新課程に備え、改めて考えるカリキュラム・マネジメント

教科・科目を教育課程表に最適配置するだけでは、残念ながらカリキュラムを作ったことになりません。カリキュラムとは、各教科の内容を学習しつつ、様々な能力・資質を獲得させるという目的を達成するために作るものであり、その目標達成のために設計、実行、検証、修正を重ねる循環的・継続的な活動をカリキュラム・マネジメントと呼びます。
新課程の土台となったのは「21世紀型能力」という新しい学力観です。これを改めて理解するところから、新カリキュラム作りと、実際の運用が始まってからの教育活動の双方を考えていく必要があると考えます。
新型コロナの影響で日々の教育活動も長く止まっていましたが、来年度に中学で始まり、再来年からは高校でも年次進行で始まる新課程への準備もどこかで中断しているかもしれません。準備の再開に、本シリーズが多少なりとも参考になれば光栄に存じます。

#1 カリキュラムは{学習内容×能力資質}で設計する

カリキュラム作りは、教育課程表に各科目を配列しただけでは完成しません。学習内容のひとつひとつを学ぶ中で獲得を図るべき能力・資質とのマトリクスの中で考え、そこで必要となる学習活動は何かを考える必要があります。新課程が土台とした21世紀型能力を今一度しっかりと理解した上で、カリキュラムの設計・仕上げに向かうべきです。

新しいカリキュラムで目指すもの
学習内容×獲得させるべき能力・資質のマトリクス
カリキュラムが機能するかは個々の授業の設計しだい
科目内容を学ぶことを手段に能力・資質の獲得を図る
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授業を通して21世紀型能力は育めているか
教科固有の知識・技能を学ぶ中で

#2 カリキュラム・マネジメントの実行&検証フェイズ

マネジメントとは「目標を達成する/成果を上げる」ことを目的とした計画、実行、検証、対処の4フェイズで構成される活動です。計画フェイズに相当するカリキュラムがいかに優れたものであっても、それを反映した実行がなされなければ絵に描いた餅です。評価の方法を確立した成果検証もまた、カリキュラムの設計と運用の改善には不可欠です。

カリキュラムに込めた意図を日々の実践に反映
学習内容と能力・資質の双方に的確な検証手段を
新しい学力観に基づく評価方法/考査問題も新しいスタイルに
能力・資質を発揮する場=トレーニングと検証の機会
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新しい学力観に基づく評価方法(記事まとめ)
高大接続改革に備えて考査問題も新しいスタイルに

#3 カリキュラムを活かす、目的意識を持った科目履修

練り上げられたカリキュラムも、生徒一人ひとりが必要とする科目をきちんと選択してくれないとその性能を発揮できません。選択の合理性は目的との整合性で決まりますので、「なぜこの科目を履修するのか」という問いに生徒が明確な答えを持ってこそ、「正しい科目選択」が実現してカリキュラムが生きます。要になるのは目的意識を作る指導です。

目的意識をもって科目選択に臨ませる
教科学習指導、探究活動、進路指導の一体設計
教科×探究×進路を一体化させるちょっとした工夫
必修科目にも「学ぶことへの自分の理由」は不可欠
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学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル
カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ

#4 「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計

カリキュラムの設計にあたり考慮しておくべきことに「学びをどこまで拡張するか」があります。単元理解のコアを作った後に、どこまで学習を掘り下げるか、どこまで広げて学ばせるかを、何段階かのゴールを多層的に設ける必要があります。教科書の記述に満たされないものを感じる生徒の興味と意欲に応える任意課題や講習会も必要だと思います。

学びの拡張を図るのはコアとなる理解を固めてから
到達目標は「必達」と「上位・挑戦」の多層構えで
生徒のニーズに合わせた知識拡張の範囲設定
潜在的な興味を刺激するための任意課題
講習会なども含めた全体設計で学ぶ意欲に応える
■関連記事:
ひとつの課題から複線的なハードルを作る
知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて



カリキュラムの全面刷新という大仕事に臨むに当たり、もう一つ押さえておかなければならないのは、「校内の教育リソースが有限である」という当たり前のことです。やるべきことを足し算で重ねて行くだけでは形になりません。以下の記事も併せてご高覧いただければ幸甚です。

  1. 効果測定とスクラップ&ビルド(教育資源の最適配分)
  2. 学びの重なりを上手に利用したコンパクトな学校経営

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一