論理的思考と批判的思考

別稿「指導と評価の一体化~実現のための発想転換」で書いた通り、生徒の学力を伸ばすにも、評価(学習状況の改善[≒学力の向上]とそれを支える指導の改善を図るためのもの)を行うにも、伸ばしたい学力を構成要素レベルで明確にしておく必要があります。
漠然とした捉え方をしていては、それらを発揮させる場としての課題や活動をきちんと選び出せませんし、評価の基準もブレてしまいます。
学力の重要な部分をなす「思考力」にも、様々なもの(PISA2022では創造的思考力がフォーカスされました)を含みますが、問題の発見と解決の過程において土台として働いている「論理的/批判的に考える力」もその一つ。曖昧な捉え方を離れ、明確に捉え直していきましょう。

❏ 問題解決工程の背後で働くのが論理的・批判的思考力

タイトルにある「論理的思考と批判的思考」の力は、21世紀型能力において「問題発見・解決力・創造力」「メタ認知・適応的学習力」と共に、その中核たる「思考力」を構成するものです。


ざっくりと定義するなら、「論理的に(=筋道を立てて)考える力」が論理的思考力、「当たり前としている前提も疑い、他の捉え方と比較して優劣を判定する力」が批判的思考力といったところでしょうか。
ちなみに、「批判」という言葉の成り立ちは、「批(突き合わせて良否を決める)+判(見分けて白黒をつける)」です。
思考力は、以下の各フェイズで構成される「問いと答えの間を繋ぐ過程/学習活動」の中で働くものですが、その背後/バックグランドでは、論理的思考と批判的思考が常に行われているはずです。

  • 物事の中から問題を見いだす
  • その問題を定義し解決の方向性を決定する
  • 解決方法を探して計画を立てる
  • 結果を予測しながら実行する
  • 振り返って次の問題発見・解決につなげていく

例えば、第1フェイズの「問題の発見」でも、目にしたものを考えなしに「当たり前」と受け止めていては、そこに何の問題も見つけられないはずです。(cf. 観察をタスクに「問題発見力」を育てる
所与の条件から筋道を立てて考え出した帰結と、眼前の事象を突き合わせてみて、両者の相違に気づくところがすべての始まりだと思います。
第3フェイズの「解決方法を探す」にも、様々な選択肢を比較して優劣を判定する(=批判的思考を働かせる)必要がありますし、その次のフェイズで「結果を予測する」のも、論理的思考が働いてこそでしょう。
論理的思考や批判的思考の力を養い/評価するのは、問いと答えの間を繋ぐ過程(学習活動)に取り組ませる中でのこと、ということです。
これらを育成するにも、評価を行うにも、先ずは、PBL型の授業デザインをしっかり整えるところがスタートになります。
思考の結果や過程に矛盾や飛躍、条件分けの不備、あるいは見落としや考えの偏りなどが見て取れたら、いずれかのフェイズにおいて論理的/批判的思考が十分に働いていなかったということ。
評価の結果をフィードバックするなど、その不備に気づかせていくことで、獲得に向けた取り組みを引き出していくのは先生方のお仕事です。

❏ 論理的思考を実践するときのフレーム

論理的にものごとを考えるには、事物を体系的に整理して矛盾や飛躍のない筋道を立てる必要がありますが、そのための方法/思考のフレームを知っておくのは、力の向上に欠かせないはずです。
演繹法や帰納法といった「論理的推論の方法」も言葉として知っているだけでは、あまり役に立ちそうもありませんが、各教科の学習の中などでも実際にその方法を使っていることは少なくないはずです。
そうした場面で、「どんな思考を行っているか」をメタ的に意識させれば、方法への習熟を加速させることができるかもしれません。
また、物事を理解するのに、構成要素を漏れやダブりがないように洗い出し、体系化していく方法を学ぶにも、日々の学びの中で「情報整理のプロセスを学ばせる」ことを目的とする活動の積み上げは重要です。
何のフレームも与えないまま、「論理的に考えよう!」との掛け声だけでは、生徒も「どうしたら良いのか」戸惑うばかりだと思います。

❏ 批判的思考を実践するときのガイドライン

言うまでもありませんが、批判的に考えるというのは、「何でもかんでもまずは否定してみる」のとは違います。前述の辞書的な定義が、割と本質をついているのではないでしょうか。
ひとつの考え(思い込み)に縛られたり、無批判に受け止めたりせず、方向の異なる主張やその根拠も十分に知った上で(=多角的な視点を持って)、物事の是非や合理性を判断しようとする姿勢と、その方法を学ばせることが、批判的思考を獲得させるということだと思います。
Wikipedia「批判的思考」によれば、社会心理学者のCarol Anne Tavrisは、批判的思考のガイドラインを以下のようにまとめたそうです。先生方が評価を行い、生徒にフィードバックするときの「観点」を定める上での参考になるかもしれません。

  1. 問いを立てる。
  2. 問題を定義する。
  3. 根拠を検討する。
  4. バイアスや前提を分析する。
  5. 感情的な推論(私がそう感じるからそれは真実)をしない。
  6. 過度の単純化をしない。
  7. 他の解釈を考慮する。
  8. 不確実さに耐える。

最後の「8.不確実さに耐える」というのは少しピンとこないところがあるかもしれませんが、「答えが出ない事態に耐える力」のこと。性急に事実や答えを求めて浅い理解に止まることに警鐘を鳴らしています。
また、Lester A. Letftonは、日常的な判断などにおいて批判的に思考するために大事なこととして,次のものを挙げているそうです。

  1. 利用可能なもの(最初に思いついた答え)に固執するな。
  2. あまりに早く一般化するな。
  3. 楽な決定(解決)に固執するな。
  4. 最初の答えに一致するような決定に固執するな。
  5. 一部の利用可能なアイデアや前提だけを検討するな。
  6. 感情的になるな。
  7. 元々持っている考えに固執せず、オープンになれ。

批判的思考力に限りませんが、何らかの能力を獲得/向上させようとするなら、生徒がそれらを発揮する場を作る必要があります。生徒がこのようなガイドラインに従う必要がある場面を整えていきましょう。
日々の学習指導(+探究活動)の中で、生徒がこのようなガイドラインに従う必要がある場面をしっかり整えていくのも先生方のお仕事です。

探究活動の成果発表会などで、講評や質疑に揉まれる機会も、こうした力を高める好機だと思います。(cf. プレゼンテーション力より質問力

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一