異なる意見に耳を傾ける姿勢

立場や考えの異なる意見にも耳を傾けることは、独善や拘りから離れて正しい判断を広い視野で行えるようになることを意味します。共生社会で生きていく中、協働で課題の解決に取り組むときや賛否の分かれるイシューを論じる時、あるいは自ら取るべき行動の選択を迫られたときなど、こうした資質と姿勢が求められる場面は少なくありません。

2015/06/16 公開の記事を再アップデートしました。

生徒意識アンケート⑧ 異なる意見に耳を傾ける姿勢
私は、立場や考えの異なる相手の意見にも耳を傾けられるようになった

❏ 共生の資質と、正しい判断の土台となる多様性

共生社会で暮らす上で欠かせない資質や姿勢の獲得を、指導を通じてどれだけ後押しできたかを測る指標の一つとして、この質問への回答分布とその変化には十分な注視が必要だと思います。
多様な価値に触れて自らの考えを相対化することを求め、判断の軸足をどこに置くべきか考えざるを得ない状況をどれだけ多く作ってあげられるかが、この質問へのYESを増やしていけるかどうかを分けます。
アンケートの回答分布を見て、生徒の自己認識を確かめながら、その場で必要な刺激や支援を戦略的に与えていくことで、社会を生きるために必要な資質・姿勢の獲得をより高い水準で目指しましょう。
ただし、数値化されるのはあくまでも生徒による自己評価。アンケートの結果に一喜一憂したり、鵜呑みにしたりすることなく、先生方の目を通した観察/評価結果と突き合わせることで初めて、生徒の成長と今後の課題を正確に把握できるようになるはずです。

❏ 回答分布で指導の成果/生徒の成長を測る

この質問に限らず、好ましい資質の獲得に関する自己認識を確かめる評価項目では、学年が上がり、学期が進むに従って肯定的な回答が占める割合が上昇するのを期待したいところです。
肯定的な回答の占める割合が高まっていれば、そこまでの教育が一定の成果をあげ、生徒が成長しつつあると考えても良さそうです。
実際のデータを見てみると、入学後の早いうちから上向きに動き出すこともあれば、長期間をかけてゆっくり向上するものもあります。改善が連続して積みあがらずに「谷」を作ることも少なくありません。

周囲からの刺激を受けたり、進級などを機に求められるものが高度化すれば、自己評価のモノサシも変わり、より厳しい自己評価をするようになるのは当然の帰結です。上のデータでも高校進学を機にそうした現象が起きている様子が見て取れます。
自己評価が高いところに張り付いて高止まりしているときは、要求水準を少し引き上げることで、生徒のより一層の成長を促す好機です。次のステージに向けた「期待する行動」をしっかり示していきましょう。

❏ 異なる意見に耳を傾ける必要に迫ることで成長を促す

立場や考えの異なる相手の意見にも耳を傾ける姿勢は、放っておいて身に付くものではありません。
協働で課題の解決に取り組む場、例えば学校行事に向けた準備をクラスで進めていくときなど、利害の対立を超えて落としどころを見つけなければならない状況に置かれてはじめて、生徒はこうした資質の大切さとそこで採るべき行動を学ぶのではないでしょうか。
係の仕事との間に観測される比較的強固な相関も、如上の仮説を裏付けます。学級・学年経営では、「一人ひとりが役割を持つ場=当事者として課題に関わる場」を設けることに注力しましょう。
異なる意見に耳を傾けた結果、上首尾に事が運んだという成功体験は、反復への欲求を刺激する快体験。別の機会にもそれを再現したいという欲求が意識の中に生まれ、次からの行動にも変化が生じるはずです。
仮に、そこで互いにハッピーな結果が得られなかったとしても、体験を通じて感じたことは、意識のどこかに残り、次の機会での行動を修正することに役立つはずです。
教科学習指導の場でも賛否を違える意見に触れる場を作れば、ホームルームでの指導の効果と相俟って、生徒にさらに大きな成長を促します。別稿で紹介した「論点(イシュー)を使った単元導入」などは、多様性の獲得や傾聴スキルの涵養にも、積極的に活用すべき手法です。

❏ クラスの状況を相対化して把握する

この質問に対する肯定的な回答の割合や一定期間を経ての増加率には、クラスごとにかなりの違いが観測されます。
あるクラスや学年の単年度の集計結果だけを見ても、好ましい状態にあるのか、改善を要するのか判断がつきません。
集団間の比較ができる仕組みを整えたり、定点観測をしたりすることではじめて、評価対象の状況を相対化することが可能になります。データを下図のように整えれば、学年内での相対的な位置の把握や優良実践の抽出、一つ上の学年の1年前との比較なども容易にできます。

 

上側のひげに含まれる/過年度の実績値を大きく超えるといった、高い評価を得ているクラスをデータの中に見つけたら、そこでの取り組みを調べてみることで、倣うべき指導法の抽出や共有を図りましょう。
実際、データを使って高い評価を得たクラスを特定し、クラス担任の先生にインタビューしてみたことで、「協働場面での行動に関する自己評価に用いるルーブリックを活用していた」「ポートフォリオに残された行事ごとのリフレクション・ログから好適な記述を抽出し、クラスでシェアしていた」といった取り組みが「発掘」されたこともあります。

❏ アンケートに答えさせることで内省を促す

アンケートには、好ましい資質の獲得に関して、生徒自身に自己認識を深めさせる機能も備わります。質問に答えようとする中で、自分に足りないものに気づけば、それを補う姿勢も生まれるきっかけを得ます。
中には、質問文の意味を深く理解することなく、甘い自己認識でYESと答えている生徒がいるかもしれません。
先生方の観察による見立てと、生徒が選んだ回答が一致しないと感じたときには、質問文の意味を深く考えさせるべく「異なる意見に耳を傾ける」とはどういうことかを生徒に投げかけ、考えさせてみましょう。
各教科の学習や様々な教育活動を通して獲得を図った様々な能力や資質は、日々の生活の中で発揮してこそ、意味のあるものになるはずです。教室という限定された環境下でしか発動しない資質では、「生きる力」にはなり得ません。
生徒意識アンケートの他の質問と一緒に尋ねることで、教科ごとの学習/個々の活動場面というフォーカスの限定を外して、日々の生活全体を振り返らせることにも小さからぬ意味があるのではないでしょうか。

授業のこと以外にも尋ねておくべき“生徒の意識”
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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