学力差、苦手意識への対応

相対順位の低さから自己効力感と学習意欲を守る

先日、「校内順位、中学受験との関係は」と題する記事を新聞紙上で見かけました。冒頭にはこう書かれていました。 中学受験において、わが子に「優秀な同級生に囲まれて6年間を過ごして欲しい」と考え、難関校への進学を望む親は多い。だが学校内での順位が、その後の学力に影響するという研究がある。チャレンジ校を目指して、成績が低迷し続ける「深海魚」になるよりは、実力相応校を目指すべきなのか。(引用元:朝日新聞、1…

参照型教材を徹底して使い倒す#INDEX

教科書の配列に沿って各単元を学んでいくのと、副教材を使って別ルートで知識の拡充を図るのを並行させるのは好適な戦略とは言えません。主教材を軸に学びを進め、わからないこと/知らないことに出会うたびに参照型教材のページを開かせ、生徒が自力で必要な知識と理解を得るようにさせることが大切です。学期が進むにつれて、参照型教材が使い込まれ、書き込みが増えてきたら、生徒はその科目の知識と理解とともに、学び方を身に…

参照型教材を徹底して使い倒す(その5)

問いを起点に理解の軸を形成、知識拡充はその後で 演習(拡張)期、受験(仕上げ)期を待たずに、導入期のうちに基本事項を網羅的に学ばせることには、前稿までの考察の通り、あまり大きなメリットはなさそうです。必要な知識を最初に仕込み切ってしまうという戦略には、「教えられたこと」と「覚えたこと」のギャップを拡大し、生徒にゴールを遠くに感じさせてしまうリスクの方が大きいのではないでしょうか。 2015/10/…

参照型教材を徹底して使い倒す(その4)

ステージごとの学習者特性の違いを踏まえて 学習はその場で完結するものではありません。次のステップに進むための準備(レディネス)を整えることも重要な指導目標の一つです。既習単元の知識がその先の内容を理解するための前提になることは当然ですが、ある単元を学ぶことで身につけた学び方もまた、次以降の単元を学んでいくときの重要な土台になります。不明点があるとき、先生が教えてくれるのを待つのではなく、参照型教材…

参照型教材を徹底して使い倒す(その3)

導入期から仕上げ期に向かう流れで考える「使い方」 前の記事では、参照型教材(いわゆる参考書だけでなく用語集や例文集も含まれます))を常に手元に置かせ、頻繁に使わせることで得られるメリットを考えました。文章を読んだり問題を解いたりしながら、機会ある度にページを開いて使い倒してきた参照型教材は、いつしか生徒にとって「学習を進めるときの大きな拠り所」になっているはずです。使いながら書き込まれたメモは、以…

参照型教材を徹底して使い倒す(その2)

不明を前にしたら手元の教材を参照する習慣を 前稿(その1)では、課題解決に使う場面を十分に経験させないまま、知識の拡充を図ったり、体系的な理解を形成しようとするアプローチのリスクと、コスパの低さについて考えるところをまとめました。生徒にとっての自分事となり得る課題を用意し、それに立ち向かわせる中で、知識の獲得と理解の形成を図っていく、所謂PBL型(課題解決型学習)の授業/学ばせ方への転換を図る中で…

参照型教材を徹底して使い倒す(その1)

記銘のための反復は、課題解決に活用する中で 例えば古典の授業では、まとまりのある文章を題材にした読解指導に入る前に、文法をひと通り勉強させるという手順を採ることがあります。ある程度の体系的な文法理解を作ってからでないと読解に入ってからも躓きが多くてスムーズに進めないという思いからの選択でしょう。英語でも、主教材と切り離して単語集や例文集を個々に覚えさせていくのは「普通」ですし、概説書をひと通り学び…

学力差、苦手意識への対応

1 苦手意識を抑えて、伸びている実感を持たせる 1.1 苦手意識を抑えて、伸びている実感を持たせる(まとめ)1.2 学力向上感、得意・苦手に成績が及ぼす影響は?1.3 難易度からの得意/苦手の意識が受ける影響 ★ cf. 難易度をどう考え、どのように調整するか1.4 不要な苦手意識を抱かせない(前編)、(後編)1.6 科目への意識姿勢~得意と答える生徒を増やす ★1.7 相対順位の低さから自己効力…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法 #INDEX

どんなクラスでも学力差は存在します。たとえ、習熟度別にクラスを分けて展開授業を行っても学力差は残りますし、時間の経過ともに差が再び拡大していくのは多くの先生方が経験していることだと思います。学力差を小さくするのは容易でないとしても、学力差による悪影響を小さく抑えることはできます。ある程度の学力差があった方がクラス全体の学習成果の総量は大きくなる可能性を示唆するデータもあります。採るべき対策には以下…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その5)

学力差からうける悪影響をできるだけ小さく抑えるには、以下の前各稿で申し上げた通り、 などのアプローチがありますが、これ以外の場面でも、「いかにして生徒一人ひとりの学習を止めないか」はとても重要です。生徒を指名して発言させるときや、実験の手順を説明するときなども注意しましょう。学びが遅れていた生徒が手と頭を止めてしまっては、先行する生徒との差が開くばかりですし、自力で進める生徒に「待て」をかけては、…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その4)

クラス内に学力差が拡がるということは、生徒の躓きが起こり得る箇所が多様化することを意味します。学びは前段の理解の上に積み上げていくものですから、新たに教えた/学ばせたことの理解が固まらないところに次の内容を積んだところで意図通りの結果にはなり得ません。こまめに理解を確認できる状態を作っておき、次に進むための前提が整っているか一つひとつ確かめながら授業を進めるには、タスクを分割して付与する「スモール…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その3)

授業の成立を難しくさせるのは、科目の総合的な学力における個人差ではなく、新しく学ぶ単元の前提知識における差の大きさであり、事前に打つべき対策があるというのが、前稿までにお伝えしたことです。しかしながら、実際に授業を始めると、スタート時点での差に加え、新しいことを理解する速さや課題を処理するのに要する時間における個人差が問題になってきます。この差に対処するにも「クラス内の学力差を逆手に取って積極的に…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その2)

前稿でご紹介したデータが示すように、クラス内にある程度の学力差があった方がクラス全体での学習成果の総量は大きくなるとはいえ、度を過ぎては弊害が大きくなるのもまた事実です。日々の授業で成果を一つひとつ着実に積み上げ、新たな差を作らないようにしたいものです。日々の授業で成果を積み上げる上で問題となるのは、学力差ではなく前提知識の有無です。授業の成否を分けるのは、その科目の総合的な学力ではなく、その日の…

クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その1)

クラス内に生じた学力差を、クラスを分割することで小さく抑えようというのが、習熟度別クラスを導入するときの発想ですが、生徒の理解度に合わせた指導が行いやすいかと思いきや、分割後のクラス内で再拡大する学力差や、下位クラスの学習意欲や自己肯定観の低下といった別の問題を抱え込みます。こうした問題を踏まえてなお、習熟度別、あるいはほかの視点でクラスを分割する方が、生徒が積み上げる学習の総量が本当に大きくなる…

難易度からの得意/苦手の意識が受ける影響

教材や課題の難易度が上がるとその科目への苦手意識が膨らむのは容易に想像できますし、実際のデータでも確認できます。しかしながら、苦手意識の発生には様々な要因が絡み合っており、目標水準を引き上げたからといってそのまま苦手の拡大に直結するわけではありません。以前の記事「活動性を高めて苦手意識を抑える」でデータを示してお伝えした通り、授業内活動には苦手意識の発生を抑える効果があります。教え合いや学び合いを…

基礎力不足の生徒にどう学ばせるか

当たり前のことですが、どの教科の学習指導を行うときも、「基礎」が固まっていない生徒がその先に学びを進めるのは容易ではありません。新しい単元を学ばせようにも、関連する既習単元の内容を理解していない/知識として定着していないのでは、それらを土台とする新たな知を積み上げることはできず、勢い、復習や学び直しに終始しがちです。こうした状況を前に、基礎が身についていない生徒に教えるとき、「わかりやすさ」「ポイ…

科目への意識姿勢~得意と答える生徒を増やす

同じ教材で同じ指導をしていても、得意・苦手の分布はクラスによって異なります。学習履歴の中で積まれた成功体験や獲得している学習方策によって感じ取り方が違うためです。得意寄りに分布が偏るクラスでは、より高度な課題を与えて達成感をより強固なものにする一方、苦手意識が優位なクラスでは課題のスモールステップ化や集団知の活用で成功体験を積み上げさせていきましょう。学習指導を重ねるうちに、この質問で「得意」と答…

学力向上感、得意・苦手に成績が及ぼす影響は?

授業を受けて学力の向上や自分の進歩があったかどうか、あるいはその科目が得意か苦手かを生徒が判断するとき、定期考査や模擬試験の点数が生徒の意識にどの程度まで影響を与えているかというご質問をいただくことが時々あります。結論から言えば、成績という数字の影響は確かにありますが、他の要素からの影響も決して小さくありません。振り返りによるメタ認知の形成や学習方策の獲得などを通した「学習者としての自立」が進むに…

活動性が苦手意識を抑制する機能とその限界

以前の記事でも書いた通り、授業や課題の難易度をある程度引き上げても、活動性を十分に高めておけば苦手意識を遅らせることができます。教え合い・学び合いが知識や理解の不足を補うことが課題解決の可能性を高めるのは想像に難くありません。しかしながら、その機能にも限界があります。学習者集団ごとの負荷耐性というものがあり、それを超えた負荷をかけると、生徒同士で知識・理解・発想を補完し合っても課題の要求を満たせな…

不要な苦手意識を抱かせない(後編)

ある科目に苦手意識を持てば、学び続ける意欲を持ちにくくなりますので、その先に生まれるかもしれない「新たな興味」と出会う可能性が失われていくばかりです。もしかしたら、その興味が広がり、深まった先に自分の適性や資質とマッチした将来が開ける可能性があるのに、不要な苦手意識を持たせたりそのままにしては、拓けるはずの未来を狭めてしまっているかも…。誰しも何かに苦手意識を持つものだと思いますが、もし工夫次第で…