学習方策や目的意識に応じた負荷をしっかり掛ける

授業評価アンケートで「目的意識を持った授業への取り組み」や「授業内容や課題の難易度」について生徒の認識を尋ねてみると、その集計値分布は学年が進むにつれて「ある特徴的な傾向」を示します。
下図は、直近1年で蓄積した様々な学校の授業評価アンケートのデータをもとに、その「傾向」をお伝えするために作成したものです。ちなみに、教科は国社数理英、対象とした授業は全部で5,629です。


Ⅹ目的意識私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる。
Ⅷ難易度授業内容や課題の難易度はあなたにとって、{難しすぎる~易しすぎる}


縦軸の数値は、強い肯定/難しすぎるを+10、強い否定/易しすぎるを-10とし、クラスごとの回答分布を得点化した結果であり、±0はそれぞれ「どちらかと言えばそう思う」「ちょうどよい」に相当します。

❏ 目的意識の高い最上級生には、しっかりと負荷を

授業への目的意識は、入学直後は高いところからスタートして、徐々に低下していき、最終学年を迎えて大きく回復する傾向にあります。所謂中だるみのようなものが続いた後に、受験学年を迎えて、本腰を入れた学習が始まるというところではないでしょうか。
一方、学習内容は当然の如く、学年が上がるにつれて徐々に「難しい」と答える生徒が増えますが、最終学年を迎えると苦手な科目(学習方策や取り組み方が確立しなかった?)を履修しなくなることもあってか、高3では高2時点と比べて難しさを強く感じる生徒は減っています。
既習事項の習熟にも大きく欠け落ちるものがなく、且つ学習方策の獲得も相対的に進んでいる生徒にとっては、高2までと大差のない負荷であれば、ことさら難しさを実感することも少ないはずであり、Ⅷ難易度が低めに出るのも、ある意味では当然の帰結かもしれません。
下図の通り、Ⅸ学習方策「この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」との問いへの高3生の答えは、中間学年と比べてかなり肯定的です。ちなみに、Ⅶ学習効果「授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感する」に肯定的な回答が概ね9割を占める75ポイントへの到達が半数を超えるのは、{Ⅸ学習方策≧2.43}のときと推定されます。


科目の学びに強い目的意識を持ち、且つ学習方策の獲得が進んだ生徒に十分な負荷をかけてあげないと、ポテンシャルを余させることになり、能力や資質の獲得にブレーキをかけてしまう可能性があります。

❏ 負荷の不足には「わかった気」にさせるリスク

負荷が十分に掛かっていない(≒難易度が低い)状態では、「本来ならできるようになる必要があること」にチャレンジする機会もないまま、生徒は「何ができていないのか」に気づかずにいるかもしれません。
易しめの課題にしかチャレンジせず、もがき苦しんでやっと理解する/課題を解決する場面を経験することもなければ、「こんなもので十分だろう」と現状に安心して/胡坐をかいてしまっても無理からぬところ。

それまでに挑んだ範囲だけで「理解できた/出来るようになった」と誤解させては進歩はそこで止まります。最初のトライではうまくいかず、はじき返されるくらいのことがあってこそ、次はどう攻めれば良いか、知恵も巡らすでしょうし、努力もしてくれるはずです。
下図に見る通り、目的意識を高く持った学習者集団(クラス)は、高度な学習内容やチャレンジングな課題を前にしても、あきらめることなく学びを続け、その中で学力の向上や自分の進歩を感じ取っています。


それぞれの折れ線グラフの位置関係だけでなく、添えてある近似直線の係数(傾き)にも着目してください。{目的意識≧中央値}の場合は、xの係数が-0.41であるのに対し、{目的意識<中央値}では-0.95と、より大きな傾きになっています。
前者は負荷の上昇があっても、粘って学びを続け、学習効果を得ているのに対し、後者はすぐに諦めてしまうということでしょう。
科目を学ぶことへの目的意識/学ぶ理由を如何に見出させるかも問われるところですが、既に高い目的意識を持つ生徒に、軽すぎる負荷しか与えず、伸ばし損ねることがないよう、十分な意識が必要です。

また、このデータは先生方に「逆の見方」も求めています。中間学年など、目的意識が曖昧だったり、学習方策が未確立だったりする段階ではひとつの課題から複線的なハードルを作るなどの工夫をこらすことで、過剰な負担が生徒側に生じないようにすることも大切です。
 ■ やりきらせる責任~仕上げ切らないことを習慣化させない

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一