活動性が苦手意識を抑制する機能とその限界

以前の記事でも書いた通り、授業や課題の難易度をある程度引き上げても、活動性を十分に高めておけば苦手意識を遅らせることができます。教え合い・学び合いが知識や理解の不足を補うことが課題解決の可能性を高めるのは想像に難くありません。
しかしながら、その機能にも限界があります。学習者集団ごとの負荷耐性というものがあり、それを超えた負荷をかけると、生徒同士で知識・理解・発想を補完し合っても課題の要求を満たせなくなります。

2018/07/27 公開の記事をアップデートしました。

❏ 活動性を高めれば、苦手意識の発生を遅らせられる

下図は、様々なタイプの学校での授業評価アンケートのデータから作成したものです。サンプルとした授業数は9,353です。


横軸と縦軸はそれぞれ、以下の質問への回答を得点化したものです。

【難易度】授業内容や課題の難易度を尋ねる質問への回答:「難しすぎる」(+10)から「易しすぎる」(-10)の5段階スケールで、「ちょうどよい」が±0。
【意識姿勢】その科目が得意か苦手か尋ねた質問への回答:「得意」(+10)から「苦手」(-10)の5段階スケールで、「どちらでもない」が±0。


活動性は「授業内の活動に充足感を覚えるかどうか」に対し、「とてもある」(+10)から「まったくない」(-10)の5段階で答えてもらい、全授業の上位25%と下位25%に含まれるものを抽出表示してあります。

❏ 活動性が低いままだと適正負荷がかけられない

グラフを見ると一目瞭然ですが、活動性上位群は座標面の上の方に集まり、下位群はそのだいぶ下に分布が集中しています。
活動性の低い授業では、難易度が「ちょうどよい」を超えた瞬間に苦手意識が優位になり、そこから苦手が加速度的に増えていきます。
一方、活動性の高い授業は、難易度が+3を超えるところまで得意寄りの意識をキープしています。
課題を解決するのに必要な知識や理解、発想を、個々の生徒が備えていなくても、互いに交換して補うことで要求を満たせることが大きく作用していると考えられます。
分散知識や集団知(集合的記憶)が、課題の解決に有効かつ不可欠なものであることもまた、授業を通じて生徒に学ばせるべきことです。
なお、別稿に示す通り、学習効果を最も強く実感できるのは、難易度が+2.0から+2.5の範囲に収まるときです。
活動性が低いと、適正な負荷を掛けられないうちに苦手意識を抱え込ませてしまい、生徒の学ぶ姿勢は消極的なものになってしまうということが、これらのデータから示唆されます。

❏ 負荷の感じ方を確かめながら、難易度の調整を図る

しかしながら、活動性を十分に高めている授業でも、難易度が過度に高まると、意識姿勢は苦手ゾーンに突入し、上下方向のばらつきも次第に大きくなっていきます。
活動性を高めることで苦手意識の発生を遅らせられるのは事実でも、限度を超えた難易度/負荷にいつも対抗できるわけではありません。
クラスの中で苦手意識が強く出始めてからの対処では、学びへの消極的な姿勢が既に現れており、後手を踏んだことになります。
定期的に難易度の感じ取り方を確かめ、負荷が過大にならないようにしたいところです。生徒がどう感じているかは「生徒に聞いてみる」しか把握の方法がありません。定期的なアンケートは不可欠です。

❏ 複線的なゴールの設定と負荷耐性を高める予防措置

負荷の調整を行うときは、クラス全体に達成を求める「必達課題」と、それを達成できた生徒に挑ませる「挑戦課題」に分けて、生徒一人ひとりの状況にあった「複線的なゴール」を設けるのが好適です。
授業の難度設定そのものをいじろうとすると、調整が行き過ぎてしまうことが少なくありません。
また、生徒側での負荷耐性を高めておくという予防措置も必要です。
当然ながら、学年・学期が進めば、学習内容は高度化しますし、カリキュラムを進める中で、どうしても難易度が跳ね上がる局面があります。
そうしたタイミングを見越して、「不明が生じたときに自力で解消する方策」をあらかじめ身につけさせておきましょう。

❏ 個々の生徒の負荷耐性を高めて、集団知を拡充する

まずは、集団としての負荷耐性を高めるべく、生徒同士の教え合い・学び合いがうまく機能するように、普段からそうした場面を多めに作り、その方法と姿勢を身につけさせておくことが肝要です。
しかしながら、それだけでは限界があるのは既に申し上げた通りです。
教科書や副教材を参照して自力で不明を解消する方策を獲得させることで、個々の生徒の負荷耐性を高めることが必要です。
その方策の柱になるのは、普段から、教科書をきちんと読ませることや参照型教材を徹底して使い倒すことです。
個々の生徒が自力で解決できる/不明の解消を図れる範囲を広げておけば、教え合い・学び合い/話し合いを通じて「集団知」が及ぶ範囲も、ぐんと大きくなるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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