本編では、初期段階にある学習者には「やってみせ、言って聞かせる」ことが必要ながら、取り組み方を学びつつある学習者に対して細かく指示を出し続ければ、伸びる芽を抑えかねない、という整理をしました。
指導は「やってみせる」と「やり方から考えさせる」の二択ではなく、学習者のステージに応じて行き来しながら、徐々に手を放す方向に進めていくことが重要である、というのが結論でした。
続編となる本稿では、初期学習の円滑化のための「ガイド」(型を提示すること)の有用性と、型の中にとどまり続けることで生じる限界を再考し、「守破離」を指導計画にどう実装するかを考えたいと思います。
❏ ある程度のガイド/型の提示は、円滑な初期学習に寄与
冒頭で使った「ガイド」という言葉は、学習者が最初の一歩を踏み出しやすくするために与える「型」(標準的な手順など)のことです。山本五十六流の「やってみせ…」も、その型を示す営みにほかなりません。
文章指導であれば、結論と理由を短くまとめる型で、書き方の基本を学ばせることもありますし、数学では、典型問題に対応する解法パターンを示しますが、いずれも、初期学習を支える上では重要でしょう。
教科学習以外(探究活動など)でも、問いの立て方、情報の集め方、まとめ方などを示した「手引き」は一定の指導効果を発揮しているはず。
こうしたガイドなしには、同様の取り組みの経験がない生徒が感じるのは戸惑いばかり。やってみても上手くいく可能性は低く、失敗の連続でこれから取り組もうとしていることへの自己効力感を下げかねません。
成功体験や、ある程度の手応えがあってはじめて、工夫とリトライへの意欲も維持できます。挑む前に尻込みさせては得るものはありません。
❏ 型に沿うだけでは、応用が利きにくい
初期学習をガイドする「型」は、典型的な課題への対応には効果的ですが、それを外れたときの対処まではカバーしません。そこから先は、問いや課題を前に、生徒が自分で「考える」ことが求められる領域です。
文章作成で、「第一文で結論を書き、『なぜなら』で繋ぐ第二文で理由を述べる」ことを最初に教え、慣れてきたところで他の接続詞(「しかし」「つまり」など)を加えてバリエーションを増やすのも、別のレール(型)を与えているだけ。「考えさせた」ことにはなりません。
数学でも、覚えている「解法のパターン」を演習を通じて増やしていけば、解ける問題は広がりますが、カバーできるのは「解法が確立している問題」に限られます。全く新しい発想で手持ちの知識を応用したり、概念を拡張する必要がある問題への対処は難しいはずです。
いずれも、所与の問題を、既に知っているパターン(型)に照らし合わせて、どれを使うか「選択」させているのが本質。既知のパターンとのマッチングがベースである以上、正解が決まらない問題、解法が未確立の問題に対応ができないのは、当然の帰結です。
❏ 守から「破」への移行は、課題に挑んだ後の振り返りで
先生が提示した「型」に従う、いわゆる「守」のフェイズから「破」に移行させるには、生徒自身がアプローチから考える機会が不可欠です。
いくら応用問題を与えても、解き方を教えるだけでは、「複雑になった新しい型」を提示していることにしかならず、生徒はそれを覚えて適用するだけの段階にとどまってしまいます。
これまでに学んだこと(知識や理解)を活用する(=生きて働かせる)ことで解決できる課題/答えを導ける問いを与えた上で、「この課題/問いにどうアプローチするか」を考えさせていきましょう。
一人ひとりで考えるだけでは アプローチを考え出せない生徒もいるでしょうが、個々に考え尽くしたことを持ち寄らせ、知識の補完、発想の交換ができる場を作れば、集団知を活かした学びも可能です。
ここで大事なのは、対話の中で正解が出たことに安心/満足して学びを止めさせないこと。自分が辿った思考を辿り直し、どこでどのような発想を持つべきだったか、何をすべきだったかを考えさせましょう。
次の機会での「より良い取り組み方」の考案と、それを実地に試してみて、手応えを確かめていくことで、学習の改善が進みます。倣ったことを土台に、新たな思考を手に入れることが「破」への入り口です。
❏ 生徒の工夫が見えたら、型を押し付けるのをやめる
課題への取り組み方や、問題の解き方に限らず、勉強の仕方(予習・復習の方法など)でも、生徒が自らの取り組みを振り返り、やり方の工夫をするようになったら、最初に示した「型」を守らせる必要はありません。型に縛れば、「破」への移行が遅れるばかりでしょう。
模擬試験や定期考査への準備でも、先生方の経験知の中から「多くの生徒に合いそうな方法」を提示しておられるでしょうが、その方法がすべての生徒にマッチするとも限りません。一人ひとりが振り返ってやり方を考え出したら、ブレーキを掛けないようにするのが指導です。
教科学習や探究活動に限らず、生活指導においても「守」にとどまらせるのは、好ましくなさそうです。(cf. 生徒に考えさせる授業規律)
最初は生徒の手を引き、様子を観ながら徐々に手を放し、並走に切り替える。その先は、見守る(観察する=目は離さない)ことにとどめるという、段階性を先生方ご自身が踏んでいけるかどうかが問われます。
❏ やり方を考える先には、やるべきことを見つける段階
与えられた課題や、やるべきことに対してどう取り組むかを自分で考えられるようになった(守から破への移行)生徒には、「やるべきことを自ら考え、見つけ出すこと」を目指させていくことになります。
習ったことや、工夫して身につけたスキルなどを使って解決すべき課題がどこにあるかを考え出すことは、「何に取り組むか、自分はどんな役割を引き受けるか」を見つけることにも繋がります。
読んだ資料、聴いた話、観察した事実などを前に、解くべき問題を見つけることに、「離」への道筋が見えてきます。破を積み重ねた先に見えてくる『離』への接続を見据え、そうした学びの場をきちんと整えることもまた、指導者の仕事の一つだと思います。
各教科の学習を通して獲得させたこと(学ばせたこと)を用いて、自分の問題に取り組む機会、すなわち探究活動にきちんと取り組めるかどうかが、守破離を指導計画に実装できたかを測る指標の一つでしょう。
本編でも書いた通り、守破離は「一方通行」で進行するわけではありません。生徒の観察を密に、ときに行き来しながら指導を進めましょう。

本稿をもとにChatGPTで作画しました。クリックで拡大します。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一
