対話によって学びはどこまで深まったか

主体的、対話的な深い学びを構成する要素のうち、主体性を持った学びに欠かせない【学習方策】と【目的意識】については、それぞれ以下の別稿にてデータ解析の結果に基づく考察を行いました。

本稿では「対話的な深い学び」にフォーカスしてみたいと思います。
なお、主体的、対話的な深い学びについては、拙稿「主体的・対話的で深い学びの実現に向けて(全3編)」でも考えるところをまとめておりますので、お時間の許すときにご高覧をいただければ光栄に存じます。

2020/08/24 公開の記事をアップデートしました。

❏ 学習効果を決める、学習方策、対話協働、活用機会

別掲の質問設計による授業評価アンケートの回答データを解析してみると、【学習効果】への寄与度(重回帰分析で算出した偏回帰係数のt値で推定)のトップには、【学習方策】【対話協働】【活用機会】の3項目が大差なく並ぶのが通例です。

【学習効果】

  授業を通し、学力や技能の向上、自分の進歩が実感できる。

【学習方策】

  私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う。

【対話協働】

  話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる。

【活用機会】

  習ったことをもとに考える機会が、課題などで整っている。
回答は、すべて{とてもそう思う~まったく思わない}の5択とし、それぞれ4点~0点を割り当てて得点に換算しています。
正しい学び方を身につけていなければ、いくら頑張ってみたところで学力の向上は遅々としたものになるでしょうし、獲得した知識を活用する機会がなければ、学んだことによって自分にできることが新たに増えたこと(=コンピテンシーの増大)を実感するすべがありません。
協働で課題解決に取り組む中での対話は、生徒同士の経験や知識、発想を交換することによる集団知の活用で課題解決力を高める(=より高度な課題にチャレンジできる)とともに、個々の生徒にも「それまでの自分に欠けていたもの」を埋めようとの動機を与えます。

❏ 対話協働の充実には、適切な課題が不可欠

話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる授業の実現に寄与する要素を特定するために、【対話協働】を目的変数に、難易度と学習効果の2つを除く、他の7項目を説明変数とする重回帰分析を行ってみたところ、寄与度のトップに躍り出たのは【活用機会】でした。
課題などを通して、習ったことをもとに考える(=獲得した知識を課題解決に活用する)機会を整えることと、話し合いなどの協働場面を作り出すこととはそれぞれ独立したことであり、どちらか一方だけを実現することも理屈の上では十分に可能なはずです。
しかしながら、如上の分析結果は、知識活用の機会を作ることが対話と協働による学びの深まりを大きくすることを示唆しています。両者の間には、0.578~0.602(95%信頼区間:生徒の回答から直接算出)という高相関が観察できます。
両者の結び付きを説明するには、「協働で解決すべき課題/答えを導くべき問いが与えられないことには、対話は自己目的化し、深い学びに結び付く気づきや発想の交換は生まれない」と考えるのが好適でしょう。
下表が示す通り、【活用機会】と【対話協働】への回答はかなりの確度で一致しています。


また、【活用機会】でどの回答を選んだかでデータを分けて、それぞれの【対話協働】の換算得点平均で作成した折れ線グラフ(マーカーが平均値、上下に伸びる腕の長さが標準偏差)を見ても、グラフの傾きはかなり大きく、形状もほぼ直線です。


❏ 課題を使った目標把握と対話に臨ませる前の理解確認

下図に示す通り、【対話協働】への寄与度(各説明変数の偏回帰係数のt値で推定)では、【活用機会】に続く第2位と第3位に上がったのは、【目標理解】と【理解の確認】です。


別稿「学習目標は解くべき課題で示す」でも書いた通り、本時の学びを通じて解を導くべき課題を導入フェイズで示すことで、生徒は学習目標をより深く理解するようになります。
当然ながら、対話の場面に臨んでも、メンバーがそれぞれ目標をしっかり把握していれば、より実のあるやり取りも生まれます。
また、対話に臨む前に、そこで必要となる知識や前提理解などがきちんと備わった状態を作っておかなければならないはずであり、課題解決の場を整えたら、挑ませる前に理解の確認を徹底する必要があります。
不明の解消やさらなる情報の収集は、対話が始まってからでも教科書や副教材、資料を読み直して行うこともできますし、教え合い・学び合いの中での補完も効きますが、最小限のところは固めておきましょう。

❏ 学びを深く確かなものにする「仕上げ」の工程

目標の共有と前提理解の確保によって、対話的な学びを充実したものにしても、最終的には生徒一人ひとりにしっかりと「学びの仕上げ」に取り組ませて、学びを深く確かなものにする必要があります。
対話の中で「答えらしきもの」を得たとしても、その段階では、学びは自分のものになっていない可能性があります。
もしかしたら、生徒の中には、他のメンバーの成果に乗っかっているだけのフリーライダーだっているかもしれません。
対話で得た気づきや学びを携えて、最初の課題に立ち戻り、しっかりと答えを仕上げさせてこその、深く確かな学びです。

答えを作り直す/仕上げる中での「学びの振り返り」は、メタ認知・適応的学習力の向上を図る上でも欠かせないものだと思います。
また、生徒がそれぞれに仕上げた答えを再びシェアすれば、互いの答案からの気づき(相互啓発)からの更なる学びも期待できます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一