課題研究などの探究型学習に限ったことではありませんが、何かに取り組ませたら、その成果と過程(取り組み)をきちんと評価をする必要があるのは言うまでもありません。
できるようになったことを「たな卸し」することで生徒に自らの成長を自覚させるとともに、これまでの取り組みに足りなかったものに気づかせ、「この先、何にどう取り組むべきか」を考えさせること(=進捗と改善課題を捉えた学びの実現)が評価を行うことの第一の目的です。
また、評価結果に基づき、指導の効果測定をきちんと行わなければ、探究型学習のプログラムを継続的に改善することもできなくなります。
2016/11/09 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 探究方策の獲得に焦点を当てた評価を
評価は、目標に照らして行うものですから、まずは何を目指していたのか、指導する側が明確にしておかなければなりません。
大学院や研究機関での論文であれば、研究内容そのものの価値が問われるのでしょうが、高校での探究学習は成果よりもプロセスに焦点を当てて評価を行うべきだと思います。
例えば、PPDACサイクルをフレームに探究活動を行わせたのなら、
- 疑問に感じたことを問いに立てる
- 疑問を解明する調査方法を立案する
- 適切な方法で十分なデータを集める
- データを分析して仮説を立てる
- 仮説の妥当性を検証する
- 合理的な結論を導く(+表現する)
といったフェイズをきちんと踏めたか、それぞれの場面で目指した能力や資質、スキルや姿勢の獲得がどこまで進んだかを評価すべきです。
例えば、(指導が最も難しいと言われる)テーマ選びの工程でも、「魅力的な、あるいは社会的な意義のある」といった観点で、テーマそのものの良否を評価する必要はないはずです。
むしろ、リサーチクエスチョンを立てるまでに、既にわかっていることを調べ尽くしたか(それでも残った疑問が解き明かす「疑問」であるはず)に着目にすべきでしょう。
❏ 教える側で評価観点と評価規準を共有しておく
活動に取り組ませる前に、先ずは「先生方の間」で、こうした評価観点や基準をきちんと共有しておく必要があります。
基準の確立が必要なのは、公平な評価を行うためだけではありません。評価は育成のために行うものであり、評価基準が曖昧では、指導の方向や徹底の度合いに違いが生じ、成果にもばらつきが出ます。
評価観点等の共有を図ろうとすれば、それぞれの指導観をすり合わせる中で、ご指導に当たる先生方の間での「不備の洗い出し」や「より良いものへのブラッシュアップ」に向けた協働も加速するはずです。
生徒だけでなく、先生方の側でも、知恵と経験、発想を交換し合って、より良いもの(指導/評価の方法)を作り出したいものです。
指導も評価も、最初のトライから万事上手くいくはずもなく、実施を重ねる中で継続的に改善を図る必要があるのは言うまでもありませんが、そこで大切なのはそれぞれが得た知見をしっかりシェアすることです。
❏ 生徒にもあらかじめ評価方法、観点と規準を知らしめる
また、生徒に対しても評価基準を示しておくことが肝要です。どのような方法・観点で評価されるかを知っておけば、それに照らして一つひとつのフェイズにどう取り組めば良いかを生徒は認識できます。
探究活動に限ったことではありませんが、「評価規準を書き出すこと」は、即ち「到達目標を明確にすること」です。
言語化された観点別の評価規準(=到達目標)が示されることで、生徒は初めて自分の取り組みとその成果を客観的に見つめられます。
指導に当たる先生方の側でも、「言語化」というプロセスを踏むことで改めて互いの考えるところが確認ができますし、どこにすり合わせの必要が生じているかも捉えられるようになるはずです。
探究をどう進めるべきか、一定の型/探究活動の作法を生徒に示すときにも、予め/同時に提示する評価基準を拠り所にしないと、生徒が余計なところで混乱してしまうリスクも高まります。
❏ 最終成果だけでなく、中途の各フェイズでも評価
上の例ではPPDACサイクルをベースにしましたが、探究のフレームワークはこれ以外にも色々あります。学校で独自に「探究の手引き」を作っているケースもあろうかと思います。
探究活動は、長期にわたって数々のフェイズを重ねて進めていくもの。まだ何も取り組んでいないうちに、入り口から仕上げまでひと括りに、目標、手順、評価の方法を示されても生徒はピンと来ないはず。
大まかな流れを示しておくことは、展望を持って取り組ませるのに欠かせませんが、細部まで踏み込んだ説明/ガイダンスを一気に行ったところで、得られるものは大きくなさそうです。
活動のフェイズを一つひとつ進めながら、「今この場面で求められること」と「取り組みの手順」を順番に伝えていく方が効果的です。
当然ながら「伝えっぱなし」では指導は実を結びません。そのフェイズを終えるところでは、生徒自身にしっかり(=直前に伝えたことに沿って)振り返りをさせるとともに、先生からも評価を行いましょう。
振り返りや評価をしたところをゴールにせずに、そこからの「必要な仕上げ」を徹底させることの必要性は言うまでもありません。
各フェイズでの学びと成果を確かなものにしないことには、最終的に出来上がるもの(論文や発表)も完成度の低いものになるばかりか、一連の活動で目指した「能力・資質、スキルの獲得」も覚束なくなります。
最終的に仕上がったレポートや成果発表会でのプレゼンテーションだけを見て行う「探究活動の評価」では、不十分だということです。
❏ 探究活動が、自分の将来と向き合うことに繋がったか
各フェイズへの取り組みを経て、探究活動のプログラムを完走したときの評価は、取り組みの前と後に生じた「変化」に着目して行います。
別稿「探究活動の効果測定アンケート」でも書いた通り、指導期間を挟んで観測された差分こそが、そこで得られた指導の効果です。
探究活動を通して獲得を目指したのは、対象(研究テーマ)についての知識や理解だけではないはずです。「コンテンツ(内容)を学ぶことを手段に、コンピテンシー(能力・資質)を獲得することを目的とする」のは、各教科の学習も探究活動も同じです。
21世紀型能力で言うところの「基礎力」「思考力」「実践力」の獲得がどこまで進んだか、探究活動に取り組む前後(ビフォア/アフター)で比べてみる必要があるということです。
言語、数量、情報を扱うスキルがどれだけ向上したか、思考力の「問題発見力」や「創造力」をどれだけ発揮したか、実践力としての「社会参画力」や「持続可能な未来への責任」が芽生えたかなどが、生徒の取り組みと先生方の指導を振り返るときの視点になるはずです。
授業を通して21世紀型能力は育めているかという視点を、総合的な探究の時間の指導でも持ち続けることが先生方に求められます。
進路希望調査の段階と、志望理由書を書き上げたときで「学ぶことへの自分の理由」がどのくらい具体化しているか、深いものになっているかには、探究活動の成果が端的に表れるのではないでしょうか。
記録を残しておかないと、前後の違いを比べることはできませんので、体験や学びのたびにリフレクションログを残させたり、進路関連のワークシートをきちんとファイリングさせたりすることもマストです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一