探究活動の評価では、成果物(論文やポスター、口頭発表など)の完成度や新規性に焦点を置きがちですが、探究のプロセスを経てどんな能力や資質、スキルを獲得したかにもモノサシをきちんと当てましょう。
きちんとプロセスを踏んだ探究活動なら、最初に立てた問いは、調べたり、考えたり、フィードバックを受けたりする中で、新たな様相を得て深化/バージョンアップしていくはず。探究の過程が進む中で、問いがどれだけ深化したかは、きちんとプロセスを踏めたかを探る指標です。

本稿をもとにChat GPTで作画しました。(クリックで拡大します)
2025/03/11 公開の記事をアップデートしました。
❏ 問いの深化は、探究が進んだことを示す指標
探究活動を評価するときは「良い答えを導き出せたか」以上に、探究の過程を通して「どれだけ問いを磨けたか」に焦点を当てたいところ。
問いの変遷(最初の疑問が、どう変化して、最終的なリサーチ・クエスチョンになったか)を記録に照らして振り返れば、思考がどう展開し、深まったのか、個々の生徒の探究が経たプロセスを可視化できます。
生徒には、問いをバージョンアップするたびに、「どんな理由で問いを改めたか」を探究ノート(ポートフォリオ)などに記録させましょう。その記録をクラスでシェアすれば、相互啓発の材料にもなります。
何かを調べたり考えたりしていけば、新たな疑問が生まれるもの。こうした新たな疑問を見つけることが「探究の進捗」です。もし「問いの深化」が生じていないようなら、どこかに問題があったと思われます。
調べながら生じた様々な「問い」を並べ、最も価値のある(重要な文脈にある)ものを選ぶことで、好適なリサーチ・クエスチョンが打ち立てられるはずです。(※文脈=「なぜ大事か」を説明してくれる背景)
探究活動の初期フェイズである調べ学習(先行研究検索など)で、様々な問いが生まれていないと、「選ぶ」にもやりようがありません。調査で広がった知の地平に生まれた、新たな疑問を大切にさせましょう。
❏ 問いを立てる=解決すべき課題の設定
問いを立てるのは、解決すべき課題を設定することにほかなりません。問いの立て方を誤れば、間違ったゴールに突き進むことになります。探究活動に限らず、社会全体でも同じことが言えるはずです。
適切な問いを設定できるかどうかが、探究の進め方を左右します。問いが的を射てたものなら、探究のプロセスも有意義なものになりますが、逆に課題設定を誤ると、方向はずれていくばかりでしょう。
探究の初期フェイズから「正しい問い」が立てられたら、誰も苦労しません。だからこそ探究を進めながら、問いを更新することが重要です。
少し視野を広くとって考えてみると、社会問題の多くも「課題設定の誤り」から生じているはずです。短絡的な解決策を求めるあまり、根本的な課題を見逃してしまうことが少なくありません。
問いを立てるというのは、(別の表現で言い換えるなら)解き明かすべきこと/解決すべき課題(目標)を設定することです。別稿でも書いた通り、適切な課題設定の入り口は「正しい問い」にあり、そこでの誤りは、目指すゴールや取り組みの方向を誤らせます。
設定した課題の適否に関わらず、その達成(及びその過程)で脳はドーパミンの支配を受けるため、破滅に向かう「欲求の暴走」にも繋がりかねません。(学びの場での「問いの活かし方」より)
探究活動を通じて養う「正しい問いを立てる力」は、持続可能な未来への責任、社会参画力(いずれも21世紀型能力における「実践力」を構成する要素)の重要な土台となるものです。
些細な疑問や「違和感」を見逃さず、そこから調べ、考え、話し合いを進める中で、解決すべき課題(=問い)を見つけ出せる生徒を育てることが教育の役割。その核に位置づけられるのが探究活動です。
❏ 探究の過程を踏む中での問いのバージョンアップ
別稿「探究のフェイズごとにきちんと評価&フィードバック」でも書いたことですが、生徒は探究の過程(プロセス)を幾度も繰り返すことはできません。卒業までに1巡するだけのプログラム設計だからです。
この制限は覆しがたいもの。あるフェイズを終えて次に進む前に評価をきちんと行い、必要な「やり直し」をさせないと、探究活動を通して獲得を図ったもの(能力・資質等)が欠けたままになります。
各フェイズで目指すべきことを、「問いの更新」という観点で整理し、どこに注意と力を向けるべきか把握し直してみる必要がありそうです。
1. 探究の起点(きっかけとなる初期の疑問)
探究の出発点は、日々の学習や体験の中で見つけた疑問でしょう。先輩学年が探究活動の中で残した未解決の問題を引き継ぐこともあります。
多くの場合、この段階での「疑問」は、具体的な形を伴わない「なぜだろう」「どうなっているのか」などでしょうが、この後のフェイズを経て具体的な問い、解決すべき課題に仕立てていく活動こそが探究です。
まずは、どんな体験、学習の中で「最初の疑問」を抱いたか、それはどんな疑問か(=知りたいことは何か)を言語化・可視化させましょう。
2. 問いの設定(調べ尽くしても残った不明から)
その疑問について方々のソースに当たって調べてみて、考えを整理してもなお残った「不明」こそが、探究を通じて答えを見つけ出すべき問いであり、これがリサーチ・クエスチョン(RQ)のもとになります。
この段階での問いを評価する観点は、可能な範囲での調査(図書館に足を運んで本を読むくらいのところまでは求めたい)を行い、わかっている事とまだわかっていないことの線引きができているかでしょう。ここに不足を残したままでは、次のフェイズには進めません。
3. 仮説の構築と検証方法の計画
探究活動における「仮説の検証」は、単に「仮説が正しいかどうかを確かめる」作業ではありません。このフェイズでは、仮説を通して問いを再評価し、より適切な問いへと更新していくことが重要です。
しかし、高校生の探究活動を見ていると、以下のような罠に陥りやすい傾向があります。ご指導に当たる先生方からの注意喚起が必要です。
仮説を証明することが目的化すると、自分の仮説を正しいと示すデータだけを集めてしまいがち。「仮説が間違っているかもしれない」という視点(問い)を携えているか、見守り、問い掛けましょう。
前提条件の設定が曖昧なまま進めてしまうことも多いはず。仮説を検証するのにどんな条件(環境・変数)を揃えるべきかも、ここで生徒に考えさせるべきこと。実験方法の妥当性に対する「問い」です。
検証方法が問いに対して適切でないケースも見かけます。「検証方法が本当に問いに対応しているか」を生徒は自問しているでしょうか。問いが広すぎる場合は、より具体的な問いに再設定させましょう。「問いの分割」は、探究活動を進める上でも重要な学びのスキルです。
4. データを分析する過程でも
データを集めて分析を進める過程で、仮説で説明しきれない事象が現れることがあります。例えば、統計処理をしたら回帰残差が大きく観察されるケースが散見されるなどの「想定外」もしばしば。こうした当初の予測/仮説を外れたときこそ、問いを見直す必要があります。
ここで初めの問いや仮説に固執してしまうと、「結論ありきの探究もどき(=本質を欠いたもの)」になりがちです。そうなっていないか、生徒に自問させるとともに、先生方もしっかりと注視しましょう。後のフェイズに進んでから問題を指摘しても、やり直す時間はありません。
5. ひと通りの探究を終えたら問いを引き継ぐ
探究を終えると、一定の成果(検証できた仮説など)に加えて、新たな課題(問い)が見えてくるもの。それをきちんと次に繋ぐことで、学びは発展します。個人のうちでは「大学に進んで解明すべきこと」に昇華し、進路希望という形になるケースも見受けられます。
解明できなかった問いとして、成果発表会などで伝えれば、その先を拓いてくれる後輩がいるかも。こうして引き継がれた「問い」は、大げさに言えば、学びの蓄積として次世代に活かされるものだと思います。
苦労の多かった「活動」を、やれやれ終わったで済ませるのと、せっかくの学びを活かすために、問いを整理し、(自分も含めた)誰かに引き継ぐのでは大違いだと思います。発表後も「問いの深化」は続きます。
探究の過程をひとつのストーリーとして俯瞰するとき、問いがどのようなプロセスを経て深化、具体化していったか(きっかけの疑問がどう変化してリサーチクエスチョンになったか)は、貴重な評価の視点です。
評価は指導改善に欠かせません。とりわけ、指導方法に未確立の部分が大きい探究活動では、評価結果を見ながら指導の見直しが必要です。
探究の本質は、「より良い答えを見つけること」よりも、むしろ「問いを更新していくこと」にある、と言っても過言ではないと思います。
きちんとした振り返りができるよう、ポートフォリオ(名前は「探究ノート」でも構いませんが)には問いの変遷と、その場での気づきなどを言語化させておきましょう。次年度の生徒のガイダンスにも、そこから材料を取って編集したものを用いれば、その効果は大きいかと。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
