プレゼンテーション/成果発表を機につくる成長の場

探究活動を始めとして生徒が自分(たち)が取り組んできたことの成果を発表する機会は以前に比べて多くなっています。日々の授業の中でも個人/グループで調べ学習や討論を行った結果をプレゼンテーションにまとめるのは既に「ごく普通の光景」になったように思います。
プレゼンテーションの準備に取り組む工程での試行錯誤や努力そのものに加え、発表の場を通して得る直接/間接のフィードバックは、生徒にとって他に代えがたい成長をもたらしてくれるものだと思います。

❏ プレゼンの準備や体験で成長への刺激を得ても…

リフレクション・ログや授業評価アンケートの自由記述などを見ると、
「プレゼンの準備は大変だったが、やりがいもあり達成感が得られた」

「グループでの議論の中で色んな考えがあることに気づけた」

「他グループの発表を見て、自分に不足するものがわかった」

「他の生徒の頑張る姿に、おいて行かれないように頑張ろうと思った」
といったことが書かれており、プレゼンテーションの準備フェイズでの体験や実際に発表を行った経験の中に、成長のための原資となる刺激を生徒は得ていることが伝わってきます。
しかしながら、実際の指導場面や指導計画の流れを見てみると、その刺激をきちんと消化して成長につなげられているケースばかりではないように思えます。
こうした問題の原因の一つは、成果発表会に「ゴール」としての役割しか与えられていないことにあるかもしれません。
プレゼンテーションに向けた準備の中での成長も、自分なりの課題を明確にして準備に取り組むときと、初めての体験を楽しみつつも戸惑いながら進めるだけのときとでは、成長の確かさや得られるものの大きさには小さからぬ差が生じるのではないでしょうか。

❏ 相対化、振り返り、課題形成を経た再チャレンジ

成果発表会に向けてプレゼンテーションを調える工程は、多くの生徒にとっては初めての体験です。ひと通りのやり方は「ガイダンス」などを通して学んだとしても、実際のところは手探りで作業を進めます。
現状で駆使できるようになっているスキルを使うことに、見聞きした方法を見よう見まねで加えてみるだけのことも多いと思います。
一度やってみて、周囲の取り組みやパフォーマンスと比較する機会(探究ゼミの中での中間発表など)を経て、自分たちのやっていること/やってきたことを相対化してみてはじめて、何が足りないかに気づき、それを克服しようという意識と行動が生まれます。
振り返りのためには「相対化」が必要であり、振り返りは「次に向けた課題形成」ができたかどうかで成否が決まります。
また、せっかく形成した「より良いパフォーマンスのための課題」も、実際の行動としてそれに取り組む機会が確保されていなければ、放置されてそのまま、結果的に何も得られないということになりかねません。
発表やプレゼンをゴールにして「ナイストライ!(+拍手)」で終えては、せっかくの成長の機会も十分に生かしきれないということです。
探究活動に取り組ませる中で、相対化、振り返り、課題形成、再度の/新たなチャレンジというサイクルがきちんと作り込まれているか、指導計画をきちんと見直してみるべきだと思います。
教科学習指導において「答えを仕上げる中で学びが深まる」のと同様にプレゼンにおいても、直すべき点に気づいてから仕上げ/やり直しに取り組むことで、学びは深く確かなものになり、より大きな生徒の成長が期待できるはずです。
生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)とも、似たところがあるのではないでしょうか。

❏ 発表者がより多くのフィードバックを得られるように

探究活動などの成果発表を文字通りの「成果を発表する場」に終わらせず、次に向けた課題形成のための相対化と振り返りの機会とするには、十分な量の、建設的なフィードバックが発表者に届くことが大切です。
発表を参観する生徒に記入させる評価シートの使い方にも工夫が必要だと思います。幾つかの観点とそれぞれに段階的な評価規準を設けたルーブリックを用意し、生徒に使わせているケースも増えてきましたが、記入したものを提出させて終わりというのでは十分に生かしきれません。
他の生徒から得た評価の結果に、発表した生徒本人がアクセスできないのでは、周囲からのフィードバックが得られないということです。
手書きの評価シートでは筆跡などから記載者が割れてしまい、人間関係がどうのこうのというのであれば、Googleフォームなどで筆跡がわからない状態で意見・感想を集めれば良いだけの話ですし、評価者を明らかにして責任をもったコメントをさせるという考え方もあるはずです。
スレッドを立てて、前の生徒が残したコメントを読んでから、自分のコメントを書き込ませるという「輪読+追記方式」も面白そうです。
発表を行った場での質疑応答でも有意なフィードバックが得られることもありますが、前提となるのは「質問力」を参観者が備えていること。そうした土台が整うまでは、ご指導に当たる先生や講評者が周囲の生徒に代わってその役割を果たすべきではないでしょうか。
専門家が過度に余計な口出しをしては、発表者も参観者も受け身の姿勢を強化してしまいますが、的確で簡素な指摘で今後の取り組みに方向性を与えることは、指導する側/プログラムを立案した側の責任です。

❏ リフレクション・ログに成長への決意が読み取れるか

周囲からのフィードバック(評価結果やコメント)を得たら、今度は発表者本人が「次に向けた課題形成」に取り組む番ですが、このフェイズがしっかり機能しているケースはあまり多くなさそうです。
そもそも、成果発表会の後に再チャレンジや仕上げ直しの機会が用意されていないことも少なくありませんし、評価をどう受け止めるか、課題をどう形成していくかは本人任せになっているのも「普通」です。
想定以上の厳しい評価を得て凹んでしまっている生徒もいるでしょうから、ゼミなどで指導に当たる先生方からのケアやフォローも必要です。
プレゼンに至るまでの自分のおざなりな取り組みを悔いたり、自己嫌悪のようなものを感じていたりするのを放置しては、探究的な学び・活動に対する自己効力感を下げ、そこから遠ざかろうとする気持ちを強める結果になってしまいます。
また、様々なレスポンス(意見やコメント)を消化できずに、とっちらかってしまっている生徒は、整理と消化の手伝いを必要としています。
プレゼンテーションを経験させた後の指導/取り組ませ方にこそ、せっかく用意した教育プログラムの成否/成果量を決めるカギがあります。
成果発表会やプレゼンテーションを終えて生徒がポートフォリオに残すリフレクション・ログの点検はしっかり行いましょう。
次の機会に向けた決意や、より良いパフォーマンスを得るための好適な方策についての具体的な記述があれば、たとえプレゼンが不満足なものであったとしても、プログラムを経験させた意義は十分にあったと言えるのではないでしょうか。
繰り返しで恐縮ですが、そうした決意や考えた結果を実現する場を、その後の学びの工程の中にきちんと用意することも、指導計画に期待されるところの一つです。体験を通して得たせっかくの気づきを揮発・埋没させないようにしたいところです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一