副作用を抑え、効能を最大化するルーブリック評価の運用

改めて申し上げるまでもなく、現行課程では「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点で学習評価を行います。次期学習指導要領に向けた検討過程では、評価の対象を「知識・技能」に絞るとの提案がなされましたが、他の2観点が、獲得を図るべき能力・資質として、その必要性を失うわけではありません。
そもそも、評価を行うのは、「目指すゴールとの距離を測り、どうやってそこに接近/到達するかを考える」「これまでの取り組みの成果を測り、その効果や妥当性を確かめる」という2つの目的のため。必要な能力・資質の確実な獲得には、評価という営みは不可欠なはずです。
指導と評価の一体化の中で言われてきた、「進捗と改善課題を捉えた学び」の実現は、生きる力を身につけさせて学校を送り出す要件です。

生徒の行動や態度に現れる「主体的に学習に取り組む態度」や、答案やレポート、発表などに現れる「思考・判断・表現」を評価し、定量化して記録に残すためのツールが「ルーブリック」(観点別の段階的評価規準)ですが、様々な形で活用が進む中、以下のような「副作用」も顕在化してきました。

  • 評価規準に書かれていること以上のことに、生徒がチャレンジしなくなる(生徒の成長に蓋をする)
  • ルーブリックに並ぶ観点に沿ってしか、より良い成果に向けた工夫をしなくなる(教師/評価者への忖度?)

こうした副作用/弊害の発生を抑え、ルーブリックを用いた評価の本来的な効能(=評価結果に照らして、次に何を学ぶか、どう取り組むかを生徒自身が認識できるようになること[≒メタ認知・適応的学習力の獲得])を最大化するのに何が必要か、改めて考えてみたいと思います。

本稿の内容をChatGPTでイラストに起こしました。クリックで拡大します。

❏ A評価を超えたプラスα 要素を言語化&シェア

観点別に書き出した段階的評価規準には、通例、要求を完全に満たしたことを意味する「A」評価があり、そこから離れるに従って、BCDという各段階の下位評価の規準が設定されます。
A評価をもらい、すべての要求を満たしたと考えてしまえば、当然のことながらその先を目指す動機も持てませんし、どこに向かえば良いのか判断もつきません。これが、生徒の成長に蓋をする原因の一つです。
この問題の解消を図る方策の一つが、「A評価の規準を完全に満たした上で、更に評価すべきプラスアルファの価値を持つ取り組み/成果」に対して与える、謂わば「S」評価を設定することです。
但し、S評価を設けるだけではあまり意味がなく、効能も限定的です。ポイントは、S評価を与えたときに「評価されたプラスアルファが何であるか」をきちんと言語化してみせることにあります。
単に「Aを超えた」だけでは、A評価の先に存在する可能性や価値を、生徒との間で具体的に共有することはできません。
評価したプラスアルファの要素を、誰もが理解できるよう、実物をサンプルとして、きちんと言語化された評価理由を添えて、クラスや学年の生徒(加えて、学年の指導に当たる先生方)とシェアしましょう。
多くの事例が蓄積していく中で、A評価を超えるための選択肢/アプローチはいくらでもあることを認識させれば、評価規準が生徒の成長の蓋になるという問題は、徐々に解消に向かうはずです。
ご指導に当たる先生方にしても、これまで「到達点」としていたところの先に、さらに大きな可能性があることを知れば、指導目標の再設定もできますし、それに近づくための指導方法の工夫も生まれます。

❏ 観点も追加・整理しながら、より合理的な評価基準に

生徒が目を見張るようなパフォーマンスや成果を示したときに、それを評価に反映してあげるのにぴったりの観点がルーブリックに設定されていないことも少なくありません。
ことによると、先生方がルーブリックを作成/起草するときの検討において、何らかの重要な観点を見落としていたのかもしれません。もしそうだとしたら、「指導目標」にもその方向を欠いた可能性があります。
どんなワーディングを当てるかは、よくよく考える必要がありますが、如上のケースなど、必要に応じて「規定観点外の加点ポイント」を追加できるようフォーマットに空欄を一つ残しておけば対応可能なはず。
そのプラスアルファを評定に組み込むかどうかは、教科内で十分な検討が必要(公平性の担保のため)ですが、優れたものをきちんと評価して見せることの重要性には目をつぶるわけにはいきません。
個々の評価機会を重ねる中で、こうした欄外加点を行ったケースを記録しておき、どこかのタイミングで整理した結果を、ルーブリックの更新に反映させれば、ルーブリック自体の完成度も高まっていきます。
別稿「評価基準は使いながらブラッシュアップ」でも触れた通り、初めて作った評価基準(「ルーブリック」もその一つです)を、更新もせずにずっと使い続けることの弊害は小さくありません。
先生方も生徒の指導と評価を続ける中で、様々な気づきを重ねていきます。それらをどんどん組み込んで、反映させれば、評価に用いるツールも先生方と一緒に「成長」していくのではないでしょうか。

❏ 生徒にも評価者スキルを獲得させる

ルーブリックは、メタ認知・適応的学習力の向上を図り、生徒を「学習者としての自立」に向かわせるためのツールですが、せっかくルーブリックを導入したのに、その効果が十分に見て取れないことがあります。
生徒が自分の取り組みや成果を正しく評価できないことで、次にどうすべきか考え出すところまで至らなければ、ルーブリックの導入に当たって狙った「進捗と改善課題を捉えた学び」は実現しません。
先に取り上げたような「副作用」とは趣旨が違いますが、効能を低下させる要因もまた、出来るだけ早く、確実に取り除いていきたいところ。
以下の記事でも触れましたが、生徒の「評価者スキル」を高めていくことに意識を向け、その成果を日々確かめながら、指導を重ねましょう。

生徒が評価者スキルを獲得しない限り、先生が与えた評価と生徒の自己評価の間には、一定のズレが解消されずに残るはず。それらが積み上がれば、評価の結果やプロセスへの不信や不満にもなりかねません。
現行課程では、指導要録に「各教科・科目の観点別学習状況」を記載する欄があり、評定とともに観点別学習状況が「AAA」といった具合に記録を残す以上、評価結果に対する説明責任は常に問われます。
先生がいくら正しい評価を行ったとしても、評価される側がその結果をしっかり理解して納得しないことには、「十分な説明がなされている」との相手側(生徒や保護者)の認識にはならないように思います。

新しい学力観に基づく評価方法(記事まとめ)



追記: 個別場面でのルーブリック評価→観点別学習状況→評定

ルーブリックは、基本的には個々の評価場面(=生徒に活動をさせたとき/アウトプットを行わせたとき)に使うものです。当然ながら、個々のルーブリックでの観点は、ベースとなるものをもとに、活動やアウトプットの内容・特性などに合わせてその都度アレンジします。
一定期間に亘って蓄積した評価結果は、評定を出すタイミングで「観点別学習状況」の評価観点に振り分けることになりますので、個々のルーブリックの各観点が、3観点のどれに対応するか、どの割合で従属するのかは、予め十分に検討して決めておきましょう。
実際に評定を算出する段階でも調整はできますが、ゼロから議論する時間は、多忙な学期末・年度末には取りにくいはずですし、ルールが後から決まるのでは、評価の透明性などに問題を抱えます。
SABCDの各評価は、計算や統計処理ができるように得点に換算する必要があります(指導要録への記載では不要でも、指導の効果測定を行う上では欠かせません)ので、評価→点数の換算テーブルは熟慮・決定の上、生徒にも予め示しておきましょう。
換算方式を予め確定し、提示しておかないと、後で「評価結果への説明責任」を問われたときに危うい思いをすることにもなりかねません。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一