将来を見据えた行動選択

先に控える選択の場や待ち受けるハードルを見据えて、今やっておくべきことは何かを正しく判断し、具体的な行動に起こせることは、かけがえのない時間を有意義に過ごすのに欠かせないものです。
生徒には、生活・学習・進路の各領域での様々な体験と学びを重ねながら、「望ましい行動を選び出して実行する姿勢とその方法」を身につけてもらいたいもの。獲得がどこまで進んだか、先生方の目での行動観察とアンケート結果を併用し、しっかりと見極めていきましょう。

2015/06/17 公開の記事を再アップデートしました。

生徒意識アンケート⑨ 将来を見据えた行動選択
私は、進路のことや今何をするべきかを考えて行動できるようになった

数か月後、半年後に迫るハードルや選択の場を折にふれて伝えつつ、今の自分がなすべきことを考えさせる指導は、この質問を与えて生徒に自分の行動を振り返らせることで、その効果を一層大きくします。
クラスごと、あるいは学年全体でのこの質問への回答分布を追跡してみると、各集団における成長の進み具合/遅れの度合いも捉えられますので、今後に向けてどんな手を打つべきかを判断する材料も得られます。


なお上図にある通り、如上の質問への肯定率が入学直後には高く出て、その後わずかな期間に肯定率が大きく下がるのはよくあること。以前と異なるタスクを前に自分が正しい戦略が描けないことに気づいたということであり、好ましい資質・姿勢の獲得に向けたスタートです。
これまでの自分のやり方や行動パターンを全肯定しているようでは、本当にやるべきことに気づけず、その先の成長は鈍くなるばかりです。

❏ まずは、振り返りを通して次に向けた課題形成

日々の学校生活の中、次々と目の前に現れるタスクをただこなしていくだけでは、「先を見据えて、戦略的に考えながら行動する」という状態とは程遠いように思えます。
半年後、1年後に控えているハードルや選択の場をしっかり認識することが「先を見据えて」の大前提ですが、同時に、これまでの自分を振り返り、足りていないものは何かを見出し、それをどのように補っていくか、立ち止まって考える機会を定期的に持つ必要があります。
模擬試験や定期考査、学期の切り替わりなどの「節目」ごとに、生徒がそれまでの自分を振り返る機会を設けるのは、先生方のお仕事です。

また、日々の生活の中で生徒が個々に得た気づきや考えたことも、そのままにしては、具体的な課題や行動目標として生徒の意識に刻まれる/根付く前に揮発してしまいますので、しっかりと言語化して文字に残すことを早いうちから習慣化させていきたいところ。
メモや日記、ポートフォリオのリフレクション・ログなどに残した気づきと思考の記録は、生徒一人ひとりがこれからのことを真剣に考えるときの大切な「対話の相手」になり得ます。

当然のことながら、振り返りには「基準」になるものが不可欠です。生活・学習・進路の各領域で/用意した学びの機会毎に、期待するところを先生方がしっかりと伝えておくことは、より的確な振り返りを生徒ができるようになるための前提作りであるとお考え下さい。

❏ 判断力は、多様性に触れて相対化する中で得られる

今、何をするべきかを考えるといっても、現時点で自分の想像できる範囲で思考を巡らしているだけでは、行動の選択肢は増えませんし、どの選択がベストなのか広い視野で判断することもできません。
先輩たちなどが選択の場を迎える場面で考えたことや、そこに至る活動の中で学んだことなどに直接・間接に触れることで、「自分の考えや行動を相対化する機会」を用意してあげることが必要です。
但し、お手本を示してそれに倣えというだけでは、そこに選択の必要は存在せず、判断力を高める機会にはなりません。彼我の違いに気づき、振り返り、考えるきっかけを持たせることこそが求められます。
様々なモデルに触れて同級生が何を感じ、どう考えたかを知ることもまた、より確かな判断軸を持つきっかけになります。進路行事などを経て生徒たちがポートフォリオに記載したものから好適な記述を抜き出して学年通信などでシェアするのも有効な指導になるはずです。

❏ 思考の及ぶ範囲を押し広げる~評価と問い掛け

しっかり考えて行動を選択しているかどうかについて、生徒の側での自己認識と、先生方の目での評価とが大きく食い違うことも少なくないと思います。経験の量やそこで得てきた知恵や教訓の差が、必要と思う事柄の範囲(満たすべき要件への認識)の違いに現れます。
それを「当たり前のことだから」と放置しては、成長は遅れるばかり。積極的な働き掛けが必要なのは言うまでもありません。きちんと評価を行い、的確なフィードバックを行うのは指導者に期待されるところ。

これとは逆に、生徒が気づけるようになるのを待たず、先生方が先回りしてしまい、生徒が取るべき行動を指定して従わせるだけでは、「考えて行動できるようになった」という状態への到達は難しいはずです。
気付いていないことに少しずつ気づかせるべく、問い掛けを重ねていくのが好適です。生徒の側でも、反発を覚えず、そこで暗に示された知恵を少しずつ自分のものにしていけるのではないでしょうか。
面接などで個々の生徒の指導に当たる時にも、「最適解を示すことより選択の力を養うこと」を意識の真ん中に置いておくことが大切です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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