荷物を増やしても、学びが膨らむとは限らない

この記事を起こした2017年5月頃、ある報道番組では「東京近郊の公立中学生の通学バッグの平均重量が8キロ超」と報じていました。
副教材の充実や「脱ゆとり」路線での教材増加が主な原因とされていましたが、その後も状況はさほど変わらず、机間指導は生徒の大きな荷物を避けながら行うのが「常態」の教室も少なくありません。
そんな光景を目にして思うのは、「荷物が増えた分だけ、学びが膨らんでいるのか」です。持ち運んでいる教材のうち、実際には使いきれていないものがかなりの割合を占めているように思われます。
問題の本質は、荷物の重さではありません。その背景にあるかもしれない「与える教材を増やせば、その分だけ学びは豊かになる」との思い込みを、改めて見直してみることこそが必要ではないでしょうか。

本稿の記事をもとに、ChatGPTで作画しました。(クリックで拡大します)

❏ 持参させるだけでは、学びへの貢献は生まれない

教科書のほかに副教材が数種類、さらにプリントを綴じるファイルなどもあって、授業中の机上は荷物であふれかえっています。
しかし、50分の授業を通して観察していても、生徒が副教材(用語集や参考書など)のページを頻繁に開き、内容を参照している姿は思いのほか少なく、ただ教室に持ち込んでいるだけのようにも見えます。

中には、教科書を開かず、配られたプリントの空欄を埋めているだけで授業が進むことも少なくありません。体系づけて記述されている教科書を拠り所にしないと、学んだこと同士の関連付けも難しくなります。

ノートも持っているだけで、有効に使っているとは思えず、「カバンの膨らみと学びの膨らみ」は、互いに無関係な事象にも思えてきます。
別稿にも書いた通り、成果と気づきの散逸を防ぐためにも、学びの記録は一か所に集約するのが好ましく、そのためにも、せっかくのノートを学びの成果を集約する道具として、効果的に使わせたいものです。

❏ 教科書を自力で読み解けることは、学びの土台

現行課程への移行、高大接続改革を機に、共通テストをはじめ、国語に限らず、多量のテクストを読み、内容を理解した上で、所与の問いへの答えを導く(考える)力を試す出題が多くを占めるようになりました。
教科書を自力で読み解く営みは、情報を整理しながら文章を読み、自ら問いを立てる(=テクストと対話する)ための基礎訓練です。
知識伝達の効率を優先するあまり、テクストを読み解く部分を先生方が肩代わりしてしまっては、「学びの根幹」に穴があくことになります。
生徒が教科書を机の上に置きっぱなしにしているようならば、教科書をきちんと読ませることに、もう少し重きを置く必要がありそうです。
教科書の記述と、その内容を俯瞰し得るターゲット設問によって理解の軸を形成できたら、後は生徒一人ひとりのニーズに応じて、必要な知識を拡充する機会を用意すれば、それで十分なはずです。

❏ プリントを多用することのデメリット

サブノート式のプリントをくばり、話を聞かせながら、空所を埋めていけば、その単元の知識は獲得させられるでしょうが、「知識を獲得するための力」は身につきにくいはず。ましてや、必要な情報を自ら集めて新たな知に編む力を育むこともできません。
生徒が、プリントの空欄に埋めた文字列だけを覚えればOKと錯覚すれば、「学びとは覚えること」との曲解が進むとともに、知識が断片化していくリスクも高まります。
図版もプリントにして配れば、その場で確認させることはできますが、対象物を精緻に観察し、特徴を掴むトレーニングにはなりません。板書したものを注意深く観察させ、気づきを言語化させながら、ノートに描き出していけば次元の違う学びが実現するのではないでしょうか。

不要なプリントを減らすことで新たに生まれる「好ましい学び」もあるということ。プリントを綴じたファイルをノートと別に持ち運ぶ負担も減りますし、先生方の授業準備も多少なりとも軽量化されそうです。

❏ 知識の拡充を図ることを先行させ過ぎない

副教材には、前出の用語集や参考書などの「単元内容をより深く理解する」ための参照型以外に、問題集や単語集・熟語集といった「教科書での学習だけでは残る部分を補う」ために用意されたものもあります。
後者タイプのものも、持たせているだけになっていることもあるでしょうが、それ以上に問題になり得るのは、必要な範囲を超えて、すべての生徒に同じペースで取り組ませることでの「過剰負荷」でしょう。
英語や古典の語彙補強、例文暗記などは、教科書で進む学びのペースを超えて先に進んでいくこともあり、「使う機会もないまま」に文脈から外れて「覚える」だけになりがち。学びは成果を結びにくいはずです。
覚えることの必要性、有用性も十分に体感できず、想起のアンカーも足りず、記憶への定着も「文脈の中で学んだ後」ほどには進みません。
こうした不利を考慮せず、単純に「総量÷期間」で割ったスケジュールで進ませるのは、生徒にとっても負担ばかりが大きくなりがちです。
別稿でも書いた通り、副教材は「主教材で作った流れの中」で使う方がはるかに効果的です。生徒に過剰な負担も強いずに済みます。

副教材を揃え、漏れのない大きな「覆い」を用意したくなるのは、生徒の進路希望を実現させたいとの熱意ゆえでしょうが、再テストの繰り返しで、後手のスパイラルに入れば、モチベーションも低下します。
荷物を増やす(≒生徒に課すタスクを増やす)ことは、必ずしも学びの総量を大きくするわけではないということを、学ばせる側は常に意識しておく必要があると考えます。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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