新しい学力観の下での授業デザイン(記事まとめ)

現行課程の下、学力観はパフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルへと更新が加速しています。大学入学共通テストや各大学の個別入試でも新しい学力観を反映した「意欲的な出題」が見られます。
目指すところは、大学進学者のみならず、全ての生徒が卒業後に正しい選択を重ね、より良く生きるための基盤となる「学力」の形成です。
基礎力という言葉一つをとっても、それが指すのは従来の「単元内容の根幹をなす知識群」から「言語、数量、情報の各スキル」(21世紀型能力での定義)へと変化し、読解力にも「質と信ぴょう性を評価する」と「矛盾を見つけて対処する」という新たな要素が加わりました。
日々の授業デザインでも、指導計画作りでも、従来の「教え方」に発想を縛られることなく、新しい学力観に沿った「学ばせ方」になっているか、授業改善の方向性は合っているか、常に点検を重ねましょう。

2019/12/06 公開のまとめページを再アップデートしました。

❏ 学力観の変化を正しく捉え、指導計画に反映

授業を通して生徒に身につけさせるべきものも大きく変化しています。各単元の学習内容を理解させることは、従来の学力観では学習指導のまさに「目的」でしたが、新しい学力観の下では、様々な能力・資質を獲得させるための「手段」という位置づけも併せ持ちます。

❏ 個々の授業をデザインするときにも新たな発想を

こうした流れの中にあって、当然ながら、授業を設計/デザインするときに求められる「発想」にも大きな変化が生じています。
獲得させるべき知識・理解の量が減らない中、それらを「生きて働かせる」場を設けたり、気づきの交換や思考の深化などに不可欠な「対話」を充実させたりするには、教室でやるべきことと、生徒が個々に取り組む学習活動でカバーすべきことの明確な切り分けが欠かせません。

プリントなどの補助教材も、従来は知識の整理と付与をメインの目的に作られていたかと思いますが、新しい学力観の下では、「授業内に配列した学習活動(課題解決や対話協働など)の遂行を的確にガイド」するためのものへと、その位置づけを変えていく必要があります。

❏ 授業が変われば、授業前後の学びの在り方も変わるはず

予習のタスクでは「教科書を読み、土台の理解を形成する」や「問いを立てる」といったことを求めていく必要もあります。復習もまた、従来の「反復で定着」をメインとしたものから、「学びの仕上げ&深め」を主たる目的とするものに変わっていくはずです。

新しい学びが家庭学習の一層の充実を求めるのであれば、家庭学習の習慣をしっかり根付かせ、学習時間の延伸策を講じる必要があるのは言うまでもありません。cf. 原因から考える家庭学習時間の延伸策

❏ 指導方法に加えて、評価も新しい学力観に沿ったものに

求められているのは、指導法/学ばせ方の改善だけではありません。学習活動とその成果を正しく評価しないと、学びを通して目指すところを生徒のみならず先生も見失いかねません。評価結果への説明責任も問われますので、しっかりと整備を進めましょう。

評価を行うのは、生徒が自らの取り組みの成果を自覚(たな卸し)し、次のステップに進むための課題を捉えることが目的。先生が評価して、生徒がそれを受け入れるだけでは、「主体的な学習者」にはなれません。振り返りを通じて、メタ認知・適応型学習力を養いましょう。

的確で、多面的な評価は、効果的な授業のデザインにも、その継続的な改善と開発にも欠かせません。学び初めの状態も把握しましょう。

❏ 学びの方向を与える「定期考査」の更新も着実に

評価における主たるツールとして(少なくとも当面は)位置づけられる定期考査の出題内容も、新しい学力観に沿ったものに更新が必要です。
生徒は考査問題に合わせて勉強します。考査問題が従来のまま、多少の手直しをしたぐらいでは、生徒を間違ったゴールに導くリスクがあります。学力観の変化は良問と悪問の分け方を変えると考えましょう。

❏ 先生方が授業を振り返るツールや機会も整え直す

授業評価アンケートの質問設計も新課程が求める学ばせ方に沿ったものに更新を図りたいところです。質問文が新しい学力観を反映したものでなければ、先生方が積み重ねた工夫と努力がどこまで成果を得ているか検証もできません。質問文は授業の在り方を示す機能も併せ持ちます。
学校全体で行う「生徒による授業評価」は、ご自身の取り組みを相対化する定点観測の機会として欠かせませんが、それ以外にも「きちんと観点を定めた自己点検」も日々怠らないようにしたいところ。生徒が残したリフレクション・ログからも、改善課題は見て取れるはずです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一