探究活動に取り組ませるとき、最も重要なのに、上手くいかないことが多いのが「研究テーマの設定」「問いの立て方」でしょう。導入段階で探究活動の目的をしっかり理解させないと、自分と社会の接点を探すことにも繋がらず、「趣味の延長」を抜け出せない生徒も出てきます。
ようやく絞り出した問い(リサーチ・クエスチョン)も、「最初に答えありき」で、「新たな知を作り出す要素」を持たなかったりします。
探究活動では、仮のテーマについて調べ学習を進めながら、問いを具体化・深化させていくことになりますが、調べる前の段階で、どんな「仮の問い」を立てられるかで、その後の進み方が大きく変わります。
最初の問いを立てる対象の一つは、先輩学年の研究成果。社会課題の最前線や学問の最先端に、最初から適切な問いを立てるのは、中高生には無理難題かも。先輩の発表会を観て、その内容に問いを立てる(疑問点/解決されずに残っている課題を探す)ことから始めるのも好適です。

本稿の内容をChatGPTでイラストにしました。クリックで拡大します。
2021/07/08 公開の記事をアップデートしました。
❏ 素朴な疑問→仮の問い→調べ学習→問いの深化・具体化
別稿(違和感は思考[探究]の入り口)でも触れた通り、日々の生活や学習で湧いた疑問や違和感は、探究に足を踏み入れる起点になります。
各教科の学習の中でも、先生方が発した「教科書の記述をはみ出したところにある問い」(別稿参照)が、そうした探究への入り口を作ることがありますし、観察をタスクに「問題発見力」を育てることが、そうした問いを生徒自身が見つける可能性を高めていくはずです。
これらに加えて、多くの学校が設けている「探究活動の成果発表会」に後輩学年として参加するのも、そうした疑問や違和感を抱く絶好のチャンスです。多くの生徒の発表に「次の宿題」は残っているでしょうし、実験や論証に改善の余地を残しているものも多々あるはず。
ポスターセッションを回って、10件も発表を聴いてみれば、そのうちいくつかは「違和感」を抱くものがあるはず。疑問の正体を考えていく中には、「まずは調べてみよう」と思えるものが出てきて当然です。
それをいったん『仮の問い』として言葉に起こし、その中で特に解き明かしたいものを選んで、「初期の調べ学習」の対象にさせましょう。図書室で本を読んだり、ネットで(信頼できるソースを選んで)調べたりするところから、探究(の準備)が始まります。
探究活動というと、生徒は(ときにご指導にあたる先生方も)、研究の価値がある事象を探し出すところが起点と考えがちですが、もっとプレーンなところ(直観的に浮かんだ違和感、知りたいという欲求)から、素直に入れば良いと思います。構えては発想も硬くなるだけでしょう。
世界中のこれだけ多くの人が、長い年月にわたり、物事の道理を明らかにする/問題に解決策を与えることに取り組んできた以上、だれも手をつけていないテーマなどそうそうあるはずもなく、ましてや社会的な価値があるもの、独創的なものを目指そうなどと欲目をかいたら、高校生の手に余る問題しか残らないはず。事は難しくなるばかりです。
❏ 先輩たちが作った答えは、反証を試みる好適な対象
成果発表会で、ただ聞いて回るのではなく、質問をする意識で参観していれば、疑問や違和感は浮かびやすくなるもの。そうなれば自ずと以下のような「所感」が頭の中に積み上がっていくはずです。
- 先輩のAさんは、こんな実験でデータを取っていたけど、ここを見落としているのではないか。
- Bさんは、こういう結論だけど何だか変。こういう仮説を立てたらもっと上手く説明できるような気がする。
- CさんとDさんの言っていることは何だか矛盾している感じ。どこで矛盾が生じたか調べてみよう。
こんな疑問や問題意識が頭の中に浮かんで来たら、探究テーマを設定したり、リサーチ・クエスチョンを立てたりする、少し手前まで来ているのだと思います。
漠然と浮かんだ疑問を、あれこれ調べながら整理していく中で、「自分が探究活動を通して確かめるべきこと」が明らかになっていくはず。論文検索エンジンなどを活用すれば、様々な研究・学問にも繋がります。
1. なら、見落としていると感じた要素を加えたときと加えなかったときの実験結果を比べれば、「○○に対して△△はどんな影響を及ぼすか」であったり、「〇〇に影響を与える要素は何か」といった問いへの答えを見つけ出せるかもしれません。
2.なら、そこで立てた仮説の内容が「リサーチ・クエスチョン」になりそうですし、それを確かめる/検証するための実験や調査を考えて、実行してみれば、十分に立派な探究活動ができます。結果次第では後輩学年に新たな「問い」を提供することもありそうです。
3.の場合、両者の間の矛盾を整理・具体化した上で、その矛盾を解消し得る新たな仮説を立て、検証していくことになるはずです。
自校の先輩が残した具体的な成果物だけでも、生徒が探究テーマを探してリサーチ・クエスチョンを立てるときの「資料」としては十分なものでしょうが、先生方がご自身/学校間のネットワークを利用して、他校の生徒の探究論文集などを集めておけば、資料はさらに充実します。
図書室にコーナーを設けて、生徒がいつでも閲覧できるようにしておくのも悪くありません。「あれっ?」と思ったときに、書架をひと巡りしてみれば、自分の疑問を解消してくれるヒントにも出会えそうです。
現代社会のあらゆる「知」は、先人が、考え、模索した結果、即ち「現時点での最適解」です。中高生がそこに全く新たな問いや仮説を立てるのは、少々無謀な挑戦です。誰も解を導こうとしたこともないところを闇雲に掘っても、「うさぎ一匹取れない」ことも十分に予想されます。
しかしながら、中高で体験させる探究活動は、社会的な価値のある成果を得ることが直接的な目的ではありません。教科学習で獲得した能力やスキルを、自分が選んだテーマの掘り下げに活用し、知の地平の拓き方を学ぶ(卒業後の学究や職業・社会生活の土台を作る)ことが目的。
そのための材料や起点(問い)は、手の届かないところではなく、射程の範囲に探させるのが合理的です。先輩学年が残してくれた宿題は、まさに好適な材料になり得るのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
