選ばれなかった理由を探り、次のメッセージを編む

学校広報を通じてステークホルダーとの良好な関係を築くには、発信を充実させるだけでは不十分であり、双方向のコミュニケーションに注力して相互理解を深める必要があります。発信と同等の力を「相手の声に耳を傾け、それに応える姿勢と行動を示すこと」に注ぎましょう。
ここでいう双方向コミュニケーションには入学相談会などでの個別面談も含まれますが、アンケートなどを通じて「潜在志願者」や「説明会来訪者」といった集団の反応を探っておき、学校の行動や意思表示を以てそれに応えるという形もあるはずです。

2018/05/16 公開の記事をアップデートしました。

❏ 不出願者の回答にこそ「選ばれなかった理由」がある

学校評価アンケートなどで在校生や保護者、卒業生などの声に耳を傾けて、教育改善に役立てていくこともコミュニケーションに双方向性を持たせる活動の一つです。
しかしながら、学校評価アンケートは、(志望順位は別として)学校を選んでくださった方の回答しか集められないという弱みがあります。
学校説明会に来場してくれながら、出願に至らなかった方の回答の中にこそ、解消を図るべき「学校が選ばれなかった理由」を見つけられる可能性があるのではないでしょうか。
一部の学校に限られますが、入学者が決まったタイミングで、資料請求者や説明会来訪者で出願しなかった方/合格しながら入学手続きをしてくれなかった方に郵送やWEBでアンケートを行う事例も見られます。

❏ 説明会来訪者と入学決定者の回答データの差分から

不出願者に対するアンケートを改めて取るのは容易ではありませんが、普通に行われている学校説明会での来訪者へのアンケートの回答データを再利用することも検討しましょう。
学校説明会で得たデータと、入学した生徒、保護者に対して行ったアンケート(学校評価など)のデータを比較すれば、両者の差異から「選ばれた理由」「選ばれなかった理由」が推定できることもあります。
学校に期待することは何ですかという問いの下に、答えとして想定できる事柄をいくつか並べておき、尺度で答えてもらえば準備はOK。
2つのアンケートの回答分布に生じた差の中に、自校を選ばなかった/他校を選んだ理由を見つけられれば、その後の戦略も描けます。
学校を選んで入学してくれた生徒/保護者に「なぜ本校を選んだのか」を訊いても、明らかになるのは「選ばれた理由」だけのはず。解消を図りたい「選ばれなかった理由」を探る材料にはなり得ないはずです。

❏ メッセージが心をつかんだかを確かめる

学校説明会の終了時には、説明が十分な理解を得たか、発信したメッセージが共感を得たかをしっかりと確かめてみるようにしましょう。

理解が得られなかった/共感を引き寄せきれなかったところも、伝え方などが「選ばれなかった理由」を生みだしていた可能性があります。
説明の中で強調した事柄(教育理念や教育方法)を列挙しておき、それぞれに対して「どのくらい関心があったか(=聞きたかったか)」を尋ねてみれば、受験生や保護者の期待がどこにあるか探れます。
さらに、各々について{共感できた~よく理解できた~少しわかった~興味が引かれなかった}を選んでもらえば、学校が発信したメッセージがどこまで訴求したか確かめてみることができます。
来訪者の関心にはきちんと応えなければなりませんし、共感を得られなかったことは次回までに伝え方や内容を更新していく必要があります。
伝える内容の取捨選択や、個々の事柄に与えた表現をアレンジすることで、掴み損ねた心にメッセージを到達させることができていたら、学校を選択する/しないの結果も違ったかもしれません。

❏ 来訪者のニーズをその場でつかむWEBアンケート

来訪者の関心には、できれば会場を後にするまでに応えたいものです。
大半の来訪者はスマホを持っていますので、受付を済ませてから説明会が始まるまでにWEBでアンケートに答えてもらうことも可能です。
Googleフォームでアンケートを作っておき、説明会資料にQRコードでリンク先を印字しておけば、回答してもらう準備は整います。
集計はリアルタイムにできますので、来訪者が知りたいと思っていること/不安を感じていること(=関心の所在)を把握してから壇上での説明を始めることも可能です。
こちらの言いたいことだけを一方的に伝えるだけの場合と、相手が欲しているものを把握した上で伝え方をアレンジした場合とでは、相互理解や良好な関係を築けるかどうかに雲泥の差が生じます。
なお、アンケートには「答えてもらうことで相手の関心を刺激する」という機能があり、事前に回答してもらうことで、説明会で壇上から発したメッセージが伝わりやすくなるというメリットも小さくありません。

❏ 寄せられた声に答え、次のメッセージを編む

説明会には何百人もの方が来訪することもありますので、すべての質問に答える十分な時間が必ずしも取れるとは限りません。
かといって、受験生や保護者に疑問や関心を抱えながら帰宅の途につかれては、それまでになってしまいます。次回の説明会にも同じ人が再び来てくれるとは限らず、タイミングを逸したら終わりです。
少し言葉を補うことができれば、その場で理解や共感を得ることができたとしても、時間切れで質疑応答を切り上げざるを得ないことも、参加者の多さに気圧されて参加者が手を挙げ損ねてしまうこともあります。
そうした「聞こえない声」を拾うすべすら持たずに、正しいメッセージを届けられない(生じた疑問へのフォローが取れない)のでは、双方向でのより良い理解が生まれる期待はなくなっていきます。
アンケートで寄せられた質問や意見のうち、答えを返しきれなかったものについては、学校ホームページに「Q&Aの特設セクション」を設けて回答するというのもやり方の一つです。SNSも活用しましょう。
説明会で配布した資料にその旨を記載し、終了時に口頭でも触れておけば、学校HPを開いてもらえたり、SNSをフォローしてくれるかも。学校が目指すところをより良く知ってもらうチャンスが膨らみます。



言うまでもありませんが、「選ばれなかった理由」を解消するのに、説明会や学校HPの「内容構成の変更」や「表現の見直し」だけではどうにもならない部分もあるはず。教育活動そのものに手を入れ、「学校に向けられている期待」に応えきれるものに作り替えていきましょう。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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