目標を持った状態で巣立たせる

全国各地の学校が「特色ある学校づくり」にこれだけ意欲的に取り組む中、実現を目指す教育の価値やその成果を示す指標には、もっと様々なものがあって良いのではないかと感じます。
例えば、卒業に臨んで「私はどうしてこの進路を選んだ、この道でこんなことをしてみたい」との思いをしっかり抱き、言葉にできる生徒の割合などは、その一つになり得るはずです。
進学を志す生徒には、総合型選抜の拡充に伴い、志望理由書や学修計画書をしっかり起こせるかどうかがこれまで以上に重要になりますが、就職する生徒や家業を継ぐ生徒にしても、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」は、学校を巣立つときにしっかりと自分の答え(理由と計画)を持たせたい問いです。
生徒一人ひとりが、志望理由や自分の将来にどう向き合うかを明確にできることは、学校が力を入れた3年間/6年間の教育の成果、生徒たちの頑張りの度合いを如実に示す指標になり得るのではないでしょうか。

❏ あらゆる瞬間に興味や目的を持っていることの強み

どんな進路を選ぼうとも、そこに明確な目的を見出し、自分が社会にどう関わっていくか明確にイメージできている生徒は、次のステージでも燃え尽きたり目標を失ったりせずに頑張り続けてくれるはずです。

高校を出たときに抱いていた夢に拘り、わき目もふらず、軌道修正もしないでまっすぐに進むべきと言っているのではありません。
何かに一生懸命になっていれば、達成した中に新たな興味が生まれ出るのは当然のことでしょう。興味の対象を新たに見つけたら、舵を切って新たな目標に向かうのは大いに結構、健全な判断だと思います。
別稿でも申し上げたことですが、「キャリアは選ぶものではなく、積み重ねるもの」であり、志望校を選んだ時などの選択を「正解」にできるかどうかは、その後の行動に掛かっています。

日々の頑張りの中に見出した新たな興味にじっくり向き合い、具体的な目標に昇華させていくことの繰り返しは、しなやかで変化に強い生き方と言えるのではないでしょうか。

❏ 逆算式の進路指導ととりあえずの選択からの離脱

その一方で、どんなに「立派」な進路を得たとしても、志望理由も曖昧なまま、とりあえずで選択した目先の目標しか持たないのでは、それを達成したあとに次の目標を見つけるのはなかなか大変です。
新たな目標が見つかるまで「自分探し」と称して何もせずじっとしていては、偶然との出会いもなく、新たな興味も生まれませんし、何よりも再始動に多大なエネルギーが必要になります。
進学後の不適応やその結果としての中途退学、せっかく就職したのに短期間での離職といった、よく耳目にする問題は複雑ですが、根っこのひとつはこう言ったところにもあるのではないでしょうか。
職業調べから入って、取得する資格や働く業界などをイメージさせることでの進路希望作り(ゴールを決めて最短距離?)では、肝心の理由が後付けになることが少なくありません。
そもそも選んだ仕事が10年後も存続しているとは限りません。意図せずとも「とりあえずの選択」を迫った/許容したことが、生徒を袋小路に追い込むリスクも、頭のどこかに意識しておくべきだと思います。

❏ 志望理由を見つけるきっかけは日々の学習指導の中にも

目指すべき目標として「進路希望」を作らせて、頑張りを引き出すという戦略は、うっかりすると「とりあえずの(よく調べず、考え尽くすことなく行った)選択」を助長するだけの結果になります。
カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところでも書いた通り、頑張るために目標を作るという戦略には、「目標が決まらない限り、頑張りは引き出せない」という落とし穴が待っています
日々の授業で「できるようになった」との達成感を積み上げさせることで様々な科目(学びの対象)への自己効力感を維持しつつ、自分事として考えられる課題を与える方が、副作用もなく効能も確かです。

課題解決型学習(PBL:project-based learning)の要素を組み込めば、各教科の学びの中で広く興味や関心を刺激することができ、生徒は自ずと「興味→努力→達成→新たな興味」というサイクルの入り口に立つことになるのではないでしょうか。

❏ 探究活動と一体化した進路指導で、進路希望を作る

課題に挑み、それに解を導けたという達成感の先に、生徒がそれぞれ学びを広げ、深めていくきっかけを与えるべく、探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問を用意してあげることも重要です。
近年の入試では、「正解は何か」ではなく、「答えを得るにはどうすれば良いか」を問う、探究で身につけた思考様式の有無を試す問題を目にすることも増えており、その対策としても有効なはずです。
各教科でのこうした学びの中で、自分事として向き合える課題(探究のテーマ)を見つければ、先行研究などを調べる中などで、大学の様々な学部や社会が解決に取り組んでいる社会課題にも触れるはずです。
進路指導においても、社会が取り組む課題を軸にした学部・学科研究を課しているか、学部・学科調べに、学問探究という入り口もきちんと用意されているかが問われるところだと思います。
こうした一連の学び(=学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル)の中でこそ、生徒は「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という問いの答えを見つける/作り出すのだと思います。
■関連記事:

  1. 卒業を前に改めて考える、大学に進んで学ぶ理由
  2. 学びの方策、進路意識の形成過程における効果測定


高校のランキングというと、入るときの難易度(入試偏差値)と、出るときの実績(大学合格者数)などで作られたものが、少なくともこれまでは大半でしたが、これからは、「明確な目標と理由をもって巣立つ生徒」をどれだけ育てられたかにも焦点を当てていくべきだと考えます。
21世紀型能力の「実践力」は、「社会参画力」や「持続可能な未来への責任」などで構成されますが、それを育成するプログラムを整備するとともに、そこで得られた成果を示す方法を確立し、「学校の教育力を伝える新たなモノサシ」としていきましょう。
次稿「目標を見つける入り口~日々の学びでの興味・関心」に続く。

学校の教育力を伝える新たなモノサシ
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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目標を見つける入り口~日々の学びでの興味・関心Excerpt: 目標を持った状態で巣立たせるには、日々の学びの中に興味や関心を見つけてもらうことがスタートです。興味は自力で考え工夫して達成したこと(=できるようになったこと)の中に生まれ、関心は「自分事」として認識できる課題に触れて芽生えてきます。
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