上げる)というタスクに取り組むことは、自分が何に対してどういう違和感を持ったのか突き詰めていく「自分との対話」にほかなりません。
疑問の正体を明かそうとする生徒はテクストや資料に立ち戻りますが、その中で教材の理解はさらに進みますし、新たな疑問を見つけることもあるはず。学びはどんどん深まります。
そうこうしているうちに、疑問を具体化(=言語化)される前に、「答え」を先に見つけてしまうことも多々ありますが、答えを見つけたことで疑問が何であったかを特定できることも少なくないはずです。
問いを立てて解決する活動が自己完結したことになりますが、それはそれで良しです。既に教材の理解は、疑問という焦点を当てた(=サーチライトを向けた)部分に関して、かなり深まったと考えられます。

❏ 立てた問いをシェアして、より多角的に教材を理解

如上のモヤモヤを感じる箇所は、生徒によって異なります。この段階で活動を終了しては、教材にある一面からしか向き合っていないことになり、全体を広く、深く理解したことにはなりません。
他の生徒やグループが立てた問いには、自分とは違うところに焦点を当てたものが含まれるはずですので、それぞれの生徒/グループが立てた問いをシェアすることで、教材を掘り下げる視点を多角的に持つきっかけを与えましょう。
各生徒/グループが立てた問いを提出させ、面白そうなものを先生がピックアップして、クラス全体でシェアしてみるのが好適です。
多くの教室では、全グループが順番にそれぞれ成果を発表するスタイルを採りますが、すべての生徒に「発表の機会」を均等に与えることは、必ずしもプラスにばかり作用するわけではありません。
より多くのものを学べるものを選んでシェアした方が効率に勝るのみならず、自分(たち)が作ったものが選び出されたという体験は、誇らしさや喜びとして次のモチベーションにもなります。逆に、仕上げに至らなかったものを公開されても決して心地よい体験ではないですよね。
ちなみに、紙のワークシートでは回収、返却の手間も増えますし、管理も面倒です。環境が揃っているならICTを活用したいところですね。

❏ 誤答を予測させることで、学びをさらに深める

生徒に問いを立てさせるとき、模範解答や解説を同時に起草させるのがよくあるパターンですが、学びを深めたいなら、「誤答を予測する」というタスクも追加してみたいものです。
個人ワークで取り組ませても発想が膨らまずに、盛り上がりもしないでしょうから、グループワークにするのが好適です。
誤答を予測するというのは、さまざまな解法や考え方を想定して、ポイントになる箇所でどんな誤解やミスが生じるか(=どこに注意して解かなければならないのか)を考えることにほかなりません。
数学など、正解は一つでもそこに至る工程が複数ある場合は、解法をひとつに絞らず、様々なものを考えないと誤答は予測しきれません。
当然ながら、別解の考案にも取り組むことになりますので、思考の拡充が図れますし、別単元の内容の復習機会にもなるはずです。
論述タイプの問題(特に正解が一つに決まらない問題)では、誤答というより「解答条件を満たさない答案」ということになりますが、答案例を想定するのはかなりハードルが高いタスクなので、採点基準案を考えさせることで代替するぐらいに抑えた方が良いかもしれません。
定期考査ごとに、答案返却時に採点基準を示しておけば、採点基準はどういうものか、生徒はぼんやりとながらも学んでいるはずです。過年度に校内で実施した模試の「採点講評」なども教材に使えそうですよね。

❏ 問いを立てることは出題者の意図を学ぶ機会

生徒に問いを立てさせることの、第一の目的は教材との深い関りを持たせることにありますが、出題者の目線に立つ経験を持つことにも大きな意義があります。
出題者の視点で教材に向き合ってみると、どんなスタンスでその科目を学んでいくべきか改めて気づくことも多く、その後の学びにも方向性が得られたりするものです。
ちょっと特殊なケースですが、志望校別の対策講習などで「○○大学の出題を予想して問題を作ろう」といったアクティビティを(息抜きを兼ねて)組み込んでみるのも面白いと思います。
大学がどんな視点で問題を作っているかを知ることは、その大学がどういう力を備えた学生を求めているか(=アドミッション・ポリシー)を知る好機にもなるのではないでしょうか。



蛇足ながら、だいぶ昔、模擬試験の問題を作っていた頃に一番苦労したのは誤肢(誤りの選択肢)の作成です。同一ジャンルの別語句を埋め込んだり、否定と肯定を入れ替えたりといった細工だけでは、気の利いた誤肢は作れません。
解答者の思考をシミュレーションしないと、選択肢の拙さで設問自体がつまらないものになってしまいます。原稿の締め切りを前に苦悶していたことが今でも思い出されます。
特に、大学別模試の場合は、アドミッション・ポリシーに沿った出題方針に加えて、採点基準にも大学独自の視点があります。
得点開示で得た情報と再現答案を照らし合わせて採点基準を推測していましたが、この工程を端折っては、大学が求める学力を捉え損ねてしまい、対策指導の主眼を置き間違えるリスクを抱えてしまいます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一