別稿「授業改善を加速するための共通言語」(用語集)のトップに配置したのは、ターゲット設問です。これを授業デザインの中心に置くことで、主体的で深い学びの実現に近づける可能性は格段に高まります。
本時の学習内容を俯瞰し得る問いを、授業の冒頭に示すことで、本時の学習で「何ができるようになればよいか」を生徒に見える形で提示すると同時に、学び終えたときに問いに立ち戻り、答えを仕上げることで、学びをより深く、確かなものにしていくことを狙います。
お読みいただいた先生方から、自教科でどんな設問があり得るかと質問を頂戴しました。以下のような例を挙げてお答えした次第です。問いの使い方の詳細は「ターゲット設問(用語解説)」をご参照ください。
1 日本史:鎌倉幕府
次の語句を用いて、鎌倉幕府が武士をどのように組織し、全国支配を広げていったかを180字以内で説明せよ。
【御恩と奉公/守護/地頭/本領安堵/承久の乱】
鎌倉幕府とは何かではなく、支配の仕組みを説明できるかを問う設問にしてみました。こうした問いを設けることで、授業中の対話も焦点が置きやすくなります、板書の立案や読解資料の選定にも方向が定めやすいはず。学びを経て、以下のような「答えの進化」が期待できそうです。
-1-1024x405.jpg)
2 世界史:産業革命
産業革命によって、人々の働き方と都市社会はどのように変化したか。次の語句を用いて200字以内で説明せよ。
【蒸気機関/工場制機械工業/囲い込み/都市化/労働問題】
この問いは、「産業革命の特徴を述べよ」より、技術変化・生産様式・社会変化を結び付けて理解するのに有利に働くのではないでしょうか。
下図のように、仮の答えを作らせたところから問いを重ねて、各グループにサブテーマを割り振った学習設計に展開することもできそうです。
-1-1024x768.jpg)
3 英語:異なる立場の整理
Read the two opinions about school uniforms. Which opinion is closer to your own? Explain your answer in about 60 words, referring to one strength and one weakness of the other opinion. (資料文2点は省略)
自分の意見を書かせるだけでなく、相手の立場の強みと弱みを踏まえることを条件にしています。異なる意見を構造として理解した上で自分の立場を述べる力を育てることを狙った設問です。
この設問なら、「課題条件の充足」「異なる立場の理解」「自分の立場と理由づけ」「構成・論理の流れ」を観点とする採点ルーブリックを用意するのが好適でしょう。語数を増やせば、理由の具体化や反対意見への言及など、さらに記述要素/評価観点の拡充も図れます。
I agree more with the opinion supporting school uniforms. They reduce stress about choosing clothes and help create a sense of equality among students. The opposing opinion is strong because it respects personal expression. However, its weakness is that too much focus on appearance may distract students from learning, which should be the main priority at school.(Copilot 作成解答例 )
単に採点するのでなく、生徒が各自作ってきた「答え」をグループで突き合わせて、どの表現が説得力を高めているか、どの要素が不足しているかを検討させ、「より説得力のある答え」にブラッシュアップさせるといった教室内活動(対話)に繋いでいくのも面白いかもしれません。
以下、他の科目は「設問例」だけですが、ご参考になれば幸いです。
4 地理:都市問題
人口が大都市に集中すると、どのような利点と課題が生じるか。具体例を一つ挙げ、交通・住宅・環境のうち二つ以上の観点を用いて説明せよ。
知識を列挙するだけでは答えられず、複数の観点を関係づけて整理する力が必要になります。交通・住宅・環境という「切り口」を指定することで、生徒が「どこから考えればよいか」迷わずに済むはずです。
5 公民:多数決と少数意見
多数決は民主的な決定方法である一方、どのような限界を持つか。少数意見の尊重という観点を含めて、具体例を用いて160字以内で説明せよ。
意思決定の仕組みとしての「多数決」の働きと限界について考えさせる設問です。生徒が個々に考えたことを土台に「対話」を展開させることによって、より多角的な理解が形成できると考えました。
6 国語:筆者の立場を読む
本文の筆者に対して、「便利な技術は多少のリスクがあっても積極的に導入すべきだ」という提案をしたら、筆者は賛成するか、反対するか。本文中の表現を根拠にして120字以内で答えよ。
関連記事の「筆者なら次の主張に賛成か反対か」「以下の状況にどう反応するか」という型そのものです。発言の背後にある立場・価値観・文脈まで読むことが、深い読解につながるはずです。
7 生物:光合成
植物が光を受けるとデンプンが作られることを確かめるには、どのような対照実験を設計すればよいか。条件を変えるもの、そろえるもの、結果の見方を含めて説明せよ。
これは「光合成とは何か」ではなく、その理解を実験設計に使えるかを見る問いです。生徒は「正解を知ること」に意識を向けがちですが、確かめる方法そのものを考えさせることで「学習観の更新」を図ります。
8 数学:相似の利用
校舎の影の長さは18m、同じ時刻に立てた1mの棒の影の長さは1.5mであった。校舎の高さを求めるのに、実測、縮図、相似を使う方法を比べたとき、どの方法が最も合理的か、説明しなさい。
長さを直接測る、縮図をかく、相似を用いるという複数の方法を比べさせる設問です。新しい概念を導入する場面では、定義や手順を先に与えるだけでなく、「既習の方法でもできるが、この概念を使うと何が整理されるのか」を考えさせることで、概念を使う必然性が見えてきます。
なお、ターゲット設問は各教科に固有の内容を学ぶときだけではなく、探究活動で必要になるスキルを育てる場面にも活用できます。「問いを分割する」「情報の信頼性を吟味する」といった経験を、各教科の学びの中にも組み込んでおきたいところです。
9 探究:問いの絞り込み
「地域の商店街を活性化するにはどうすればよいか」という大きな問いを、調査可能な問いに分割せよ。分割した問いのうち一つについて、必要な資料・調査方法・想定される比較対象を示せ。
これは探究活動の入口として、大きすぎる問いを扱える大きさにする力を育てる設問です。cf. 問いの分割/スモールステップ化(用語解説)
10 探究:情報の信頼性
同じテーマについて異なる主張をする二つの記事を読み、どちらの主張を現時点でより信頼できると判断するか。根拠の質、データの出所、反対意見への扱いの三点から説明せよ。(記事2点は省略)
PISAが測定する「読解力」で求められる「根拠は何か、裏付けをとる」「質と信ぴょう性を評価する」といった力を育むことが狙いです。

本稿をもとにChat GPTで作画しました。(クリックで拡大します)
ターゲット設問として好適なのは、「〇〇を使って、何を説明・判断・構成・提案できるか」まで落とし込んだ問いです。
基本的なパターンとして、「指定語を使って200字で説明」「筆者はどう答えるかを50語で表現」などは広く使えるのではないでしょうか。
前者は知識を関係づけて説明させる型、後者は立場・背景・文脈を読んで応答を構成させる型です。どちらも、授業の冒頭に示して学び終えたときに立ち戻る、という使い方との相性の良さが期待できます。
設問の形が変われば、生徒が授業中に向ける意識も変わります。反応を見ながら、いろいろと試し、クラスにあったパターンを探しましょう。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
