学習内容の高度化、学びの変化に備えさせる

学びを進めていく中で、新しい学期・年度を迎えて学習内容が難しくなる局面があるのは改めて申し上げるまでもありませんが、そうした局面を迎えさせるための「準備」はきちんと行えているでしょうか。
学習内容が高度化することだけでなく、科目の学びに求められるものが変わる(=学ばせ方の変化)こともまた、躓きの一因になります。学びのステージが次に進んだときを想定した指導を心掛けましょう。

❏ 学習内容が高度化するタイミングで躓きが生じる

どの教科にも言えますが、生徒が学習する内容は学年が上がるにつれて高度化していく傾向にありますが、上昇ペースは一様ではありません。
比較的穏やかに上昇していく(難しくなっていく)こともあれば、ある時期に(特定の単元を学ぶときに)ポンっと跳ね上がったりもします。
前者であれば、生徒は「慣れ」の中で適応していけますが、問題は後者の「急激な変化」が生じたときです。
学習内容が高度化すれば、それまでに身に付けていた学び方が通用するとは限らず、「授業を通じて学力の向上や自分の進歩を実感できるか」との質問に、肯定的な答えを選べない生徒も増えてきます。
下図はこの夏に同じ評価項目でアンケートを実施した学校群のデータをマージして作成したものですが、如上の傾向が随所に読み取れます。社会/歴公の中3→高1、理科の中3→高1→高2などはその典型です。

 

❏ 躓きの原因を事前の指導で取り除いておく

学習内容が高度化するタイミングはおおよそ予想がつくはずであり、学びの躓きの原因にもある程度は当たりがつくのではないでしょうか。
授業評価アンケートのデータからは、「難しい」と感じる生徒が増え出すタイミングが捉えられますし、実際の指導を進める中の観察から、躓きの原因が「何を身に付けていない/どんなことができるようになっていないこと」にあるかも見て取れるはずです。
躓きの原因となった「欠けていること」は、既習内容の理解・定着だけではないはず。以下のような問題を抱えていることもありそうです。

  • 題意を理解して解決に至るルートを見つけ出す方法の未獲得。
  • 教科書や資料を読み解く力(基礎力)が養われていない。
  • 不明を抱えたときに取るべき行動が確立・習慣化していない。

実際に指導に当たりながら、躓きを生じさせている原因がそれまでの学び/指導の中にありそうなら、その問題意識を教科内で共有し、原因を前もって取り除けるような指導の実現を図りたいところです。
日々の授業を行う中で気づいたことをご自身の中で抱えてしまい、目の前の生徒に対する指導だけで何とかしようと思っていては、根っこにある「前年度までの指導が抱える問題」は解消されないままです。
同じことを繰り返さないためにも、日々の気づきは積極的に発信し、教科全体の「課題」として共有することが重要です。

❏ 学ばせ方の不連続性も学習者を戸惑わせる一因

学習内容が高度化する中で、それまでに身に付けていた学び方が通用しなくなるのは、下図(同じデータで作成)からも推測できます。
生徒に「この科目の学び方が身についているか」を質した項目の集計値分布が低下するタイミングは、学習内容の高度化と概ね一致します。
しかしながら、難易度がそれほど高まっていないのに、如上の質問にYESと答えきれない生徒が増えている箇所も散見されます。例えば、国語や英語では、高校への進学を機に箱の位置が急落しています。

このグラフは、高入生を抱えない完全中高一貫校のデータで作成したものです。集団としての学習者特性が変わったわけではないはずであり、低下の原因として考えられるのは「学ばせ方」の変化です。
例えば、それまでは活動性重視だったのが、単元内容の概念的理解が求められる場面が増えることや、習ったことを覚えれば良かったのが、解法の立案や深い考察に挑むケースが増えることもあるはずです。
そうした学びを「準備」として十分に経験していた生徒は、進級/進学後の学びにもスムーズに適応できるでしょうが、学びのステージが先に進んだときの必要を想定せずに、「今学ばせていることを理解させる」ことに偏った指導が行われていては、準備が整っていない生徒が大勢を占めるはずです。
如上のデータも取りながら、学ばせ方の円滑な接続がどこまで実現しているか、教科として問題意識を持って、指導計画の最適化、段階ごとの指導方針の共有にしっかりと取り組む必要があろうかと存じます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一