身の回りの問題を多角的に捉えさせる

身の回りに起きていることの中にも様々な問題があり、それらの多くは日々の授業や総合的な探究の時間の中に、学んだり、解決策を考えたりする機会を持ち得ると思います。
各単元の学習の中で扱うことができるものもあれば、単元を跨いだ融合問題を設定することで学習機会が作れるものもありますし、他の教科と連携した合教科型学習、探究活動で扱うのが好適なものもあります。
そうした問題について学んだり考えたりする中で、生徒は「問題発見・解決力」や「持続可能な社会への責任」「社会参画力」を獲得していくのだと思います。(cf. 全教科でコミットすべき能力・資質の涵養
単元固有の内容を理解させるところで学びを止めてしまっては、社会を生き抜くために必要な力の獲得は容易に進まないように思います。

❏ 教科書の記述に別の視点を与えて学ばせてみる

ある単元を学ぶ中で扱える題材(=学び、解決方法を考えるべき問題)なら、資料を与えて読ませたり、テーマを指定して個人やグループで調べ学習に取り組ませるのもそれほど難しいことではないはずです。
先生が説明して、問題の多面性やその解決に向けた様々なアプローチを理解させるだけでは、問題を多面的に捉える方法と姿勢を獲得する機会を生徒は得ていないことになります。
資料を読ませるにしても、別の視点から書かれた他の資料も用意して双方を読み比べさせてみたり、読み取ったことをもとに話し合いをさせて自分とは異なる理解があることをわからせたりしたいところです。
教科書に載っているのとは別の観点で集めたデータを与えたり、同じデータでも取りまとめ方を変えてみたりすることで、物事には違った見方があることに気づかせることもできるのではないでしょうか。

限られた授業時間の中にこうしたプラスアルファの学習活動を組み込むのが難しいのであれば、「潜在的な興味を刺激するための課題」を用意して、余裕のある(=必達課題は既にクリアしている)生徒に任意課題として取り組ませてみるのも一手だと思います。

❏ 複数の問いを与えることで、様々な切り口を持たせる

ひとつの資料を読ませるときにも、様々な視点で起こした問いを与えると、その答えを見つけようと、多角的な考察が始まるはずです。
生徒それぞれが考えたことを持ち寄って話し合う場を持てば、自分とは違う着眼点や考え方があることに気づけます。そうした気づきの体験を積み重ねることが、多角的にものを考える習慣の獲得に繋がります。
問いに答えようとする中で、考察や判断に必要な情報や知識が不足していることに気づけば、自力で情報を集め/調べる動機も生まれます。
問題を多角的に捉えることの必要性を学んだとしても、その先に何をすれば良いかを知り、その方法に習熟していなければ、具体的なところで何の行動も起きず、社会を生き抜く/未来を拓くこともできません。
教科書や副教材に載っているもの/先生が用意したものとは別の資料を生徒自身が探す機会を作り、そうした力を獲得する機会にしましょう。
また、問いは、先生方が用意するだけでなく、生徒にも立てさせてみましょう。「資料を熟読した上で、その中に問いを立てる」というタスクに取り組ませることで、文字を介した「書いた人との対話」が生まれ、書かれていることの理解も進めば、思考の様式も学べます。
個人/グループがそれぞれ立てた問いを持ち寄れば、それこそ多角的に資料を熟読するに足る学びのきっかけが生まれているはずです。

❏ 調べ学習では、サブテーマを設けて割り当てる

調べ学習に取り組ませるときには、幾つかのサブテーマを設けて、個人/グループに割り当ててみるのは如何でしょうか。
フリーハンドで「さあ、調べて/話し合ってみよう」と振ってみたところで、もとから持ち合わせていた関心や問題意識の外に「思考の焦点」を置くことができないのは、生徒に限ったことではありません。
生徒は、割り当てられたサブテーマに沿ってあちこちから情報を集め、プレゼンに備えてそれらを整理しようとするはずです。サブテーマの数だけ、学びには多面性が生まれます。
各生徒/グループがそれぞれに行った調べ学習の成果を、教室の中でシェアすれば、まさに多面的な学びになるはずです。
その上で、それぞれが調べてわかったことが互いにどう関係するのか、掘り下げて考える/話し合ってみる場を持つところまで進めれば、物事をより複合的/総合的に考える好機を作れるのではないでしょうか。

❏ 体験学習は、多角的な学びの絶好の機会

校外に体験学習に出かけるときなども、工夫次第で学びをより多面的・複合的なものにすることができるように思います。
農業体験にしても、「田植えってこうやるんだ、面白いね」という感想を持ってもらうことだけが目的ではないはずです。それだけでは投じたコストに見合った学びにはならず、費用対効果が悪すぎます。

訪問する場所について下調べをきちんと行えば、そこを訪れる前に一定の「認知の網」が張られますので、実際の体験を通した学びもより深いものになります。
その「下調べ」にも、様々なサブテーマを設けることで、学びはより多面的なものにできます。歴史や地理、産業や経済、気候や植生といった各教科の学びに結び付けられる「視点」もあるでしょうし、当該地域が抱えている解決すべき現実の問題などもあるはずです。
ただし、事前学習に力を入れすぎると、それが先入観となって現地での気づきを邪魔し、予断をなぞるだけの体験になりかねません。ほどほどのところで止めて置き、事前に学んだことと現地でリアルに感じたことを結び付けた「事後学習」を重視する方が好適です。
事後学習のテーマを立てさせ、同じようなところに関心を持つ生徒をグルーピングして、調べ学習/探究活動に取り組ませた後に、その成果をシェアする機会を持てば、学年全体の学びは多面性を十分に備えた、深いものになるのではないでしょうか。
その先には、持続可能な社会の実現に向けて自分たちがやるべきことが見えてくることもあろうかと思います。体験学習の場を探究活動と一体で設計すれば、教育活動を効率的・効果的なものにできそうです。



未来の担い手である生徒には、次々と社会に生じるであろう様々な問題に有効な解決策を考え出せるようになってもらわないと困ります。
大抵の問題は、様々な要因が複雑に絡み合って生まれますので、多角的な視野を持って問題に向き合う姿勢と方法を身につけていないと解決のアプローチを誤り、より根深い別の問題を作ってしまいかねません。
そうした姿勢と方法の基礎を高校卒業までに身につけておくことは、その後の学びや経験の中でより高度で具体的なスキルを獲得していく土台として不可欠だと思います。まったく意識を向けていないところでは、学びは膨らみも深まりもしないからです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一