学習目標は解くべき課題で示す

日々の授業や各単元の学習に明確な到達目標を設定し、生徒としっかり共有できているかどうかで学びの成否はほとんど決まってしまいます。
学習目標の提示には様々な方法が試されていますが、単元名や指導案で見かけるような「〇〇について理解を深める」といった表現で「本時の学習を通じて達成すべきこと」を生徒は十分に把握できるでしょうか。
まだ学んでいないことだけに、何を学び、どこまでわかれば/できれば良いのか、生徒に想像しきれない部分が大きいはずです。
拙稿「生徒に見えている景色を想像しながら教えているか」で申し上げたことは、個々の学習内容を理解させるときだけでなく、学習目標を伝える時にもしっかりと意識すべきことがらです。
最も効果的なのは、学び終えたときに答えを仕上げるべき問い/解決すべき課題を「ターゲット」として導入フェイズで提示してしまうことです。ターゲットを正しく認識することは目的意識をより明確にし、理解力の補完、達成感の強化といった様々な効能をもたらします。

2018/06/28 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 学びの目的は、自分の課題を解決できるようになること

指導案などに見るように、教える側にとっての指導目標は、「○○について理解させる」などと表現されていることが少なくありませんが、これは生徒にとっての学習目標とは違うように感じます。
生徒は、教科書の新しいページに書かれている内容を学ぶことそのものを目的としているわけではありません。
新しく学んだことを用いて、「自分ごと」としての課題を自力で解決できるようになることが、生徒にとっての学ぶ目的です。
ならば、学習目標を生徒に対して端的に示すには、「生徒自身が解を導くべき課題」をもって示すのが手っ取り早く、且つ効果的な方法です。

PISA以降、学力観はパフォーマンスモデル(何を学んだか)からコンピテンシーモデル(何ができるようになったか)への転換が急速に進んでいます。「何を教えるか」から「何をできるようにするか」に発想を切り替えれば、学習目標の示し方にも相応の変化が生じて当然です。

❏ 目標であるためには、達成を検証できることが要件

学習指導に限らず、目標が目標たり得るには客観的に達成を検証できることが要件です。「頑張ります!」は元気がよくて気持ちの良い言葉ですが、単なる意思表明であり、「目標の要件」は満たしていません。
授業の冒頭で、「〇〇のメカニズムを知る」「登場人物の心情を理解する」と板書したところで、依然として目標提示の方法としては不十分。
この表現では、何をどこまで知れば/理解すれば良いかはっきりせず、目標が達成できたかどうか生徒自身に判断がつかないからです。
これに対して、生徒自身が解を導くべき課題(ターゲット設問)は、採点基準に照らせば、どこはできてどこができなかったか分析的に捉えることができます。
できたかどうかの判別を分析的に行い、足りていなかったのは何かを把握することで、生徒は次に何をすべきか/学ぶべきかに気づけます。
別稿にある通り、「何がわかっていないか確かめながら勉強する」という 【モニタリング方略】には勉強を好きにさせる効果も期待できます。
 cf. メタ認知、適応的学習力
たとえ、正解がひとつに決まらない問題でも、観点を定めてそれぞれに段階的な評価規準を設けた「採点ルーブリック」を利用すれば、同様の検証が可能です。

❏ ターゲット設問は授業の冒頭で板書する

学習目標を解くべき課題で示すときに心掛けたいことは、導入フェイズでしっかり示すことと、問い自体を板書することの2つです。
導入フェイズ(学びの冒頭)で示せば、学んでいる間ずっと生徒は学習目標を認識していますので、途中で少し躓いても、目指しているものに照らし不明からのリカバリーを図れるため、理解力も底上げされます。
目的をもって学ぶ時間と、先生の指示に従っているだけの時間とでは、学びの密度も違います。
問いを与えられ、答えを考える中で、不明や興味の所在に気づけば、それを解消したり掘り下げたりしたいとの欲求が芽生えますが、それこそが生徒一人ひとりの「学ぶことへの自分の理由」ではないでしょうか。
板書をするのは、書き写すことで一語一句に十分な注意を向けさせることに繋がるからです。些末なこととお感じになるかもしれませんが、効果のほどは決して小さくありません。
授業の冒頭で、余計な説明なしにターゲット設問を板書すれば、生徒はノートを取り出し書き写し始めますので、休み時間からの切り替えも上手にできるはずです。

❏ 生徒自身が問いを起こすことを予習の課題に

もう一歩、工夫を進めるならば、授業を終えるときに次の授業で扱う範囲を指定して教科書や資料を読ませておき、そこに「自分なりの問いを立てる」ことを次回までの予習課題とするのも好適です。
他人が作った問いが、生徒の琴線に触れるとは限りません。でも、自分が作った問いなら答えもきちんと出したいと思うものです。

この取り組みの肝は、「問いを立てることを通じて、その日の授業での目標を生徒が見つける」というところにあります。
問いを立てようと思えば、指定された範囲を自力で読んで理解しなければならず、学習範囲をひと通り学んできたことになりますので、期せずして、反転学習の要素も取り込んだことになります。
作らせた問いは教室で持ち寄らせ、互いに見比べさせて相互啓発の材料にしたり、協働でより良い問いに仕上げさせたりしましょう。
 cf. 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)
知らない語句を辞書で調べてきなさいという「作業型タスク」では生徒の側では「やらされ感」が膨らみます。問いを立てる宿題と比べてどちらが生徒にとって刺激的かは言うまでもなさそうです。

このようなご提案をすると「いや、うちの生徒にはちょっと…」という反応も少なからず見られますが、本当にそうでしょうか?
拙稿「できない?やらない?やらせてない?」にも書きましたが、やらせてみると案外できてしまったりするものですし、そもそも、やらせないことにはいつまでたってもできるようになりません。
■関連記事:

  1. 最初の答えと作り直した答えの差分=学びの成果
  2. 導入フェイズで仮の答えを作らせることの効果
  3. 答えを仕上げる中で学びは深まる
  4. 論点(イシュー)を使った単元導入
  5. 学ぶことへの自分の理由を持たせる~新単元等の導入指導
  6. 単元ごとに設定するターゲット設問
  7. 問いのあり方に焦点を置いた授業研究
  8. 問いをテーマに授業を考える(まとめページ)

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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