授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識”

言うまでもなく、教科学習指導の土台はホームルーム経営です。生徒が互いに刺激し合う(=相互啓発が働く)学びの場は、個々の生徒の学力や技能の向上を支え、学習を通じた成長/進歩を大きくします。

クラスが「成長の場」として機能するかどうかは、「係や当番の仕事」がどれだけ機能しているかや、担任の先生が「期待する行動」をきちんと打ち出しているかなどによって左右されることもわかっています。
定期的にアンケートを取り、これらの評価項目における生徒側の認識を捉えて、より良い学びの場の創出と維持を図りましょう。

2015/06/04 公開の記事を再アップデートしました。

授業評価と同時に行う生徒意識アンケートは、学びのコミュニティであるホームルームのあり方についての認識を尋ねる前半部分と、生徒自身の成長や変化に関する自己認識を質す後半部分から成り立っています。
後半セクションでは、一定期間を経た同じ集団から得られた回答分布の変化から、その期間における指導の成果を確かめることができます。
伸び幅などをクラス間で比べてみれば、効果的な指導法の所在にも当たりがつくはず。そこでの手法を共有し、先生方の協働で更なるブラッシュアップを図れば、より良い指導法の開発は大きく加速するはずです。

推奨質問パターン(生徒意識:学級経営&好適資質の獲得)

【連絡の徹底】ホームルームを通じ、学校からの連絡はもれなく伝えられている。
【期待する行動】担任の先生が生徒にどんな行動を期待しているか、はっきり理解できる。
【公平な指導】担任の先生は、生徒の言い分によく耳を傾け、公平に接してくれる。
【整理整頓】教室は、いつも整理整頓され、勉強に集中できる環境が保たれている。
【係の仕事】学級の係や当番は、それぞれがきちんと必要な役割を果たしている。
【成長の場】私のクラスは、生徒が互いに刺激し合い、ともに成長している。
【相談相手】困ったことや悩みがあるとき、信頼して相談できる相手がいる。
【共生の資質】私は、立場や考えの異なる相手の意見にも耳を傾けられるようになった。
【行動選択】私は、進路のことや今何をするべきかを考えて行動できるようになった。
【規律ある生活】私は、規律ある生活を送るとともに、集団生活のマナーを守れるようになった。

 

❏ 評価項目は、より良い学びの場を実現するための要件群

冒頭で触れた通り、上の質問リストにある「成長の場」は授業評価における「授業を受けて学力や技能の向上、自分の進歩を実感できるか」を大きく左右し、且つ「係の仕事」などからの影響を強く受けます。
これまでに蓄積した様々なアンケートでのデータの解析を通じて明らかになった「各項目の相互作用」を踏まえて、
 生活・学習・進路の各領域で生徒をより大きく成長させる要件

 クラスを互恵意識と相互啓発で結ぶために必要なことがら
などを抽出し、センテンスに書き出したのが質問リストの各文言です。
言うまでもなく、学習の結果は測定項目を明確にしたテストで測り、生徒の活動は規準に照らした観察によって測定しますが、生徒の意識やその変化は質問紙法や面談法を用いて把握するしかありません。

より良い学びの場を作り、維持するには、学びの主体である生徒の認識を質しながら、改善すべきところを見つけていく必要があるはずです。

❏ データを用いて優良実践の抽出と共有+教科との連携

手元に蓄積したデータを検証してみると、学級経営評価におけるクラス間の差は、教科学習指導での授業間の差より大きい傾向にあります。
教科学習指導では、考査や模試の結果に基づく効果測定が継続的になされ、改善に向けた課題形成の機会が整っているのに対し、学級経営では定量的な現況把握があまり行われていないことが原因の一つでしょう。
学級経営に何らかの問題点を抱えたとき、それに気づくのが遅れれば、問題は拡大しかねませんし、すぐに対処して、そこで新たにノウハウを得ていく先生と、現況把握と改善に後手を踏んだ先生では、指導スキルの蓄積にも、小さからぬ違いが生まれてくるはずです。
クラス間の差が大きいということは、優れた実践が共有されていないことにほかなりませんが、逆の見方をするなら、相互キャッチアップだけで指導技術の底上げが容易に図れるということでもあります。
アンケートの結果を使って優良実践を探し出して、相互の実践報告などを通じて共有していけば、クラス間の差異は縮小に向かい、学校全体での改善が急速に進むはずです。
学級経営の成否には、各教科担当者の働きかけによるところも小さくありません。学年団と教科担当がスクラムを組む上でも、クラスの現況を把握できる指標を互いに共有することが大切だと思います。



生徒による授業評価&生徒意識アンケートでは、上記の標準質問のほかに独自項目を2つ追加できる枠を用意しています。学校の教育目的や建学の精神、あるいは導入した新たな試みや重点課題についての評価項目を加えることをご検討下さい。

手応えをしっかり確かめながら進めない取り組みは形骸化が早いもの。中長期に亘る改善活動の中で実現を目指す事柄には、きちんとした評価指標を設けることが大切です。
如上の質問リストを先生方が手元におき、ときどき自分の担当クラスのことを思い浮かべて自己点検してみるだけでも、改善すべき点に気づくことが多いのではないでしょうか。
■関連記事:

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

この記事へのトラックバック

授業評価アンケートの質問設計~まとめと追記Excerpt: 昨日まで、授業評価&生徒意識アンケートの質問設計について、それぞれの評価項目に込めた意図や改善のための着眼点などの整理を試みてきました。シリーズで取り上げたのは、標準的なケースを想定した推奨パターンによる質問群です。 座学・講義系の授業での評価項目実習・実技系の授業での評価項目生徒意識調査(学習環境/資質・姿勢の獲得) 学校が掲げる教育目標によって、項目ごとに別のものに入れ替える「調整」が必要な場合もあるはずです。質問文の一つひとつひとつは、学校全体で実現を目指したい「校是たる授業」の...
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2015-06-19 08:14:19
授業評価の結果から(記事まとめ)Excerpt: 今期も多くの学校で授業評価アンケートをご利用いただきました。改めて御礼を申し上げます。お預かりしたデータの集計・分析を行いながら、気づいたこと、検証してみたことを当ブログで記事にしてまいりました。わずかでもご参考なる部分があれば光栄です。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2015-07-28 06:13:56
学校評価アンケートをどう活用するか #INDEXExcerpt: 生徒募集は、学校の教育について、認知→理解→共感というステップを経て、最終的に選択してもらうことで成立する活動です。認知→理解→共感→選択という4ステップは、学校に限らずすべての広報活動を考えるときの基本スキームです。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2015-10-01 05:47:12
授業評価アンケート~正しい活用と質問設計Excerpt: 2016-05-12 更新 授業に限らず、評価は改善のために行うものです。目標までの差分を明らかにすることで、次に何をすべきかが特定できます。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2016-05-12 05:52:28
学校評価アンケートの質問設計Excerpt: 多くの学校で実施されている学校評価アンケート。学校行事が一巡するとともに、来年度の教育活動の計画づくりに着手するこの11月から年末にかけてが実施のピークのひとつのようです。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2016-10-21 06:01:43
生徒による授業評価Excerpt: 1 授業評価アンケート~正しい活用と質問設計1.0 授業評価アンケート~正しい活用と質問設計 1.1 講義・座学系の授業評価項目・質問文 1.2 実習・実技系の授業評価項目・質問文 1.3 授業以外について尋ねておくべき生徒の意識 1.4 授業評価アンケートの質問設計~まとめと追記 2 集計結果を解析してわかっきたこと2.0 授業評価の結果から(記事まとめ) 2.1 先生の言葉が聞き取れない!? 2.2 年度の後半で授業評価が下がる? 2.3 理解の確認を怠ると… 2...
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2017-01-19 07:24:23
学級経営、生徒意識の把握Excerpt: 1 授業評価アンケートと同時に行う調査1.1 学級経営を定量的にとらえて知見の共有を 1.2 授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識” 2 アンケートで探る“学ぶ側の認識” 2.0 アンケートで探る“学ぶ側の認識” (序) 2.1 アンケートで探る“学ぶ側の認識”(その1) 2.2 アンケートで探る“学ぶ側の認識”(その2) 2.3 アンケートで探る“学ぶ側の認識”(その3) 2.4 アンケートで探る“学ぶ側の認識”(その4) 3 学級経営に関する評価項目3.1 生徒意...
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2017-01-20 07:09:20
授業評価アンケートを行うときの最小要件Excerpt: 生徒による授業評価アンケートは、「より良い授業の実現/授業改善」を目的に、現状の把握と課題形成を図り、これまで重ねてきた改善行動の効果を測定するためのものです。喩えるならば、健康の維持と増進を目的とした場合の「定期健診」と同じような位置づけでしょうか。この目的のためにアンケートの結果を有効に活用できるかどうかのカギは「質問設計(評価項目と質問文)」と「集計方法」にあります。
Weblog: 現場で頑張る先生方を応援します!
racked: 2017-03-16 07:38:41