学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル

学習指導と進路指導という二本柱をしっかり立てれば成立したのがこれまでの指導計画でしたが、次期学習指導で加わる探究活動を組み合わせるとなると、単純にもう一本の柱を立てれば済む話ではありません。
学習、進路、探究という三領域が「並列」していては、互いの関連が希薄になりますし、ただでさえ「教育の強じん化」で、思考力・判断力・表現力を高めるための活動を組み込むとなると、3年間/6年間で指導に当てられる時間の枠に収まらないのは火を見るより明らかです。

❏ 直列繋ぎを反復する”スパイラル型”が目指すべき形

下図は、教科学習指導と探究活動の重ね合わせで掲載したものですが、教科、探究、進路を組み合わせた「循環型加速器」の中で加速を繰り返したのちに十分な勢いを得て巣立つ生徒をイメージしたものです。


教科学習指導では、各教科に固有の知識や技能を獲得することが第一義の目的でしょうが、その先にある探究活動に必要な学びのスキルを養うための手段という位置づけも併せ持ちます。
その上で、探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問 を与えることも、指導に当たる先生に求められることではないでしょうか。
探究活動では、社会が取り組む課題に触れたり、それに最前線で取り組んでいる学問の探究を入り口にした学部・学科研究に展開すれば、進路希望の形成に繋げます。
進路指導は、四半世紀後に残っているかどうかも分からない職業を調べることから入る従来型の設計を離れ、探究型学習を使った進路指導への転換を図るべきかと思います。

❏ カリキュラム・マネジメントへの基本的な考え方

新学習指導への移行に際し、カリキュラム・マネジメントの必要性が謳われています。
社会の変化にともない学校教育に求められるものが増える一方、そのすべてをこなすだけの時間枠がない以上、「やりくり」をしなければならないのは当然ですが、それは「学ばせる内容の取捨選択」だけではありません。
科目間・教科間、あるいは探究活動と教科学習指導・進路指導の間での学びの重なりを上手に利用した、教育活動全体のスリム化も図る必要があり、如上のイラストで示した構図はその方策の一つを表しています。
そもそも、マネジメントという言葉は、目標を達成する/成果を挙げるために行うものであり、教育課程にしても、一度作りあげたらそれで終わりということにはなりません。
教育目標に合わせて、意図的・戦略的に教育課程を組んだら、実践を経て評価(成果検証・効果測定)を行い、さらに改善を重ねるというサイクルの中に置かなければなりません。
当然ながら、そこには効果測定とスクラップ&ビルドの繰り返しを想定し、その仕組みを最初から整えておく必要があります。

❏ 各教科の指導計画を起こすときに求められる発想

カリキュラム・マネジメントというと学校全体で推し進めるものという印象があるかもしれませんが、学年教科や個々の先生が指導計画を起こすときにも確固たる設計思想を持って臨むべきものだと思います。
各科目の学習指導では、知識の獲得は個人の活動を通じて行わせたり、2020年対応型の”予・復習と授業のサイクル”への転換を図るなどを通じて、限られた指導時間の中で最大効果を上げる工夫が求められます。
また、知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせてという発想を持たないと、生徒の手持ちのリソース(主に時間)はあっという間に食い尽くされてしまうでしょうし、仕上げ切れない場面の繰り返しで、学びに向かう生徒の意欲も失わせかねません。
学校がどれだけの教育機会を提供できるかも大事でしょうが、学びの主体はあくまでも生徒。その主体たる生徒がこなせる量、必要とする事柄をしっかりと見極めることが、教育活動の設計に際しての土台です。

❏ 学びの機会に生徒がじっくり向き合えるように

高大接続改革や次期学習指導要領を見据えて、各地の学校で教育活動の見直しが進んでいますが、新たなプログラムの新設など、「足し算」を主なスキームにしているケースが多いように感じています。
言うまでもなく、学校の教育リソースには限りがあり、増築を繰り返してはリソースの枯渇は必至です。
生徒にとっても、取り組むべきこと、経験することが増え続けていくことは、一つひとつの学びの場面にしっかり取り組み、成果を確かなものにするのを困難にします。
以前の記事にも書きましたが、行事にじっくり向き合える、忙しすぎない学校生活が送れることも大事だと思います。
教育活動の総ボリュームを膨らませるのではなく、見直しと整理をきちんと行い、全体をコンパクトにまとめることにこそ注力すべきです。
効果測定とスクラップ&ビルドの徹底を図ると同時に、様々な教育活動・指導場面を改めて相互に関連付け、重ね合わせを上手に利用するという発想をしっかり持ち直すことが求められている局面です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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