課外活動も、21世紀型能力の獲得を目指して

昨今、その在り方が問われることが多い部活動ですが、学校が関わる活動である以上、学力や能力、資質(「学力の三要素」や21世紀型能力における「基礎力、思考力、実践力」に挙げられているもの)の獲得を図る場としての機能が、何よりも優先されるべきだと考えます。
これは部活動に限らず、生徒会活動や学校行事、ホームルーム活動なども含めたすべての課外活動にあてはまるはず。部活動では、外部に指導を委託する場合も、ここはしっかりと共通認識を持ちたいところです。


cf. 全教科でコミットすべき能力・資質の涵養

❏ 練習メニューを生徒に考えさせる中でも

熟練した指導者(監督、コーチ)が練り上げた計画に沿って、メニューを着実にこなしていくことが、多くの場合、勝利/部活動としての実績向上への「最短ルート」なのだろうと思います。
しかしながら、多少の遠回りになるかもしれませんが、生徒が自ら試行錯誤を重ね、効果的な練習計画を立てて実行していく中でこそ、適応的学習力(=振り返りながらより良い方法を見つけ出していく力)や自律的活動力などの、思考力や実践力を獲得するチャンスも増えるはず。
練習計画を起案する前には、参考になる書籍で勉強したり、ネットで検索したりしながら、先人たちの知恵に学ぶこともあろうかと思います。巨人の肩の上に立つことの大切さを学ばせていきましょう。
動画などをみながら生徒同士で話し合い、より良いパフォーマンスに近づく方法を考え、練習の重点ポイントを設定していく過程には、観察をタスクに「問題発見力」を育てることに通底するものがありそうです。
様々な考え方の中から最善(=自分たちに最もよく適合する)と思えるものを選び(あるいは組み合わせて)、実行してみてその効果を確かめるのは、仮説を立てて検証する探究活動のプロセスにも似ています。
深く考えることなく、振り返りもないまま、根性だけで練習をこなしていくよりも、結果も良いものが期待できるのではないでしょうか。
考えた練習計画について、チーム内で意見がぶつかり合ったときに、話し合いながら互いが納得できる「落としどころ」を探るのは、協働性や人間関係形成力の向上を図る好機にもなろうかと思います。
思い浮かぶままにざっと書き連ねてみただけでも、獲得の機会を持ち得そうな能力や資質は実に様々。知恵を凝らせばもっと増えるはずです。
勝利や入賞といった競技実績への拘りを少し抑えざるを得ないかもしれませんが、教育機会としてのポテンシャルは大きく膨らみそうです。

❏ 部活動の位置づけを学校として明確に

生徒や保護者、ときには指導者の「勝利への欲求」を満たすことより、部活動などを通した多様な能力、資質の獲得を図ることを優先するというスタンスを、学校が取ることにも十分な合理性があると思います。
好きで入った部活なら、生徒は「思う存分部活動に取り組みたい」と思うでしょうが、限りある時間で最大効果を得る工夫をしたり、勉強などの他の活動と時間配分のバランスを取ったりするのも学ぶべきこと。
活動に充てられる時間に制限がかかり、「好きなことを思う存分できない」ときにこそ、効果を最大化するための工夫や自律的に行動をコントロールするための思考や判断が促されるのではないでしょうか。
個々の活動(学習、探究、進路、課外活動)で得た成果の「総量」を最大化するには、どちらかに全振りというわけには行かないはず。中には課外活動の方が、効率的に育める能力や資質もあろうかと思います。
様々な活動に、自分の持つリソースを効果的に配分し、「やりたいこと/やらなければならないこと」の双方をより良く同時に満たせるようになることこそ、学校における「文武両道」の理念かもしれません。
学校としてのスタンス/指導方針は、生徒が入学してくる前に(生徒募集の段階で)しっかりと示し、理解を得ておくべきであるのは言うまでもありません。「入ってみたら話が違った」では、互いに不幸です。
部活動や生徒会活動に、学校がどのような教育的な役割を与え、内容や運用方法を決定しているか、説明を尽くしてすべてのステークホルダーの納得を得ておくこともまた、学校の「経営責任」のひとつです。

❏ 課外活動の中で生徒に取り組ませるべきタスク

部活動や学校行事など、生徒が主体となる場面で、取り組ませるべきタスクと、そこで獲得を狙う能力や資質について、どこかのタイミングで校内の議論をしっかりと行っておきたいところ。例えば、

試合や発表、行事本番を迎えるまでの計画立案やその進捗管理自律的活動力
様々な観察を通して行う、より良いパフォーマンスに向けた課題の発見問題発見力
如上の課題への解決策の考案/計画化と、実行後の振り返りを経た修正

創造力、

適応的学習力

チーム内外で生じた意見や考えの対立などの解消、納得解の形成

社会参画力、

協働性


といったところは、これまでも意識されていた先生が多いかと思いますが、校内で遍く、温度差なく共有されているとは限らないと思います。
各領域(観点)で「段階的評価規準」を書き出してみると、同じ目線だと思っていたところに、想定外のギャップが見つかることもあります。
また、先生方の間で共通認識として確立していたとしても、生徒募集の際に「学校のスタンス」として明示してきたか、生徒や保護者の理解と共感を得ていたかは、改めて点検してみる必要もあろうかと思います。
ちなみに、説明責任を果たしてきたかどうかは、「説明を行ったか」ではなく、「相手の納得が得られたかどうか」で判定すべきものです。

❏ 顧問間での指導知見の共有や協働開発も可能なはず

部活動の指導を、競技能力や協議実績の向上を目指したものと考えていたら、そこで求められる指導技術や知見は競技ごとに異なりますので、部活間でのノウハウの交換は、限られた範囲でしかできません。
しかしながら、目指すものが「学習指導要領やその検討の土台となった21世紀型能力に記述されている学力要素や能力、資質の獲得」であれば、日々の授業や探究活動の中で個々の先生方が培ってきたノウハウも活きるでしょうし、部活を跨いで共通する部分も多いはずです。
そもそも、経験豊富な競技指導者をすべての部活動に配置するのは、現実的にかなり難しいのではないでしょうか。人材における需要と共有のミスマッチは、あちらこちらで歪みを作ってしまいますが、学校が如上のスタンスを採ることで、解決できていく問題もあろうかと思います。
少なくとも、ご自身で競技経験もないところで顧問に割り当てられ、指導者としての振る舞いを求められたときの負担とプレッシャーは、幾分かは軽減できるのではないでしょうか。
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競技能力を高め、戦績を上げさせることで達成感や自信を持たせることにも、非常に大きな意義があると思います。放課後に仲間と楽しい時間を過ごす環境を与えてあげることも大事なことだろうとは思います。
しかしながら、それだけでは、学校が関わる「教育活動」としての位置づけに、説明力を欠く部分がないでしょうか。すべての活動を「教育目的」と結びつけ、その役割を考えてみる必要があろうかと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一