「問い」で引き出し、読み取り、授業に返す
前編では、リアクションペーパー(リアペ)の本来の目的に立ち戻り、学生の学びを捉えるための仕組みが、設計や運用のあり様によっては、却ってその表出を歪めてしまうことについて考えました。
既に書いた通り、学生に「自由に書いてください」と求め、提出されたものを先生方が読む。それだけでは、学生がその時間の学びを十分に捉えられるとは限りません。反対に、問いを細かく与えすぎれば、先生方が想定した範囲の反応しか出てこなくなることもあります。
さらに、何十人(或いはそれ以上)のリアペが集まる授業では、個々の記述を精読して、全員にコメントを返すのを前提にした運用も現実的とは言えません。書かせ方だけを工夫しても足りないということです。
学生の認識をどう引き出すか。学びの棚卸しと授業への注文をどう分けるか。大量の記述から何を読み取るか。そして、そこに現れた気づきや疑問を、次の学びや授業にどう戻すか――本稿(後編)では、リアペの運用を、引き出す→分ける→読む→返すという流れで考えてみます。
リアクションペーパーを「書いて提出して終わるもの」ではなく、学生と先生方の間で学びを動かす「対話のツール」にするための設計です。

本稿の内容をChatGPTでイラストにしました。クリックで拡大します。
❏ 引き出す――「自由に書いて」だけに任せない
リアペには、学生がその授業をどう受け止めたのかを、できるだけそのまま表出させることが求められます。だからといって、「自由に書いてください」とだけ指示すればよいわけではありません。
何に着目してよいか分からない学生は、印象に残った話を一つ取り上げて終わったり、「面白かった」「勉強になった」といった感想だけを書いたりします。これでは、授業で何を理解し、どこで考えが動き、何がまだ腑に落ちていないのかまでは、十分に表現されません。
そこで使えるのが「問い」です。一つは、導入フェイズなどで示す、本時の学びの中核となる問い(このブログで言うところの「ターゲット設問」)であり、もう一つは、リアペを書かせる指示に添える問いです。
導入フェイズで問いを示すのは、授業を通して本時の学びに焦点を持たせておくことで、授業後の振り返りでも意識をあらぬ方向に拡散させない効果を狙ってのこと。(ちなみに、授業を受けている途中でも、説明などをその問いに結び付けられるため、学生の理解を助けます。)
リアペを書かせる際の指示では、「自由に書きなさい」ではなく、以下のような問いを添えることで、それぞれに応じた振り返りを促せます。
- 今日の授業での「気づき、学び」は何であったか。
- まだ自分では説明できない/納得できていないところは何か。
- これまでの体験と結びついたところはあったか。それは何か。
- これからの学修、研究で確かめたいこと、調べたいことは何か。
こうした問いによって、学生が、漠然と「感想」を探すのではなく、自分の理解や疑問、認識の変化を掘り起こし、その日の学びを捉え直すことができれば、リアペは、より深い学びを実現するツールになります。
❏ 問いで、思考を誘導し過ぎないことにも留意
問いは、学びの振り返りに焦点を与えますが、その誘導が強すぎると別の弊害を抱えます。先生方が拾いたいものを細かく設問化しすぎれば、学生の反応を、先生方が用意した枠の中だけに閉じ込めかねません。
それでは、授業中に生まれた想定外の気づきや、意外な関連付け、先生方が想定しなかった疑問が記述からこぼれ落ちてしまいます。
幾つかの問いで学生の認識に焦点を設けつつ、誘導し過ぎずに、自由に書ける余地を十分に残しておくというのが、設計の勘所になります。
もう一つ重要なのは、問いの中に「よい反応」だけを想定しないことです。「理解できたこと」「新しく気づいたこと」だけを尋ね続ければ、学生は、リアペには前向きなことを書くものだと受け取りかねません。
例えば、上の例のように「説明できない」ところを尋ねれば、「分からない、納得できない」、さらには「意味が感じられない、別の考え方もある」といった反応まで導き出しやすくなります。こうした声を拾ってこそ、学生の学びを広く捉えたことになるのではないでしょうか。
❏ 分ける――「授業への注文」を日々拾う
前編では、リアペに書かせる内容を、「学びの棚卸し」と「授業への注文」に分ける必要があると書きました。前者は、先ほどのような問いを使って、その日の理解や疑問、認識の変化を引き出します。
もう一つきちんと設計したいのは「授業への注文」を拾う仕組みです。
授業への意見や注文は、学期末などに行われる授業評価アンケートで尋ねるのが普通でしょう。しかし、その時点で初めて改善要望を目にしても、授業を履修している学生に改善を届ける時間は残っていないはず。そうした声を訊くには学期末では遅すぎるということです。
リアペと同じように、日々の授業の中で、学生が授業への改善要望を表明できる仕組みを用意したいところ。記入欄を分けるだけでもよいでしょうが、別のフォームを用意して匿名とするのも好適です。
肝心なのは、「授業への注文」は成績評価には使わず、授業改善のためだけに使うことを明示/宣言すること。学生から見て、成績などへの影響を心配せずに、要望を示せる仕組みになっていてこそ、機能します。
❏ 読む――個々にではなく、「学習集団」として読む
何十人、あるいはそれ以上の学生が履修する授業で、すべてのリアペを毎回精読し、一人ひとりにコメントを返すのは「理想」ではあっても、非現実的。無理をすれば、やがて「集めるだけ」になりかねません。
優先すべきは、「学習集団として何が起きているのか」を捉えること。
- どんな疑問が多く出ているのか。
- 共通して理解できていないところはどこか。
- 認識が分かれているところはあるか。
- 想定外の気づきや関連付けはないか。
- 次の学びにつながりそうな問いは何か。
- 授業への注文には、どんな傾向があるか。
こうした視点で、集まったリアペを俯瞰すると、総体として見えてくるもの(授業改善課題)もあるはずです。ここでは生成AIも使えます。
大量の自由記述を、「理解」「疑問」「誤認識」「認識の変化」「関連付け」「次の学びへの問い」「授業への注文」などに分類し、どのような傾向があるのかを集約するのは、AIにとってお手のもの。代表的な記述を拾わせたり、共通する躓きを整理させたりすることも可能です。
もちろん、AIに学生を採点させるという話ではありません。先生方が学習集団の状態を見取るための補助として使うということです。
ただし、「このリアペを要約して」と投げるだけでは、何を拾うかは安定しません。何を見たいのか、どんな分類で読むのかをあらかじめ決めておく必要があります。分析の観点などは標準的なプロンプトに、個人情報の扱いはルールとしてFDなどで整備し、共有するのが好適です。
❏ リアペでの質問に個々に答えるのが最善?
また、リアペに記された「質問」も、個々に返すのが最善とは限りません。一人の疑問をクラス全体の学びにするには、その問い(質問)を次の授業でシェアし、学生が「調べ、考え、話し合い、まとめる」機会を設ける方が、深く確かな学びを作り、学修方策の獲得も進みます。
共有の必要性の低い質問についても、「個々に回答を示す」だけでは、不明解消のスキルを学生が獲得する妨げになるかもしれません。
生成AIの性能も上がった今、学生が自分で調べてわかったところを文字にしてAIに渡せば、その先の学びの手掛かりも得られます。先生方が手を差し伸べるべきは「こういう資料もある」「こういう概念/用語と結び付けて考えてみれば」といった示唆ではないでしょうか。
専門家である先生方が、丁寧に説明してあげれば、不明の解消は進むでしょうが、学修が目指すところをそれだけですべてカバーするわけではありません。より深く、確かな学びの実現のためにも、ときには「質問に質問で返す」ことも必要です。
なお、リアペへの「返し」には、「授業への要望への対応」も含まれます。要望に対して言葉で返事をする必要はありませんが、変えるべきところは授業の実践に反映させるべきであり、また、変えるべきでないところはしっかりと理由を伝え、理解と納得を得ましょう。
何のレスポンス(要望への対応、説明など)もないのでは、学生が感じるのは「暖簾に腕押し」。要望を伝える意欲も失っていきかねません。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
