スライドや板書案を作り込んでおくだけでは…

板書(スライドを含む)や資料が整う度合いと、説明や指示のわかりやすさは非常に強く連動します。実際のデータ(生徒による授業評価アンケートでの「板書や資料」と「指示と説明」の2項目の換算得点[授業別集計])に照らしても、両者の間には 強い相関が観測されます。


 板書や資料: 板書やプリントは見やすく整理され、後で見てもわかりやすい。

 指示と説明: 先生の説明はよくわかり、指示にとまどうこともない。

 ※ 回答選択肢は5択、回答分布に所与の配点を乗じて得点に換算。


わかりやすく整理された板書やスライドを用意することで、指示や説明はより確実に伝わるようになり、生徒が学習活動に取り組むための土台が整えられます。別稿でも書きましたが、板書案作りを通して伝達技術の向上を図ることは、より良い授業への第一歩です。
しかしながら、それだけでは、新課程で目指す「生徒が主体的に関わる対話的で深い学び」が実現するとは限りません。スライドや板書案を作り込んで「完成度」を高めるだけでは、むしろ、問答などのインタラクションを展開しにくくなるリスクを抱えます。

2017/08/30 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 必要な情報は固定し、後で思考を再現できるように

話を聞いているだけでは、聞き漏らしてしまったらそれまで。また、少し話が進んだだけで、短期記憶は後から入ってきた情報に上書きされるため、記録なしには、記憶への記銘もおぼつかなくなります。
入ってくる情報を捉え、知に編んでいくためには、前段までの理解を踏まえる必要がありますが、聞き漏らしや記憶からの消失は、新たな情報を結び付けるための「アンカー」を失うことを意味します。
必要な情報を生徒の視野に/いつでも参照できるところに固定しておくことが、その後の学びを円滑に進める土台になるということです。
時間を空けて復習するときも、ノートなどを見れば「授業で経験した、知識の体系化や課題解決の工程」が想起できることが大切。結論だけが記録された勉強とは、学んだことを応用できる度合いも違ってきます。
大切なことは、最終的に導いた結論をノートなどに残すことではありません。結論を導く過程を実地に体験させ、一つひとつ確認し、固定しながら、そのプロセスを「後の再現」に備えて記録させることです。

❏ 作り込んでおくほど、一方通行なプレゼンに

先生が事前に用意してきた板書案を、そのまま黒板の上に再現するだけでは、そこには生徒の思考や気づきが入り込む余地はありません。
せっかく、結論を導くまでのプロセスを経験させたとしても、その中で生徒の発言などに現れた「気づきや疑問」などがどこにも言語化/固定されていなければ、後の復習では「結論」しか確認できなくなります。
先生からの問い掛けを起点に発動させ、対話で膨らんだ「生徒の思考」を拾い上げ、板書の中に取り込んでいく必要があります。
パワーポイントでスライドを用意するだけでは、こうした途中の発言を拾い上げ、そこから授業を展開していくのはさらに大変です。スライドはプレゼンの道具であり、コミュニケーションに最適とは言えません。
想定外の「良い発言」を受けても、スライドをその場で組み直すのは容易でないはず。学びを広げるチャンスに、予定された方向に授業を進めるしかないのでは、生徒が学びに関わる部分を小さくしてしまいます。
現行課程のキーワードは「対話的で深い学び」。問い掛けて気づかせ、それを黒板の上に展開・固定していくことの重要性は増すばかりです。
生徒とのやり取りのなかで、動的に作り上げられていく板書と、先生が職員室(自宅?)で作り込んできたスライドとの間には、ディレクターが編集して完成したビデオと、即興での掛け合いも要素のひとつになるライブの違いくらいの、大きな隔たりがあるのではないでしょうか。

❏ 計画に沿って進むだけの授業では発言も出にくい

練り上げた板書案やスライドに沿って授業を進めると、進行はスムーズかもしれませんが、生徒の発言を拾い上げながら、臨機応変に進め方をアレンジするのは容易ではありません。
もしかしたら、生徒は「先生はあらかじめ予定した流れに外れることなく授業を進めていきたいのだろう」と感じているかも。そうなっては、発言を求められても「先生はどんな答えを期待している?」が先行し、本来の生徒の思考は「教師の意図の予想」に置き換わりかねません。
生徒から引き出した発言をしっかりと拾い上げて、板書にも組み込んでいくようにしないと、別稿でも書いた「先生方が想定する正解当て」に生徒の思考が縮こまっていくリスクがあるということです。
そうした環境では、期待されたものを探り当てた確信がないと「発言しない」という選択になりがち。結果、対話も盛り上がらなくなります。対話を通じた気づきの交換は弱まり、深い学びから遠ざかります。
ちゃんと考えて発言したのに「そうじゃなくて…」と切り捨てられてしまった経験がある生徒、そんな場面を周囲で目撃したことのある生徒ほど、こうした行動傾向を強めます。ひとたび「得がない」と学んだことに、わざわざチャレンジする生徒はそう多くないと思います。
スライドが用意されているということは、その後の展開も「予定」されているということ。板書案通りにしか進まない授業も同じです。
他方、生徒とのやり取りの中で先生が自在に板書を行い、些細な発言も拾い上げ、板書に組み込むのを目にすれば、生徒は、「しっかり考えて自由に発言すること」が求められていると、感じ取るはずです。



板書とスライドの使い分けも、しっかりとそれぞれの強みと弱みを踏まえた上で、考えていきましょう。スライドの強みは、素早い表示と(保存したものを修正しながら)繰り返し使えること。その代わり、その場での臨機応変な拡張、修正は苦手です。

スライドを使って授業を進めているときも、生徒に何かを考えさせ、発言をさせようとする場面では、生徒の言葉をしっかり拾い上げるべく、スクリーンからいったん離れて、黒板の前に立ち位置を移しましょう。スライドと板書は併用し、臨機応変に使い分けるのが正解です。


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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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