出題研究の成果を踏まえて、考査問題のアップデート

高大接続改革を皮切りに、新課程への移行を経て、大学入試のみならず中高入試にもかなり大きな変化が生じてきたと感じます。新たな出題/問い方への挑戦に「作問技術」がまだ追いついていない部分もないとは言えませんが、今後も出題の改善は続いていくものと思われます。
新しい学力観に沿った学ばせ方を実現すべく、指導の方法に様々な改善が重ねられている中、その成果を測る方法(=評価方法)もそれに合わせたものに更新しなければならないのは言うまでもありません。定期考査の出題もまた、大学入試等の出題研究の成果を踏まえ、アップデートを怠らないようにしたいところです。

❏ 生徒は考査問題に合わせて勉強のスタイルを作る

定期考査は、生徒が日々の学びをまとめて仕上げる大事な機会です。それまでに勉強してきたことを復習して考査に臨みます。
もし、習ったこと(=ノートやプリントに残った正解)を丸暗記しただけで好成績が取れてしまえば、そのやり方に何の疑いも持たず、学びのスタイルを固定していくことになります。
教えたことを真面目に覚えてくれたことに、教えた側としてはうれしく思う部分もあろうかと思いますが、大学入学共通テストや教育改革に積極的な大学群の出題を見れば明らかなとおり、「習ったことを覚えるだけでは通用しない」のが新しい学力観を反映したこれからの入試です。
探究活動やPBL的な学びの場面を想定した出題は、そうした学習場面で必要な力(「21世紀型能力」で言うところの、言語・数量・情報の各スキルからなる「基礎力」と、それらを活用した「思考力」など)を測ろうとしており、与えられた答えを記憶し、答案上に再現するだけの勉強では対処できないことを実感するのもしばしばです。
基礎力という用語も、従来の「各単元の内容を構成するプリミティブな知識群」とは既に違ったものを指すようになっている点にも注目です。
基礎力や思考力は、定期考査ではなく日々の学習指導での行動観察などを通して評価するという立場もあるかもしれませんが、評価(評定)の最大材料である定期考査がそうした学力要素を測定項目に含まないのでは、定期考査を行う意義も損なわれてしまうのではないでしょうか。
ノートの持ち込みOKの定期考査という試行も各地でみられるようになりました。丸暗記を助長するような定期考査より、考査に向けたノート作りを通して、知識の体系化や思考の深化、学びの拡張に挑ませ、より高次の学習方策の獲得などを促した方が教育的かもしれません。
生徒が考査問題に合わせて学習のスタイルを確立していくことは今後も変わらないはず。定期考査の出題も新しい学力観に沿ったものに正しくアップデートしてこそ、生徒の学びを正しく導けるとお考え下さい。

❏ 先ずは出題研究に改めて注力~問い方を学び直す

大学入学共通テストや意欲的な大学に見られる先進的な出題例は、これからの生徒にどんな学力を身につけることが期待され、どんな学習場面が想定されているのかを把握するのに好適な材料です。
自教科の問題は、生徒の立場にたって(=幾人かの生徒を具体的にイメージして)解いてみることで、どこに躓くか/これまでの学びに足りなかったのは何かを見て取りやすくなると思います。

また、他教科の問題にも各ページをのんびり眺める程度で構いませんので、目を通しておきたいところです。
他教科の授業で生徒がどんなことを/どんなふうに学んでいるかを知ることは、自教科の立ち位置を再発見する機会にもなるはずです。別稿の通り、他教科のテストでの問い方が、自教科での出題/作問の参考になることも少なくないと思います。
そもそも、現代の生徒が学んでいることは、先生方が中高生として学んでいたころとは、内容もアプローチもだいぶ違っています。生徒が何を学び、どんなことができるようになっているかを知らないことには、自教科の指導を設計するときに大きな見落としがあるかもしれません。

もし生徒が目標とする大学群の今年の出題をまだきちんとチェックできていないようなら、来年度の指導計画や定期考査のあり方を考え始める前に、しっかり(解く側の視点で)出題に目を通しておきましょう。

❏ 記述・論述問題の採点基準もアップデート

正解が一つに決まらない問題なども、今後の出題が増えてくることが予想されます。記述・論述問題では、以前のように「模範解答ありき」で減点法で処理する採点方式は使えなくなります。
最終的には、生徒自身が採点基準を正しく適用して、自分の答案を客観的に評価できるようにしていくことが目標になりますが、これを生徒に求めていくには段階性を踏む必要があります。
まずは、先生方が、はっきりとした観点とそれぞれの段階的評価規準からなる「採点ルーブリック」をご自身の中でしっかり持つところからのスタートになるはずです。
その上で、明確な基準に照らして高い得点を与えた答案を「解答例」として生徒に示し、自分の答案と見比べさせることで、採点基準の意味するところと、適用の方法を少しずつ生徒にも学ばせていきましょう。
採点ルーブリックを利用するしかないタイプの問題が増える以上、普段の授業でも、定期考査でもそうした出題を避けるわけにはいきません。評価なしには、生徒の育成も、指導の改善も図れないはずです。
もしルーブリックを適用した結果(点数)と直感的につけた点数が一致しないようなら、そのルーブリックの設定には改めるべきところがあるということです。
ルーブリックの完成度を高めるには、実際に使いながら、自らフィードバックを得る必要があります。評価規準は使いながらブラッシュアップするというスタンスで臨みましょう。

採点基準については、記述問題を廃した大学入学共通テストは参考になりませんし、個別大学の出題でも詳細なところまでは発表されません。各予備校等が主催する模擬試験における「解答と解説」や「採点講評」は、今後も暫くは、貴重な参考資料になるのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一