授業を観てもらう「チャンス」を活かす

授業を改善しようとするとき、他の先生にご自身の授業を観てもらうのは、とても有益です。改善に向けた直接的で効果的なアドバイスをもらえる期待もありますが、それ以上に「異なる見方/考えに触れる中で、これまでの実践を相対化してみる」ことに大きな意味がありそうです。
自分では様々な改善を重ね、「これが最善」と思えることを実践していても、気づかずにいることが思わぬところにあったりするもの。そんな点に気づくには、他者の目を通した観察が欠かせないはずです。

❏ 課題形成と軌道修正に他者の目を利用する

授業改善(より良い授業の実現)を着実に進めるには、改善にむけた課題形成と改善行動の効果検証が欠かせないのは言うまでもありません。
授業評価アンケートの結果などからも改善すべき箇所に当たりがつけられますが、現状で課題を抱えるに至った具体的な要因を特定するには、ご自身の授業を相対化する、つまりは高い評価を得ている授業との違いを見つけることが最初のステップになるのではないでしょうか。
教科会での実践報告や授業の相互参観などで好適な取り組みを学び、それに参考にした/倣ったつもりなのに、思い描いた反応を生徒から引き出せないときは、どこかに違い(倣いきれてないところ)があるはず。
誰かに実際の授業を見てもらえば、そうした違いがどこにあるか、見つけてもらうこともできます。自分撮りをしてもなお、しっくりくる実践にならないときは、他者の目の助けを借りてしまいましょう。
他の先生の授業(好適実践)を実際に参観したことがある先生でなければ、違いの探しようがありませんので、観てもらうお願いをする相手探しでは、相互参観をご一緒した先生が第一の選択だと思います。
改善を図っている途中でも、「意図した方向に向かっているか」を第三者の目で見てもらえば軌道修正のチャンスが生まれます。相対化することなく「思い」だけで走っても、方向が違えばゴールは近づきません。
改善課題の形成にも、中途段階での軌道修正にも、一人で頑張るより、他の先生にちょっと手伝ってもらった方が効率に勝るということです。

❏ 傍から見ること/見てもらうことの利点

授業者に比べて、参観者の方が、視野を広く持ちやすいのは言うまでもありません。進めている指導に注意を集中しながら、教室で起きていることを漏れるところなく俯瞰するのは容易なことではありません。
傍目八目という言葉がありますが、囲碁や将棋の対局だけでなく、教室で先生と生徒が向き合う場面(授業)でも同じことでしょう。
前述の通り、優良実践(=授業評価アンケートなどで高い評価を受けた=自校の生徒が備える学習者特性にマッチした授業)を観てきた先生ならば、比較しながら微妙な差異にも気づいてくれるはず。
また、様々な授業を観てきた人なら、参観したことのある様々な実践の記憶と照らした観察と助言が期待できます。周囲にいる授業研究に積極的な先生方も上手に「利用」(協力を依頼)しましょう。観てきた授業の数だけ、相対化の材料も多く持っているということです。
時間割の都合などで教室に足を運んでもらえないときは、50分を通して撮影した授業動画を渡して観てもらう手もあります。(早送りもできて効率的ですが、生徒のやり取りなどは観察が困難。一長一短です。)

❏ 取り組んでいる改善課題を参観者に伝えておく

授業を観たり助言したりするときの視点を、観察者に任せてしまうのではなく、ご自身が考えている改善課題を伝えて、そこに焦点を当てた観察と助言を求めることも大切だと思います。
ご自身の抱える改善課題と、観察者の視点が一致しないと、欲しいところで助言が得られず「消化不良」が残ります。参観者にしてもどこに注視すべきかフォーカスを得た方が、観察がしやすいはずです。
参観後のやり取り(フィードバックや協議)も、同じ方向を見据えて行えますから、建設的で実りの大きなものになると思います。
ただし、意識的に改善に取り組んでいる箇所以外にも、喫緊の課題を知らぬ間に抱えていることも少なくありません。焦点を持ってもらうと同時に、気づいたことは何でも伝えてもらうようにしましょう。
より良い授業の実現に向けた、新たな課題を見つけ出すことも、授業を観てもらうときに目指すべきことの一つです。

❏ 助言をどう取り入れるかが知恵の使いどころ…

参観者からもらえる助言には、当然ながら、これまでのご自身のスタイルや実践、考え方とは方向性の異なる(ときに相容れないと感じる)部分もあるでしょうが、それにどう向き合うかも大切です。
助言を受け入れるか、従来の方法を続けるかの単純な二者択一ではありません。新たな発想を自分の持つものにどう組み入れるかです。
助言を通じて得た発想を、既に持っているご自身の技術や発想、知見と効果的に組み合わせることで「最適解」に近づけるかどうかが、授業者としての成長を分けるのではないでしょうか。
ここでの思案には、しっかりと立ち止まって時間を掛けたいところ。変化の積み重ねこそが成長であると考えるのが建設的だと思います。
まずは、受け取った助言を、そこに含まれている要素に分解してみて、ご自身の授業にパーツとして取り込んでみたらどんな変化が生じるか、シミュレーションしてみるところからのスタートだと思います。
どのように新しい組み合わせを作っていくか、それまで縛られていたものにどう整理をつけるか(取捨選択、優先順位の入れ替え)を考えるときの基準は、新しい学力観、新課程が求める「新しい学ばせ方」との整合性であるのは言うまでもありません。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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