教育目標から自己点検に用いる評価規準への書き出し

建学の精神や教育理念のもとで各学校は教育目標を定め、その達成のために教育活動を行っていますが、学校評価アンケートなどで生徒に「教育目標に掲げられた『目指すべき人物像』に近づけているか/近づけそうか」と聞いてみると、なかなか力強い答えが返ってきません。
教育目標は「ただ掲げているもの」ではないはずですし、その達成には先生方のみならず、生徒自身にもコミットメントが期待されるところではないでしょうか。
たいていの場合、理念的・抽象的な言葉でかかれている教育目標(建学の精神や教育理念も同じですが)は、そのままの表現では、生徒が自分の生活の中に落とし込んで向き合うには少々難しいところがあります。
生活・学習・進路の各領域において、学年ごと/学期ごとに「教育目標への接近が図られたときに現れるであろう行動や姿勢、考え方など」を生徒を主語にしたセンテンスに書き出してみるのは如何でしょうか。

❏ 教育目標から観点の切り出し+規準をセンテンスで

生徒が「自分は目指すべき人物像に近づけているのか」という視点で自己評価を行う中で、「今の自分に何が足りていないのか、これから何をすれば良いのか」を見いだしていくことは、教育目標の達成に接近するための具体的な行動を取る/選択する上で欠かせないはずです。
如上の自己評価を行わせるための準備が、「教育目標からの自己点検に用いる評価規準への書き出し」に他なりませんが、ここで押さえるべきは「段階性」「観点」「(評価の)場面」の3つです。
当然ながら、教育目標は3年間/6年間をかけて段階的にその達成を図るべきものですから、入学間もない生徒と卒業を間近に控えた生徒とでは、到達を目指す「段階」が違いますので、自己評価の規準にはきちんと段階性を設けておかなければなりません。
高校を卒業したところで人格が完成するわけでもないでしょうから、教育目標が描く理念を、長い人生を歩む中で実現していく入り口にしっかりと立つところまで行ければ、現実的なところで、学校の役割は十分に果たし得たことになろうかと思います。
また、人物像を包括的/総合的に描いた教育目標のままでは、自己評価は漠然としたものになってしまいます。明確な観点が必要です。
教育目標に記述や含意されているところから、評価に際して着目すべき能力・資質、姿勢・行動を「観点」に切り出すことが最初の作業です。
また、評価を行うには相応の「場面」が不可欠です。何もしていないときに内省だけを巡らせても、評価に具体性は伴わず、ぼんやりしたままか、かえってわけがわからなくなります。

❏ 評価を行わせる機会は、指導計画の中に組み込み

生活・学習・進路の各領域での活動/指導計画の中に、「評価を行うのに好適な場面」を探すことになりますが、学校行事や体験活動を終えたときや、考査・模試の結果が戻ったとき、進路指導における選択の機会などがこれに当たると思います。
教育目標から書き出した「観点別の段階的な評価規準」を用意し、年間行事予定、シラバス、進路指導計画の中にそれらを適用して自己評価を行わせる機会を設定するということです。
観点別に段階的な評価規準を表組に調えたルーブリックを用意するのが理想ですが、出来上がりを待っては指導の開始がいつになることか。
場面に応じた自己評価規準がひとつふたつと書き出せたら、まずはそれらから生徒の自己評価に使わせてみて、必要な修正を施しながら徐々にルーブリックの完成を目指せば良いのではないでしょうか。
評価規準は使いながらブラッシュアップすれば良しとするのが、停滞を生まず、より良いものの定立に確実に近づくベストの方略です。

❏ 規準の書き出しと理解を通して、先生方の目線合わせ

教育目標から、生徒が自己点検に用いる観点別の段階的な評価規準を書き出すプロセスは、先生方にとって教育目標の再確認とより深い理解の機会です。作業を通して、達成へのコミットメントも高まるはずです。
生徒に自己評価に臨ませるにも、個々の評価規準を教育目標や建学の精神・教育理念に関連付けて説明することで、冒頭に書いた「教育目標への達成/接近」という意識を生徒に持たせることができますが、評価規準の書き出しに関わっていないとそうした説明も難しくなります。
まずは先生方が、個々の規準が教育目標のどこと関わり、どの段階を想定しているのかしっかり考えておく必要があります。
お一人で悶々と考えても、行き詰ったり大事なところを見落としたりするかもしれません。生徒に自己評価を行わせる場に臨む前に、それぞれが考えたところを持ち寄って、すり合わせ/目線合わせをしましょう。
なお、生徒への説明では、先生が一方的に説明して話を聞かせるだけでは、「押しつけ感」が前面に出てしまいそうです。生徒にも「この規準は、教育目標のどこと関連しているのか」と尋ね、考えさせたり話し合わせてみたりするようにしたいところです。

❏ 自己評価の結果は、指導の成果を検証する指標

こうした準備を経て生徒に自己評価を行わせるのは、教育目標への接近に、生徒自身にコミットさせることが第一の目的ですが、評価の結果は先生方のそれまでの指導の成果を表す指標です。
評価の機会を設定して、観点別に自己評価をさせたわけですから、それぞれの集計結果に表れる「成果」には、指導を担当した分掌・学年として向き合うこと/成果へのコミットメントが期待されます。
もし、評価規準が最適化されていないことが原因で「成果が歪められている可能性」があるなら、その最適化を図る議論を行いましょう。議論を通して、目標をより良く理解し、共有をより強固なものにできます。
生徒の自己評価と先生方の見立てとを照らし合わせてみて、不一致が大きいようなら、規準の理解が生徒と先生方の間で共有されてないということです。理解の正しい共有を目指した「評価機会に向けた生徒へのガイダンス」の内容や方法を見直してみる必要があろうかと思います。
個々の機会における自己評価が改善し、指導の成果が現れているのに、学校評価アンケートでの「教育目標に掲げられた『目指すべき人物像』に近づけているか/近づけそうか」という質問には大きな変化が出ないとなれば、評価規準と教育目標の関連付けに改善点があるはずです。
授業評価アンケ―トと同時に行う「生徒意識調査」にある「担任の先生が生徒にどんな行動を期待しているか、はっきり理解できる」への回答も、関連付けがうまくできているかを窺い知る材料になりそうです。
伝統校であるほど、建学の精神や教育理念が書き出されてから長い時間が経過しています。校是を新しい時代の趨勢に合わせて「読み替え」ていかないと、適切な関連付けは難しくなっていくばかりです。

❏ 確立すべきは、教育目標への接近を図るPDCA

教育目標と関連付けた評価規準を用い、目指すべき人物像への接近に向けた生徒のメタ認知を高めていきましょうというのが本稿の主旨です。
振り返りに際して明確な「基準」が整えば、総合的な学習/探究の時間や進路指導/キャリア教育で主に用いる「ポートフォリオを用いた評価と指導」もより実りのあるものになるはずです。
学校評価アンケートで「教育目標が描く人物像に自分は近づくことができそうだ」と答える生徒が徐々に増え、卒業を間際に控えた生徒の多くが肯定的な回答を寄せてくれたら、先生方の日々の実践、3ヵ年/6ヵ年の教育活動が十分な成果を得たことになるのではないでしょうか。
明確な基準に照らした自己点検と課題形成で形成される循環(=生徒一人ひとりが教育目標の達成に近づくためのPDCAサイクル)が確立できているかどうかが成否を分けるのは容易に想像がつくところです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一