学ぶことへの自分の理由(前編)

授業評価アンケートで以下の2つの質問への回答を数値化して相関係数を算出してみるとその結果は0.48に止まりました。ある程度の相関ではありますが、特別に強固なものというわけでもありません。

【目標提示】この授業の目的や取り組み方について、先生から事前に具体的な説明があった。(先生方からの働き掛け)
【目的意識】あなたは、自分なりの課題や目的意識をもってこの授業に取り組んでいる。(生徒の側での学びへの意識)


先生方が思い描く「学習指導を通して達成を目指すところ(目的)」をガイダンスなどで伝えても、それだけでは「学びに向かう課題意識や目的意識」が生徒の中に芽生えるとは限らないということでしょう。
先生方の「教える理由」と生徒の「学ぶ理由」は別のところから生じているものであり、生徒一人ひとりに「学ぶことへの自分の理由」を持たせるには、何らかの別の仕掛けが必要と考えるべきだと思います。

2015/09/14 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 学習効果への寄与は、目標提示を目的意識が上回る

生徒が「学ぶ理由」を持つのに、先生方から学習目標を伝えるだけでは十分ではないことは冒頭のデータが示す通りですが、生徒の目的意識を高めないことには、学びの成果も大きくなりません。
学習効果(この授業を受けて学力や技能の向上を実感した)についての回答と、目標提示(教える理由)と目的意識(学ぶ理由)それぞれへの回答の間に見られる相関も、前者より後者の方が大きな値です。
 相関係数(目標提示×目的意識)=0.482

 相関係数(目標提示×学習効果)=0.526

 相関係数(目的意識×学習効果)=0.614
学ぶことへの自分の理由なしには、達成への努力も十分に引き出せず、自ずと学びの成果も小さなものになってしまいます。
それでは、次のチャレンジへのモチベーションの原資となる「達成感」も得られませんし、学びへの不安を解消し消極性を取り払うために必要な、「科目の学びに対する自己効力感」も高まりません。
努力して達成した中にこそ新たな興味・関心が生まれることもデータでわかっていますが、目的意識の希薄さは、この流れにも「詰まり」を生じさせてしまいます。


興味・関心が生まれれば、それを掘り起こしていくうちに、学んだことを接点とする社会との関りなども見えてくるはず。さらに積極的・自発的な学びの姿勢を獲得してくれることも期待できそうです。

❏ 興味の刺激と消極性の解消という二面作戦で

科目や単元の内容に興味を持ってもらうには、自分事として捉えられる問いを与えることがスタートになります。
身の回りにある問題や社会が解決に取り組んでいる課題から、本時の学習内容と関わりのあるものを選んで問いを投げかけてみましょう。
その問いに答えを作ろうとする中で、生徒は「解消すべき不明」と「掘り下げたい興味」を見つけてくれるのではないでしょうか。
この辺りについては、続編「学ぶことへの自分の理由(後編)」で少し掘り下げて考えてみましたので、併せてご一読ください。
一方、授業内活動に積極的に参加しない、宿題や予習にも一生懸命に取り組まないという「消極性」もどうにかしなければならない問題です。
どんなに優れた教材を用意し、深い学びを設計しても、生徒が乗ってきてくれないのでは…。取り組みの弱さや消極性をどのようにして抑えるかも、しっかり答えを見つけなければならない課題です。

❏ 学びに「チームへの貢献」という要素を取り入れてみる

活動には、自分のために行うものと、チームやパートナーのために行うものとがありますが、前者であれば、やる気がなければ「サボる」という選択肢だって取り得ます。
学ぶことに自分の理由が見つからないのに、サボらずに取り組むのは、よほど自制が効かないと難しいことではないでしょうか。
一方、後者の場合、自分がサボれば相手の足を引っ張ります。赤の他人ならいざ知らず、友達には迷惑を掛けたくないという心理が働きます。
例えば英語で、文章をパラグラフごとに切り分けたプリントが配られ、そのパートはチーム内で自分しか持っていないとしたらどうでしょう。
各自が内容を理解してチームに伝えて、グループで全体のストーリーを復元するというタスクを前に自分のパートも手を抜けなくなります。
ペアで音読する場合も、相手がそれを聞き取ってディクテーションをしなければならないという追加作業が指定されていたら、モゴモゴと適当に読むわけにはいきません。
教室での話し合いの準備として、それぞれがパートを担う調べ学習に取り組ませることにも、同様の効果が見込めます。
ただし、タスクが自分の手に余るようでは、生徒は追いつめられるばかり。手が出せるだけのレディネスを整えさせておく必要があるのは言うまでもありません。
参照すべき資料へのアクセスを確保すること、必要に応じて相談や質問ができる環境を整えておくことなどには十分に留意しましょう。

❏ 参照型教材と集団知の活用~多様なコンサル先を確保

課題を与えられても自力ではどうにもならない(わからない、解けそうもない)と思ったら、先生が正解を示してくれるのを待つという消極的な選択肢を選ぶしかありません。
これでは表面的には理解できたとしても、できるようになったとの実感には程遠いはずです。そもそも自分では何もやっていない以上、そこで獲得できたかもしれない能力・資質は未獲得のままで終わります。
自分が持っている知識や発想だけでは手が出ない課題でも、教科書や参考書・用語集などの解説を自力で読んで理解できたり、クラスの中で教え合い・学び合いが気軽にできる雰囲気にあったりすれば、解決の糸口は見えてくるのではないでしょうか。
何とかなりそうだという展望は、取り組みへの意欲を底で支えます。もし「できそうもない」と思えば、敢えて手を出して「できない自分」を突き付けられるより、やらずにいた方がましと考えてしまうかも。
それに対して、「おっ、こうやればなんとか解けそう?」と思う瞬間があれば、取り組んでみようという気にもなろうというものです。
課題を与えて挑ませるときには、達成可能性を確保しておくことが大切です。そこまでに学ばせたことの理解をきちんと確かめておくことに加えて、生徒が自在に使えるコンサル先を整えさせておきましょう。

学ぶことへの自分の理由(後編)に続く。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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